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カール・ドライヤー内側からの切り返し表
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正面表(人物が映画内でキャメラを正面から見据えたショットの数 |
分断表(内側からの切り返しによる分断)。 左から1ショットの秒数 1時間のショット数 総ショット数 上映時間 『分断』の数 別々に撮られている→『分断』は基本的に別々に撮られているので今後『別々に撮られている』という記述は省略する。 切り返しについて ■原ショット AとBとが同一画面に撮られていてその次にAが撮られたときその時点では切り返しとは数えずそれを「切り返しの原ショット」(起点のショット)とし、その次にBが撮られて初めて「切り返された」として1回目の切り返しと数える。 ■ショットのあいだに字幕が入る場合『分断の映画史・第二部』では2ショットとして数えていたが今後は1ショットとして数える。 ■切り返しに関する説明は赤文字で書かれている。 ■は狭い空間で人、セット、人をどかしながら撮られた切り返し。 ■エスタブリッシング・ショットの不在とは、場所的関係が撮られていないこと。 ■アイリスの有無については『分断』の「照明の修正」に関連してコメントあり。 ■『正常な同一画面』と同一画面とはほとんど同義。 |
左から、内側からの切り返し、外側からの切り返し、クローズアップの数(人間に限り手紙、道具類は含まれない)、平行モンタージュのある、なし。 ●内側からの切り返し、逆からの切り返しについてのコメント ■外側からの切り返しについてのコメント。「視点転換」とは古典的デクパージュとは無関係な切り返し。 ★クローズアップについてのコメント。 ▲平行モンタージュについて その他の細部 |
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1918 | 裁判長Prasidenten デンマーク 公開 スウェーデン 1919年2月 デンマーク 1920年2月 |
はっきりはなし。 | 8.57 420
588 84 19世紀末、死期の迫っていることを察した老人フランツ(エリート・ピオ)は尽きてゆく砂の時計を見やりながら、栄華を誇った先祖から受け継いだ今はさびれた館跡へ息子(ハルヴァーズ・ホーフ)を連れてゆき、自分は家訓に背いたことを告白する。それによると彼は青年時代、掃除夫の女マイカ(ヤーコバ・イェッセン)に魅入られて恋に落ち関係を持ったが彼女は二人の関係を彼の父親(カール・マイヤー)に暴露して脅迫し彼女との結婚を余儀なくされた、しかし身分違いの結婚は家を破滅に導いたと。息子は決して平民の女を妻にしないことを父親に誓い、まもなく父親は息を引き取る。それから30年後、裁判長になった息子は担当する事件で子殺しの罪で告発された娘(オルガ・ラファエル=リンデン)が自分が昔付き合った平民の女(ベティ・キアケビュー)とのあいだにできた娘だと知る。彼女の弁護士(ヴェアナー・リチャード・クリステンセン)は担当の副裁判長(アクセル・マッセン)はこうした事件を死刑にすることで有名だから是非あなたに担当を変わって欲しいと尋ねて来るが裁判長は友人の彼に被告人の娘は実は私の子供であると告白を始める。それによると学業を終えた後、伯爵である伯父の住む町で裁判所の主任となった彼は伯父の娘の家庭教師をしている女(ベティ・キアケビュ)と恋に落ちるが伯父に『家訓の誓いを忘れるな』と咎められて結婚を諦め彼女に別れの手紙を書いた。1年後彼女からの手紙には『あなたを責めません、でも私と娘を見捨てないでください』と書かれていた、、とのこと。その後、所要があるので明日の裁判を代わって欲しいという副裁判長の要望を裁判長は断り裁判は副裁判長の元で開始される。弁護士によると被告は17歳で母親を亡くし傲慢で冷淡な伯爵未亡人の家の家庭教師になりそこで未亡人の息子と恋仲になるが彼は必ず帰って来ると約束して外国へ旅立ったものの帰って来ず、それどころか母(未亡人)の元へ彼女を適切に「処置」するよう手紙を書いてよこし娘は夜中に靴も履かされずに未亡人に屋敷から叩き出され彷徨い失神し死産した、、とのこと。その後、彼女に死刑の判決が下されたことを聞いた裁判長は弁護士の協力で娘の独房へ面会に行き最初は拒絶した娘も『もし父親に会うようなことがあったら、私はお前の父親を許していると伝えて欲しい』との母の遺書を思い出して父親と面会し彼女に『お父さん』と呼ばれた彼は清々しく独房を後にし、恩赦の申請をすることにして帰宅し召使のフランツ(ハランダー・ヘレマン)やブリギッタ(ファニー・ペーターセン)たちと和らいだ時間を過ごす。だが1週間後、首都の裁判所長への昇進の辞令を受けた彼は娘の裁判の担当を外されることになり彼の恩赦の申請もまた却下される。もう一度娘に会いに行った裁判長は恩赦の承認が降りたと娘に嘘をつき次に面会にやって来た弁護士も娘の喜ぶ姿を見て真実が言えなくなる。裁判長は召使たちに重大な決心(国外逃亡)を告げた後、みずからの昇進パーティーに出席し、宴たけなわのパーティを抜け出して家に帰り召使を伴って娘の独房へ行って娘を出獄(脱獄)させてから庁舎へ戻り法務大臣へ『病気により職務を遂行できません』との辞職願を書いてから同僚たちに別れを告げて汽車に乗り途中下車して娘と召使たちの乗る馬車と合流し国境をめざす。弁護士への置き手紙には『君は私を許さないだろう。だがいつか私のことを分かってくれる日が来ることの希望だけは捨てないでくれ』と書かれ弁護士はその手紙をローソクの火で燃やした。3年後、弁護士は外国旅行の船上で偶然、結婚するためにジャワからヨーロッパへ行くという男に出会って懇意になる。一方、自然に囲まれた森の家で召使たちと暮らしている娘はやって来た父親とみなでフィアンセを出迎えに港へ行く。婚約者が船に忘れた手帳に挟んである娘の写真を見て気づいた弁護士は身を隠し、婚約者を出迎える裁判長たちの姿を見たあと、婚約者の荷物を取りに乗船した裁判長の召使フランツの前に姿を現し『私はいつでも愛と尊敬(love
and respect)をもって君のことを思い出すよと彼に伝えてくれ。』と告げた後、『尊敬、という言葉を忘れるな、フランツ!』と念を押す。召使たちと娘の結婚式に参列し盲目のオルガニストの奏でる結婚行進曲と飼い犬たちに見送られながら旅立ってゆく娘たちを見送った裁判長は、故郷へ戻り、後任の裁判長に真実を告白するが、それを公にしたなら裁判官の信頼が損なわれてしまう、もし公にするなら君の娘を探し出して罰すと誓おう、と脅かされた彼は屈し、家に帰り、遺書を書き、先祖の館跡から身を投げると砂時計の砂が尽きる。 ■『分断』23箇所。 ①砂時計とそれを見ている主人公の父親(エリート・ピオ・以下父親)とのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ②カエルたちとそれを見ている子供とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③大きな扉を開けて入って来た父親と洗濯女(ヤーコバ・イェッセン)とのあいだは、3ショット目と最後の8ショット目で同一画面に収められているものの8ショット目の男は後ろ姿で「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)、そのほかの5ショットはすべて内側から切り返されている。 ④泳いでいる魚とそれを小舟に乗って見ている2人(父親と洗濯女)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑤ドアの開く音に振り向いた2人(洗濯女と祖父フォン・センドリンゲン)とドア、そしてドアを開けて入って来る父親とのあいだは、4ショット目に『正常な同一画面』に収められるまでの3ショットが内側から切り返されている。■非常に速いカッティングで撮られている。 ⑥墓標とそれを見ている2人(父と息子)とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑦回想で、叔父の家にやって来て屋敷の周りを歩いてゆく裁判長と遠くの屋敷の中から出てきた家庭教師(ベティ・キアケビュ)とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最初のショットは『持続による同一存在の錯覚』であり、ここから裁判長へとカッティングされたショットを「切り返し」に含めて「3ショット」としたが、ABが同一画面に収められた後Aへカットされた場合そのショットは「切り返しの原ショット(基となるショット)」と捉えて「切り返し」には数えないのでこれは「切り返し」ではないことになるが、「原ショット」が『持続による同一存在の錯覚』であるこのような場合、今後はそれを第一の「切り返し」として判断する。 ⑧その後、水面に映っている2人(裁判長と家庭教師の女)と橋の上の本人たちとのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑨裁判長の娘、オルガ・ラファエル=リンデンが法廷で裁判を受けるシークエンスでは、法廷は娘のほかに弁護人、検事、裁判官、陪審員、傍聴人、記者たちによって埋め尽くされている。まず最初にキャメラは傍聴人たちを映し出しそのままゆっくりと左へパンして裁判官たちを捉え、そのままさらにパンして法廷のドアから入って来て被告人席に座る娘を1ショットで捉えている。これが最初のショットであり、すなわち長回しである。最後のショットは最初のショットとは逆にまず法廷から出て行く娘を捉え、そのままキャメラは右へとパンして法廷から出て行く裁判官たちを捉え、さらにそのままパンして法廷から出て行く傍聴人席を1ショットで捉えている。これが最後のショットであり、すなわち長回しである。そしてこの最初と最後のショット以外、娘と裁判官、検事、陪審員、傍聴人たちとのあいだは、回想と判事たちが協議のために法廷を一時退出したショット等を除くとおよそ30ショット、横にいる弁護士を除いてすべて内側からの切り返しによって分断され、ただの一度も同一画面に収まっていない。そうしてもう一度最初と最後のショットを見てみると、娘と裁判官と傍聴人とは、持続したショットの中で最終的には同一画面に収まっているが彼らは同時には同一画面に収まってはいない。これは『持続による同一存在の錯覚』でありこの裁判のシークエンスは最初と最後が『持続による同一存在の錯覚』によって、そして真ん中は内側からの切り返しによって、すべて分断されている。■法廷全体を映したエスタブリッシング・ショットが撮られていない。ショットのあいだに字幕が入る場合『分断の映画史・第二部』では2ショットとして数えていたが今後は1ショットとして数えることにする。 ⑩裁判中の回想で、子供の横で本を読んでいる裁判長の娘と彼女を遠くから見ている2人(伯爵未亡人とその息子)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑪裁判中の回想で、小枝をくわえて泳いで来る犬と2人(裁判長の娘とその恋人=伯爵未亡人の息子)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。 ⑫裁判の回想で『出て行きなさい』とドアを開ける伯爵の未亡人と裁判長の娘とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■娘のクローズアップが大きくずれている。前のフルショットと同じ当たり方だが照明が修正されている。アイリスはかかっていない。 ⑬その直後、部屋の隅に置いてある靴とそれを見ている2人(未亡人と裁判長の娘)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑭裁判の回想で、家から追い出された裁判長の娘と閉められるドアとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑮裁判の回想中、吠えかかる犬と裁判長の娘とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで4ショット内側から切り返されている。■4ショット目は『持続による同一存在の錯覚』。 ⑯その直後、吠えかかる犬と裁判長の娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑰裁判の回想中、草むらに横たわる裁判長の娘とそれを見ている男たちのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑱裁判との平行モンタージュで、砂時計?とそれを見ている裁判長とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑲松明を掲げる人々とそれを窓からそれを見ている裁判長らとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在 ⑳その直後にもまた松明とそれを窓から見ている者たちとが3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在 21犬の入っているバスケットとそれを指差す裁判長のあいだは、他のショットを挟んで3ショット内側から切り返されている。主観ショット。 22船を降りて抱擁し合う恋人たちとそれを船の小窓から見ている弁護士ヴェアナー・リチャード・クリステンセンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 23教会の結婚式で4人(神父、新郎新婦、裁判官)と2人の召使、犬たち、そして盲目のオルガニストとのあいだは、召使たちと同一画面に収められる以外、すべて内側から切り返されそのまま終わっている。■盲目のオルガニストとのあいだにはエスタブリッシング・ショットが撮られていない。 ■カッティング・イン・アクション 寄る・引く等の時にカッティング・イン・アクションが存在するが基本的にはおとなしい動作を重複させている。小津安二郎の作品のようにはっきりとした動作で立つ→引く、等が撮られることはない。 ①序盤、回想が終わり父と息子が同時に立ち上がるシーンはカットされてキャメラが引かれているが動作の重複はない。 ②終盤、裁判長のために開かれた式典で松明を見るために裁判長の横に座っている副裁判長(アクセル・マッセン)が立ち上がる時に大きくキャメラを引いてカッティング・イン・アクションで編集されているがさほど大きな動作が重複されているわけではない。 ■イマジナリーライン 基本的にイマジナリーラインは合致している。 ■キャメラを正面から見据えるショットは1ショットも撮られていない。 ■アイリス アイリスでのクローズアップが多く撮られている。アイリス・インあり。 ■フェイドインあり、フェイドアウト多用。 ■波紋で揺れる水面 メロドラマ的に何度も撮られている。 ▲平行モンタージュ 多用されている。 ■シルエット 弁護士の出のショットはヒッチコックばりのすりガラスのシルエット。 ■影のみ 終盤、街の夜警がジョッキでビールを飲むシーンが壁に映っている影のみで撮られている。 ■ロケーション 終盤、街を離れる裁判長の乗った汽車の窓からはスクリーンプロセスではなく実写の生々しい光景が映し出されている。 ■軸 ①トラッキングは終盤の教会での結婚式の時、後ろの席に参列している召使たちへとキャメラが寄っていくその1ショットのみ。1ショットしか撮られていない移動撮影が召使たちになされている。 ②終盤、船が船着き場に到着する時、動く船から陸を撮っている。世界初の移動撮影と言われているリュミエール兄弟「Panorama du grand canal pris d'un bateau(船から撮影された大運河のパノラマ)」(1896)が動く船から陸を撮ったものであることからするならば、この場合も「移動撮影」に含まれることになる。 ■パン あり。法廷シーンで大きくパンされそれが『持続による同一存在の錯覚』となっている。 ■照明 裁判長の娘の独房では顏近辺に部分的な光を当てながらレンズを絞り、衣装、美術も加わり他の空間の暗さを現している。暗さを出すには光を当てなければならない、という映画的照明。その後はランタンの強い光を使って暗さを出している。そのランタンの火を吹き消した時も壁に当てられた光を光源とした暗闇の空間が出現している。『分断』における照明の修正は『分断』⑫に裁判長の娘のアイリスを使わない陰影によるクローズアップが撮られている。 ★ローキイ 基本的に黑い部分が多くを占めるローキイのハイ・コントラストで撮られている。 ★アメリカの夜 夜を撮る撮影も本当の夜ではなくレンズを絞ったローキイ、ハイ・コントラストによって疑似的に撮られている。 ■ハイ・コントラスト 黒い服が真っ黒に見えるのでハイ・コントラスト。 ■額縁 映画が始まってすぐ、父親が息子の部屋に入って行ったあと、ドアが枠が額縁のように切り取られている。 ■煙 松明(たいまつ)。 ■尊敬 終盤、船で裁判長の娘のフィアンセと乗り合わせた弁護士が裁判官の召使のフランツに言づてを頼む時、『私はいつでも愛と尊敬をもって君のことを思い出すよと彼に伝えてくれ。』といった後に、『尊敬、という言葉を忘れるな、フランツ!』、と付け加えている。 ■太目 女性はやや太目である。 ■起源 平民の娘と結婚してならない、という家訓(起源)が撮られている。 ■罪の意識 裁判長は罪の意識を有している。 ■回想 祖父が息子に、息子は弁護士に、そして息子の娘(孫)は法廷で、それぞれ回想をしている。 ■常習性 罪人を逃がしたりするだけで裁判官としての職務は撮られていないのでホークス的職業運動ではなく人間は人間をするという人間運動。序盤は知的な家訓に縛られた「初犯」、そこから「常習犯」へと回帰してゆく細部が撮られている。 |
117-1-27-あり ●処女作から既に切り返しを多用している。 ▲平行モンタージュを後半多用している。 ■外側からの切り返しは視点転換 ①終盤、裁判長のお別れの会の冒頭、彫刻の序幕がなされてから裁判長のクローズアップが撮られたあと、裁判長がお辞儀をする時、1ショット、彼のやや後方の外側から切り返されている。ただこれは限りなく視点転換に近く「外側から切り返す」という精神で撮られてはいない。 ●逆からの切り返し→1回 ①序盤、裁判長が弁護士に過去の回想をし終わった後、ソファーに座っている2人から部屋に入って来た副裁判長の近景へ切り返される時、逆から切り返されている。さほどはっきりとした「逆」ではないが。 ★アイリスで囲われたクローズアップが多く撮られている。 |
1919 | サタンの書の数ページ Blade af Satans Bog デンマーク |
18ショット。はっきりは以下。 第一話 ①オープニングのキリストのクローズアップで。 第二話 ①みずからを鞭打つ学僧を見つめる父親(サタン・ヘリエ・ニッセン)の大きなクローズアップがアイリスで ②背後に蛇が這っている異端尋問の牢獄の中でぼんやり坐っている娘エボン・ストランディンのウエストショットが 第三話 ①城の中に入ろうとする革命軍の男のクローズアップで ②笛を吹くジョゼフのクローズアップで2ショット 第四話 ①電信をつなぎにマッティ伍長が出発する時、見送りの男がクローズアップで2ショット。 ②第四話『分断』⑩ 父親を赤軍に殺された娘が白軍に入り「住所がないといかん」と司令官に言われた時の娘のクローズアップが右の髪にライトを浴びながら大きなクローズアップで(アイリスなし)。 ③第四話『分断』22。果物ナイフを逆手に握ってみずからを刺した電信技士の妻のアイリスに囲まれたクローズアップで。 |
7.3
492 1287 157 第一話 7.55 477 245 30.50秒 第二話 8.3 434 217 30 第三話 7.8 462 422 54.45 第四話 6 604 396 39.20秒 ■伝説ではサタンについて次のように語られる。 ①サタンの原罪 光の天使であったサタンは神に反逆して堕落した。地上に降り人間の姿となって人間を誘惑し凋落せしめた。 ②神の判決 人間に対するそなたの愚行を続けよ。人の姿で彼らの中に入り神の意志に反することをせよと彼らを誘惑しろ。 ③呪い そして神はサタンを呪い語った。人がそなたの誘惑に負けるごとにそなたへの呪いは100年延長される。だが人がそなたを退けるならそなたは千年の罰から解放される。行け、悪行を続けよ! ■『分断』全81箇所。 ■第一話 7.55 477 245 30.50秒 キリストの最後の数日間とサタンに誘惑されたユダの裏切りの物語。キリスト生誕30年後のエルサレム。サタン(ヘリエ・ニッセン)はパリサイ人の姿でカイファ(ユダヤの大祭司)を尋ね、カイファの邸宅に集まった高僧と学者たちにイエス(ハルヴァーズ・ホフ)の危険性について吹聴し哀しみを持ちながらもそれが効果を奏しつつあることを感じている。一方イエスとその弟子たちはらい病患者の家に客人として滞在している。女がイエスに塗油をしているのを見ていたユダは『その油を売れば貧者にあげられるのに』とつぶやいてイエスに咎められる。学者たちはサイファがイエスを捉えて処刑せよと主張している。その後、ユダの元にサタンが現れ彼を誘惑しユダは一度は拒絶するが抗えずその誘惑に負ける。弟子たちはイエスの指示で水瓶を担いだ男についていきそこで開かれた晩餐でイエスは言う『この中の1人が私を裏切るだろう』。カイファの命令でユダヤの寺院警備隊と彼らに同行したローマ兵がイエスの逮捕に向かい、ユダがイエスに親愛の接吻をすることを合図にイエスは逮捕され処刑台へ送られる。サタンから金貨をもらったユダはそれを地面に投げつけ打ちひしがれる。神の子を処刑台へ送ったサタンは深い悲しみに包まれたが主の声が聞こえる『そなたの悪行を続けよ』 ■『分断』13箇所 ①イエス(ハルヴァーズ・ホフ)について話しているサタン(ヘリエ・ニッセン)と高僧・学者たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ②その直後、サタンと高僧・学者たちのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在 ③ハーブを奏でる女(エボン・ストランディン)とイエスとのあいだは、イメージショットを除いた4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ④2人(イエスとその足に油を塗る女)とユダ(ヤーコブ・テクシエール)とのあいだは、12ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで11ショット内側から切り返されている。 ⑤階段を降りてきたユダとそれを見ている高僧たちとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■まったく違う空間同士が切り返されているように見える。エスタブリッシング・ショットの不在 ⑥その後、イエスを処刑しろと訴える学者たちとカイファ(大祭司)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■右へ向かっている者同士が切り返されている(逆方向への切り返し)。こういう切り返しがサイレントの初期の短編にはよく見られる。エスタブリッシング・ショットの不在 ⑦市場で水瓶を抱えて歩いている男とそれを見ているイエスの弟子たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑧最後の晩餐のあと階段を降りてくるユダとそれを見ているサタンとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑨ラッパを吹いている2人の兵隊とユタとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑩木陰で眠っていた使徒たちとキリストを捕らえるためにやって来た寺院警備隊たちとのあいだは、他のショットを除くと16ショットほど内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットが撮られていないので場所的関係が定かではなく兵士たちを見ている弟子たちの視線のみによって関係が示されているので弟子たちのイマジナリーラインは無化されている。 ⑪イエスと兵隊たちとのあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■兵士たちは成瀬目線を使っている。イマジナリーラインもずれているように見える。そもそもイマジナリーラインを合わそうとはしていないようにも見える。 ⑫その直後、キリストと彼を見ている3人の弟子たちとのあいだは、他のショットを除いて3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシングショットが撮られておらずこの3人はどこにいるのか定かではない。 ⑬地面に跪いているユダと彼を見ているサタンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。。 ■第二話 8.3 434 217 30 16世紀、拷問による異端尋問が猛威を振るうスペイン、セヴィリアの物語。天文学と占星術にいそしむ貴族ドン・ゴメス(ハランダー・ヘルマン)の娘(エボン・ストランディン)は家庭教師の学僧(ヨハンネス・マイヤー)から学問を学んでいる所へ従兄弟の伯爵(フーゴ・ブルーン)が来訪する。娘に密かに思いを寄せる学僧はみずからの体に鞭打ち娘への思いを断ち切ろろうとするが聖女像すら娘に見えてしまい、そんな彼を見ていた父親で異端尋問長官のサタンは息子を『異端尋問官になればいかなる目的も遂げられる』と誘惑し、学僧は娘の家にやって来た従兄弟の伯爵と娘との親しい関係を見て家庭教師を辞する手紙を書き異端尋問官となる。同じころ、ホロースコープでみずからの死期を占っているドン・ゴメスは異端尋問派であった執事(ナレ・ハルデン)によって星に神の意志を読む異端者だとサタンへ密告され、ドン・ゴメスのみならず異端の娘は異端だとして娘もまた監獄へ送り込まれる。ドン・ゴメスは拷問室で息絶え、尋問に屈しない娘は拷問室で失神して学僧に肉体を奪われ火刑にされるため連れ出される。サタンは悲しみに包まれるが主の声が聞こえる『そなたの悪行を続けよ!』 ■『分断』16箇所 ①娘(エボン・ストランディン)のように動いて見える聖女像とそれを見ている学僧(ヨハンネス・マイヤー)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ②①のなかで、学僧とそれを見ている異端尋問長官のサタンとのあいだは、同一画面に挟まれた6ショット内側から切り返されている。■キャメラを正面から見据えているサタンがクローズアップを含めて4ショット撮られている。 ③池の魚を見ている娘とそれを二階のテラスから見ている学僧とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。主観ショット。 ④その直後もまた2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑤机で仕事をしている父親ドン・ゴメス(ハランダー・ヘルマン)とそれを階段から見ている娘とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑥天文学の研究をしている父親とそれをカーテンの陰から盗み見している侍従(ナレ・ハルデン)とのあいだは、5ショット目に侍従と侍従の後ろ姿によって隠された父親の「胴体だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、その後の2ショットも侍従と父親がそれぞれ後ろ姿の『奇妙な同一画面』によって終わっている。■評 父親と侍従とのあいだの切り返しに限定して測定している。侍従による密告へとつながるこのシーンは内側からの切り返しによる『分断』と侍従がカーテンを左右に開いた瞬間に出現する縦の構図の異様な『奇妙な同一画面』によってさらに『分断』を際立たせている。この『奇妙な同一画面』は一見何の変哲もないただの偶然にも見えるが『分断の映画史』ではこれを必然として検討している。 ⑦■密告にやって来た執事とサタンの横で座っている学僧とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■視線が合っていない。■サタンと執事のあいだの距離が狭いので別々に撮られている。 ⑧通りを歩いてゆく異端尋問審査官たちとそれを見ている伯爵(フーゴ・ブルーン)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■伯爵は成瀬目線で追いかけている。エスタブリッシング・ショットの不在 。 ⑨連行されるドン・ゴメスとそれを見ている侍従とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■フルショットの客観的時空に挟まれたクローズアップによる主観的時空の切り返し。 ⑩その後、部屋でキリストに祈りを捧げてから振り向いた娘と入って来た学僧とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで3ショット内側から切り返されている。■横から撮られているので「ずれ」ていないようにも見えるが3ショット目に娘が服を落とす時に壁に映っている娘のおののく影は鼻の輪郭までクッキリと映っているのに対して同一画面に収まった時の二重にぼやけた影とが質的に違っているのでここでは壁に映る影を意識して照明が修正されている(アイリスなし)。照明の修正はクローズアップに限られない。それを度外視しても服を落とす娘のショットは動作が前後のショットからずれている(そのために撮られている)。その直後の十字架をかざす娘と後ずさりする学僧とのあいだの切り返しもおそらく別々に撮られている。 ⑪拷問室で吊るされているドン・ゴメスとサタンとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで2ショット内側から切り返されている。 ⑫審問室に連行された娘と2人(サタンと学僧)とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで2ショット内側から切り返されている。■あいだに椅子の主観ショットが撮られている。 ⑬■その直後、キリスト像に祈りをささげている娘と他の者たちとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■祈りを捧げている娘の後ろ髪に同一画面では当てられていなかったバックライトが当たっている=照明が修正されている(アイリスなし)。また、最初に3人で同一画面に収められているフルショットでは娘の腕のあたりまで影が落ちているが娘が神に祈った後の3人のフルショットでは娘の体全体に光が当てられている(照明の修正)。■正面からの切り返しではないが横を向いている娘を正面から撮っているのでサタンと娘のあいだにキャメラを置いて撮っている。 ⑭⑬のあいだ、娘とキリスト像とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑮拷問室の2人(学僧と娘)とそれを見ている覆面の者たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑯ベッドに横たわっている娘とそれを見ている学僧とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■娘の照明が修正されている(アイリスあり) ■第三話 7.8 462 422 54.45 1873年秋、フランス革命後。囚われのマリー・アントワネット(テンナ・クラフト)は死の牢獄へ移送される。パリ会議は軍の小分隊とギロチンをフランスの地方まで送り反革命派を捕らえ処刑する命を下した。地方の城に住む伯爵一家にも魔の手は伸び伯爵(ヴィゴ・ヴィーエ)は召使のジョゼフ(エリート・ピオ)に妻(エンマ・ヴィーエ)と娘ジュヌヴィエーヴ(ジャンヌ・トラムクール)を守るように託してギロチン台へ送られる。ジョゼフは偽の旅券を入手して平民の親子に成りすまし2人と共にパリの検問を通過して旅籠で休みをとり感謝する伯爵夫人に令嬢の写真入りのペンダントをもらう。旅籠には伯爵家の元召使で今は革命派の男エルネスト(サタン)がいてジョゼフは革命派に入らないかとそそのかされる。しばらくして革命派の中心的人物となったジョゼフはそれでも伯爵家の夫人たちを密かに助けて店を持たせ2人の国外脱出の機会を伺っていたところ耳と足の不自由な浮浪者に変装したサタンが検察官(ヴィルヘルム・ペーター)に宛てた差出人不明の密告の手紙によって夫人たちは逮捕される。検察官の取り調べで夫人たちを匿ったとして糾弾されたジョゼフはサタンの誘導によってサタンの書いた密告の手紙を自分が書いたと偽りの証言をしてみずからの身を守る。一方アントワネットは独房の外の女囚たちに中傷されながらも手袋の中に隠し持った息子の写真と髪にキスをしながら独房での日々を過ごしていたが裁判で死刑を宣告され涙で濡れた手紙を義理の妹に書く。また別の独房では伯爵令嬢ジュヌヴィエーヴがジョゼフに『アントワネットの救出のために策を巡らしているエルネスト(サタン)を助けて下されはあなたを許します』と最後の願いを手紙に書いてサタンに渡す。それを見たジョゼフはサタンと2人でアントワネットを救出に向かうがジュヌヴィエーヴを断頭台へ送った張本人がジョゼフと知ったアントワネットは態度を硬化させ自尊心を傷つけられたジョゼフは我を失いアントワネットを断頭台へ送る。サタンはジョゼフを『お前は呪われるがいい!』と責めるが再び高みから声が聞こえる。『そなたの悪行を続けよ!』 ■『分断』29箇所 ①吠えかかる犬とマリー・アントワネット(テンナ・クラフト)とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■動物のショットは基本的に別々に撮られているので「窮屈」という事態は出てこない。 ②かごを持っている男と馬でやって来る革命軍の軍隊とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③インコとそれを見ている伯爵令嬢ジュヌヴィエーヴ(ジャンヌ・トラムクール)とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■インコがとさかを広げるところを別に撮っている。 ④机の上で芸をしているインコとそれを見ている伯爵夫妻(ヴィゴ・ヴィーエとエンマ・ヴィーエ)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑤橋の上を行進して来る革命軍とそれを窓から見ている女たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑥街に入ってゆくギロチンを乗せた馬車とそれを見て駆け出すエプロンの娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑦城の中庭に入って来た革命軍とそれを窓から見ている伯爵一家とのあいだは、合わせて6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑧備え付けられたギロチンとそれを地下室のドアを開けて見ている家族とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑨空を飛ぶ鳥たちとそれを牢獄の窓から見ているアントワネットとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑩馬車の荷台で眠っている伯爵令嬢とそれを見ている伯爵一家の召使ジョゼフ(エリート・ピオ)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。主観ショット。■令嬢の照明が修正されている(画面の右にアイリスがかけられている)。 ⑪酒場で歌を唄っている歌手とそれを見て一緒に歌っている者たちとのあいだは、合わせて5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑫馬車でやって来た伯爵夫人と店から出て来てそれを見ている酒場の主人とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑬酒場の男たちとそれを見ている2人(伯爵夫人と令嬢)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑭宿屋に入って来て階段を上ってゆく召使ジョゼフとそれを見ているサタンとのあいだは、5ショット目に縦の構図で同一画面に収められるまで4ショット内側から切り返されている。主観ショット。■運命を決定づける盗み見が内側からの切り返しとサタンの成瀬目線、召使がドアを開けた瞬間出現する縦の構図によって撮られている。カーテンやドアを開けた瞬間の縦の構図で終わるのは第二話の『分断』⑥と同じ傾向を指し示している。 ⑮伯爵夫人からペンダントをもらっている召使ジョゼフとそれを見ている伯爵令嬢ジュヌヴィエーヴとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■伯爵令嬢は伯爵夫人の背後でベッドに座り顔を隠しているが次のショットでは顔を左に向けて2人のやり取りを見ている。しかしその視線の先に2人は存在しないのだから伯爵令嬢は2人を見ていないことになる。確かにそれもありうるが不思議なショットではある。 ⑯階段から降りて来る2人(サタンとジョゼフ)と酒場のジャコバン派の者たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在 ⑰その後、宿のテーブルに座っている2人(サタンと召使ジョゼフ)と離れたテーブルで議論しているジャコバン派の者たちとのあいだは、12ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■切り返し以外のショットはカウントしていない。エスタブリッシング・ショットの不在 ⑱独房の中のアントワネットと鉄格子からゴシップ冊子を投げ落とす女囚とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。■落下物の『分離』ここでは冊子が女囚の手から離れて落ちてゆくショットと独房の床に落ちる瞬間のショットが別々に撮られている。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑲その冊子とそれを見ているアントワネットとのあいだは、3ショット目に冊子とアントワネットの「手だけ」が同一画面に収められるまで(『奇妙な同一画面』)2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑳店の窓の外の兵士たちとそれを見ている2人(伯爵夫人と令嬢)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 21伯爵夫人と令嬢が連行された後、店に入って来た召使ジョゼフと兵士とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■驚いている兵士のクローズアップが大きく「ずれ」ている。 22その直後、店から出てきたジョゼフたちとそれを見ているサタンとのあいだは、2ショット目にキャメラが引かれて同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 23検察官(ヴィルヘルム・ペーター)の家で尋問を受けるシークエンスにおいて、尋問する検事とベンチの前に立っている2人(伯爵夫人とその令嬢)とのあいだは、4ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■正面に座っている者同士の視線がどちらも右方向を向いていてイマジナリーラインがずれているように見えるが、ハリウッド映画の通常の切り返しとは違いどちらも人物の左側から切り返されている=逆から切り返されている=のでこの場合どちらもキャメラの右側を見ていてもイマジナリーラインは合っているのかもしれない。最初の切り返しで伯爵令嬢ジェンヌヴィエーヴの照明が修正されている(アイリスなし)。 24その後、変装したサタンが密告の手紙を持ってきた後、伯爵夫人と娘、検事、元召使ジョゼフ、サタン、その他の者たちとのあいだは、侍従のアイリスに囲まれた大きなクローズアップから始まり15ショット目に検事とジョゼフが同一画面に収められるまで14ショット内側から切り返されている。■2人(伯爵夫人と令嬢の2人)と他の者たちとのあいだは6ショット内側から切り返されそのまま終わっていて1ショットも同一画面に収められていない。心理的なサスペンスが『分断』によって撮られている。 25伯爵令嬢ジュヌヴィエーヴの写真入りペンダントとそれを見ているジョゼフとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。ペンダントがどこにあるのかわからない。 26アントワネットと話しているサタンとサタンが指差したジョゼフとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 27■その直後、マリー・アントワネットとジョゼフ、サタン、やって来た兵士たちとのあいだは、9ショット目に同一画面に収められるまで8ショット内側から切り返されている。■サタンとアントワネットはオフオフを使っている。 28その直後、笛を吹こうとするジョゼフとそれを止めようとするサタンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■テーブルをどけて撮っている。 29■その直後、笛を吹くジョゼフとそれを聞いてやって来る兵士たちとのあいだは、3ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■テーブルをどけて撮っている。 ■第三話評 アントワネットと貴族たちとのあいだで平行モンタージュが特に多用されている。 猫の裁判シーンも『分断』されている。 ■第四話 6 604 396 39.20秒 1918年春、フィンランド。ロシアの赤軍に占領された小さな鉄道駅の物語。鉄道駅の電信技士の妻シリ(クララ・ポントピダン)は夫パーヴォ(カーロ・ヴィート)と子供たちと暮らしているが、彼女を我が物にしようとするラウタニエミ(カール・ヒレブラント)は夫に殴り倒された仕返しに町まで侵入していた赤軍に入隊し夫を亡き者にしようと企む。白軍(フィンランド軍)のマッティ伍長は隊長の命令で電話と電信を引くために人々に見送られながら鉄道駅に到着する。一方、赤軍の法廷ではフィンランドの赤軍の同志たちと合流したロシア人僧侶イヴァン(サタン)が地元の男に死刑の判決を下し、男の娘ナイミ(カリーナ・ベル)は父親の仇を討つために白軍に入隊し、そこで『戦死した時死体を送る住所はどこだ』と尋ねる隊長に『フィンランドの土に埋められるだけで満足です』と答える。一方、シリに思いを寄せるラウタニエミは電信技士のパーヴォに偽の電信を打たせて白軍をおびき寄せようとサタンに進言して夫婦の家に侵入し、夫は助けを呼ぼうとするが電話線は切断され、サタンは電信技士の夫に偽の電信を打つように脅迫するが夫は拒絶し、『打て、さもなければ夫を撃ち殺す』と脅された妻も拒絶して夫は処刑されるために連れ出される。一方、一瞬ではあるものの夫からの電話に危機を察した白軍は救援へと向かい、ナイミもまた1人で夫婦の家へと向かい、銃殺されそうな技師を危機一髪で助け出す。残された妻はサタンから子供の命を引き換えに再度脅迫されるが屈することなくみずからの胸を刺し駆けつけた夫に抱きしめられなが息を引き取る。妻の英雄的行為によってサタンは1000年の呪いから解放される。振り子は揺れ続ける。 ■『分断』23箇所 ①赤ん坊とそれを見ている夫婦(クララ・ポントピダンとカーロ・ヴィート)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。■赤ん坊は動物と同じで演技できないので基本的に別の場所で撮られていることから「窮屈」の問題は出てこないことが多い。 ②夫婦と彼らをドアの小窓から盗み見している男ラウタニエミ(カール・ヒレブラント)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■男と夫婦のあいだの切り返しは2回なので「2ショット」となる。■この過程には眠っている子供たちの夫婦による主観ショットも撮られている。 ③その直後、さらに1ショット内側から切り返され、その後、男は妻と同一画面に収められている。『窓空間』。主観ショット。 ④毛糸を巻いている息子とそれを見ている父親とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見える。このシーンはエスタブリッシング・ショットが撮られていないので位置関係が不明で結論は出ないだろうが4ショット目で息子が見た方向は流れからしてずれているように見える。 ⑤籠の中の赤ん坊と机で仕事をしている父親とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■場所的には赤ん坊の声だけ聞こえている平行モンタージュ(『原初的音声空間の切り返し』)かも知れない。 ⑥電信技士の手から滑り落ちる白い布とそれを見ている伍長とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑦帰ってくる母親と毛糸を引きずったまま走って出迎える息子とのあいだは、3ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■マクガフィン このシーンを撮りたいがために息子は毛糸を巻いている。 ⑧連れ去られた父親の馬車とそれを見ているエプロンをした彼の娘ナイミ(カリーナ・ベル)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑨小川のほとりに座り込むナイミとそれを見ている馬上の白軍の男とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑩白軍司令部で質問に答えるナイミと隊長とのあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■ナイミのクローズアップは同一画面とは違ってバックライトで照明が修正されている(アイリスなし)。特にナミイが『フィンランドの土に埋められるだけで満足です』という時のショットはクローズアップでキャメラを正面から見据えるナイミがバックライトに照らされるという合わせ技で撮られている。4ショット目は外側からの切り返し。『古典的デクパージュ的人物配置』ではない。 ⑪電信の信号とそれを見ている夫婦とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑫赤ん坊の籠をしまいカーテンを閉めている妻とそれを見ている夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑬着替えをしている妻とそれを窓の外から盗み見している男ラウタニエミとのあいだは、合わせて3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑭その後、祈りを捧げている妻とそれを窓の外から盗み見している男ラウタニエミとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■あいだに入る妻のクローズアップは真っ暗の中で下からの強い光で照明が修正された異様な世界が撮られている。アイリスがかかっているようにも見えるが不明。 ⑮その直後、地面に映っている(窓から侵入するラウタニエミの)影とそれを見ている妻とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■影のみのショット。「裁判長」(1918)から比べてより照明の映画としての度合いを強めている。 ⑯馬で駆けてゆく白軍の兵士とそれを見ている赤軍兵たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑰■電信を打てと迫られている夫とそれを見ている妻とのあいだは、同一画面に挟まれた8ショット内側から切り返されている。■アイリスに囲まれたクローズアップの切り返しを照明の修正等により「そのひと」として撮ることで敵兵に囲まれた空間を2人だけの主観的コミュニケーション空間へと転化させている。 ⑱サタンに電信を打てと脅かされ夫の方へ振り向く妻と彼女に向かって微笑む夫とのあいだは、同一画面に収められたあと、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■イマジナリーラインはずれていないが、ここで撮られているエスタブリッシング・ショットから見て妻の視線の先に夫は存在しないように見える。どちらにしても別々に撮られている。最初の切り返しで夫が立ち上がる前に既に照明が修正されている(クローズアップを含めてアイリスあり)。 ⑲連行される夫とそれを見ている妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの右側を見ていることからイマジナリーラインがずれているように見えるが夫は振り向きざまであること、どちも人物の左側から撮られていること=逆から切り返されている=からしてイマジナリーラインはずれていないかも知れない。夫のクローズアップにはアイリスがかけられている。 ⑳机に伏せっている妻とそれを見ている男とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 21家に残され神に祈る妻と彼女を脅迫するサタンとのあいだは、合わせて6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■平行モンタージュはないものとしてカウントしている。切り返しの4ショット目に妻の照明がリアルタイムで修正されバックライト(後光)が差してくる。「裁判長」(1918)から比べてより照明の映画としての度合いを強めている。 22■ローソクを吹き消した男→飲み食いしている兵士たち→机の上のナイフと、妻とのあいだは、11ショット内側から切り返されている。主観ショット。■ヒッチコックばりのサスペンス。妻はキャメラを正面から見据えている。■飲み食いしている兵士たちとは窮屈な関係にある。終始アイリスがかかっている。 23ナイフを逆手に握る男ラウタニエミと彼に向けて窓の外から銃を構えている白軍兵とのあいだは、合わせて5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。 ■『分断』 以上に記された以外にも別々に撮られているショットは多く存在する。切り返しは前作から大きく増加し、また殆ど別々に撮られていて極めて強い『分断』の傾向が見出される。 ■1ショットのずれ ①第二話 背後に蛇が這っている牢獄で娘がキャメラを正面から見据えているショットはその前後のショットから大きくずれている。 ②第二話 終盤、火刑にされるために娘を連れて行こうとする執行官たちに学僧が拳を振りかざして抵抗しようとする時、1ショットだがずれている。 ③第四話 『分断』⑭ ■カッティング・イン・アクション ①第二話・審問長官の息子が女への思いを断ち切るためにみずから鞭打っているその鞭を振り上げた瞬間大きくキャメラが引かれ鞭を打つ動作が重複しているのでこれは明確なカッティング・イン・アクションであるものの基本的には「裁判長(Prasidenten)」(1918)と同じようにおとなしい動作の重複。 ②第二話で審問長官の控えの間で男が飲んでいた水差しを置くときのように動作の重複がなされていない編集=カッティング・イン・アクションではないただの引き・寄りがほとんど。 ③第二話 これも第二話だが、②の直後、密告しにサタン父子の元へやって来たドン・ゴメスの執事が跪いたあと立ち上がる時、待ち受けているキャメラに下から上がって来る顔を捉えている。これはカッティング・イン・アクションであり、以降「立ち顔」と命名する。立ち上がって来る顔をキャメラが予め待ち構えて撮るこのカッティング方法は好きにはなれない。 ▲クロス・カッティング 第四話の終盤、白軍に夫が救出される。 ■ローコントラスト グレーの幅が広く出ている。 ■ハイキー 明るい画調で撮られている。 ■アイリス 多用されている。アイリス・イン、アウトあり。 ■フェイドアウト 多用されている。 ■ディゾルヴ あり。 ■成瀬目線 第一話『分断』⑪、二話の『分断』⑧、三話の『分断』⑭で撮られている。 ■オフオフ 第三話『分断』27にてサタンが。オフオフは成瀬目線同様、画面の外に人がいることを偽装する視線であることから、オフオフが使われている時にはそのショットは別々に撮られている。 ■軸 ①横移動 第三話のオープニングでマリー・アントワネットが移送される時。 ②前進移動 第三話で伯爵婦人と令嬢が酒場へ入ってゆくとき、最初は人称なしでキャメラが前進し後半から前進移動となる。 ③トラックバック 第四話 オープニングで妻がローソクに火をつけた後、キャメラがゆっくりとトラックバックしてゆく。 ④第四話 終盤、トロッコで救援に向かう赤軍兵たちを前進移動で。 ■パン あり。 ■煙 松明。たばこ。銃。 ■順手 第一話 終盤、イエスたちが兵士に囲まれた時、弟子がナイフを順手に握る。 ■分離 第二話『分断』⑱ 投げ落とされる冊子が女囚の手から離れて落ちてゆくショットと独房の床に落ちる瞬間のショットが別々に撮られている ■常習犯 サタンはサタンであり、人間は人間であり、という「常習犯」を撮っているが、サタンは罪の意識を有していることから「前科4犯」くらいであり、彼にそそのかされる者たちも罪の意識を有していることから「常習性」は弱い。しかし第一話のキリスト、第二話の貴族の娘、アントワネット、第三話の伯爵令嬢、そして第四話の夫婦などは決して「改心」することのない極めて強い「常習性」に支配されており、それが身に染みついた彼らの行動となって気品を漂わせている。 ■起源 サタンと神との契約という「起源」が撮られている。 ■罪の意識 サタンは罪の意識を有している。第一話のユダ、二話の学僧、三話の召使なども罪の意識を有している。 ■回想 なし ■太目 女性は太目。腰回りがグリフィス短編の主人公の女性の倍くらいある。 |
375-7-136-あり。 ■外側からの切り返し 第三話 ①『分断』23参。1ショットの真後ろからの切り返しであり古典的デクパージュとは無関係。 ②伯爵令嬢が鉄格子越しにサタンへ手紙を渡す時、『古典的デクパージュ的人物配置』から2ショット続けて外側から切り返されているが2ショットとも逆から切り返されていて『古典的デクパージュ的外側からの切り返し』ではない。あとは視点転換。 ③『分断』29。1ショット。真後ろからの切り返し。 ■第四話 ①『分断』⑨ ②終盤、ナイフで胸をついた妻を夫が抱きしめる時。 ▲平行モンタージュ 多用。特に第四話では救出のクロス・カッティングが撮られている。 ●逆からの切り返し ①第三話『分断』23参照 ②外側からの切り返し②で上述 ③第四話・『分断』⑲参照。 |
1920 | 牧師の未亡人Prästänkan(原題→牧師) スウェーデン 10.4 |
13ショット。はっきりは以下→ ①夕食を食べている時、未亡人から『恋人はいるの?』と聞かれたセフレンがクローズアップでキャメラを正面から見据えている。2ショット。 ②翌朝のテーブルで裁縫をしている未亡人と話している時のセフレンのクローズアップで2ショット。 ③酔っているセフレンを見ている未亡人が3ショットクローズアップで。 ④娘の部屋に夜這いに来たセフレンが未亡人に見つかり言い訳する時のフルショットで。 ⑤マリが階段から落ちた後、二階の未亡人とのあいだでセフレンが俯瞰のフルショットでキャメラを正面から見据えている。 |
5.3 675
787 70 ノルウェーのある田舎の村で亡くなった牧師の後任に応募した貧しい農夫の息子セフレン(エイナー・リード)はその恋人マリ(グレータ・アルムロート)を連れて隣村から山を越え急流の川沿いの斜面を下り降りてやって来る。みなの助けで大学に入り苦学をして牧師になるための訓練を受けたセフレンをマリは『牧師になるまでは結婚してはならない』という父の言いつけを守り何年も待ち続けていた。町では新しい牧師を選ぶため遠くから人々が集まって来ている。セフレンを含めて3人の牧師候補者がそれぞれ説教をしたあと、ライバルの2人の候補者たちはその夜、酒宴を開いて任命者を買収しようとする。そこで任命者は『法律によれば牧師の未亡人マルガレーテ(ヒルドゥア・カールベルイ)は後継者となった牧師に求婚する権利がある。ここに未亡人を呼びそれぞれの候補者を彼女によく見てもらうことにする』と宣言しそこへ老婆の未亡人が現れると2人の候補者たちは逃げるように去って行き残されたセフレンはその夜、牧師館で未亡人から夕食をご馳走になり『誰か約束した人がいるの?』と聞かれたが嘘をついてやり過ごし牧師館でひとり眠りにつく。朝食では未亡人の作ったニシンにご機嫌のセフレンが酒を飲み過ぎて若き日の未亡人の幻影を見て『僕と結婚してくれ』と言ってしまい、そこへ連れてこられた使用人たち(エミール・ヘルセングレーンとマティルデ・ニールセン)の前で泥酔している彼は確かにそう言ったと証言して結婚が決まり、未亡人はここに留まりたいからあなたと結婚するがあなたは別の部屋で自由に過ごして下さいとセフレンに言って立ち去る。牧師にならなければマリと結婚できず未亡人と結婚しなければ牧師になれない立場に置かれたセフレンは未亡人にマリは妹だと嘘をつき未亡人が死ねば晴れて結婚できるのにと未亡人の死を願うようになる。数週間後、村を挙げての結婚式が行われた翌日、『私が主人だ!』と未亡人に宣言したセフレンは使用人の男に締めあげられる。時は過ぎ、マリに近づこうとするセフレンはある時は使用人に水をかけられ、またある時はマリと間違えて使用人の女の手を握ってしまう始末で、それではとマリの寝床へ忍び込むが未亡人に見つかり仮病で言い訳したものの苦い薬を飲まされ、諦められないセフレンは数日後再びマリの部屋に夜這いに行くが未亡人の策略でマリと入れ替わった使用人の女を起こしてしまう。少なくともあと100年は生きられますと豪語する未亡人に業を煮やしたセフレンとマリは冊子に載っている悪魔に変装して未亡人を脅かそうとするが履いていたぼろスリッパからセフレンと見破られる。そこでセフレンは未亡人が上がって行った屋根裏部屋への梯子を外して降りられないようにしてそのあいだにマリに会おうと画策するが誤ってマリが転落して重傷を負い駆けつけたセフレンは二階の未亡人に『気をつけて!、梯子がなくなっています!』と怒鳴ったあと気を失っているマリを助け起こす。数週間後、未亡人の看病で回復したマリに会うことを許されたセフレンに未亡人は言う。『私は最初の夫と長年婚約していたが、先代の牧師の未亡人と結婚しなければ牧師にはなれないと言われました。先代の未亡人は虚弱で長く生きられないことは分かっていたので私たちにとっては辛い誘惑でした。私は他人の死の上に自分たちの幸福の希望を築きました。私たちは5年間待たなければなりませんでしたがその後も私たちは2人でできる限り幸せになりました。この部屋や壁には30年の幸せな想い出が刻まれていて教会の墓地には私の思いから離れることのできないお墓があるのです』。セフレンはすべてを未亡人に告白して許しを乞う。未亡人は別人のようになり一日の半分を最初の夫の墓の前で過ごすようになる。ある朝、朝食に現れない未亡人を呼びに行くと既に未亡人は息を引き取っていた。彼女は最初の夫の墓に埋葬されセフレンとマリはよくそこへ出かけては未亡人の思い出に浸る。『彼女は僕に誠実な人間になるすべを教えてくれた』セフレンがそうつぶやくと十字架が2人を包み込む。 ■『分断』42箇所。 ①丘に座り笛を吹いている牧師志望者セフレン(エイナー・リード)とそれを見ている牧師の恋人マリ(グレータ・アルムロート)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ②打ち鳴らされる教会の鐘とそれを見ているマリとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③牧師候補の2人とそれを見ているセフレンとマリとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ④教会へ入って来たマリと教壇で本を読んでいる教区役員の女(ローレンツ・ティーボルト)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑤ベンチに座っている最初の候補者(ウーラフ・アウクルスト)と彼を呼びに来た教区役員の女とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。■候補者が立ち上がる時、カッティング・イン・アクションでキャメラが引かれているが動作の重複は少ない。 ⑥教壇で説教をしている最初の候補者とそれを聞いている信者たちと窓の外のセフレンとのあいだは、外のベンチに座っている者たちのショットを除くと10ショット目で教区役員の女と『正常な同一画面』に収まるまで9ショット内側から切り返されている。■エスタブリッシング・ショットが撮られていない。特に窓と二階席(?)の者たちとの場所的関係がわからない。■評 外のベンチに座っているセフレンと候補者のショットは教会の外部でありこれは平行モンタージュであって「切り返し」ではない。「切り返し」はコミュニケーション可能な同一の空間に存在する人と人、人と物との関係において妥当する。従って窓の外から見ているショットはコミュニケーションしているので切り返しに含まれる。また、カウントするのは人と人との切り返しであり、例えば向かい合うAとBのあいだの切り返しの場合、仮に①A→②B→③B→④A→⑤B→⑥A→⑦A→⑧Bの順序でショットが撮られた場合、①を起点(原ショット)に②で1回、③はカウントせず④で二回目、⑤で3回目、6で四回目、⑦はカウントせず8で五回目、となり、結局この場合の内側からの切り返しは5ショット、ということになる。そして同一画面が撮られなければ「そのまま終わっている。」となる。字幕はカウントしない。 ⑦■③の合間に、外のベンチで羽ペンを指で立てているセフレンとそれを見ている二人目の太った候補者(クルト・ヴェーリン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。■セフレンの照明の修正がされている。ずれているのは主観ショットだけでそれ以外の切り返しはずれていない。 ⑧二人目の候補者と信者・窓の外のセフレンとのあいだは、12ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットが撮られていない。『分断』⑥同様、窓と二階席(?)の者たちの場所的関係がわからない。地球の裏側にいる者たちと切り返されているような大きな「ずれ」が露呈している。 ⑨逆立ちしているセフレンとそれを見ている教区役員の女とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑩最後に教壇で説教をするセフレンと信者たちとのあいだは、16ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ■評 この教会での説教のシーンは教会の全景が不明であり(エスタブリッシング・ショットの不在)イマジナリーラインが合っているのかわからずかつ殆どのショットも正面付近から撮られているのでその切り返しは大きくずれている。 ⑪夜の酒宴で歌っているセフレンとそれを見ている女たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。女たちはどこから見ているのかわからない。 ⑫牧師の合格者は未亡人と結婚しなければならないことを知らされた後、奥から現れ椅子に座った牧師の未亡人(ヒルドゥア・カールベルイ・以下未亡人)と彼女を窓から見ているマリとのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑬椅子に座っているセフレンとそれを壺の隙間から見ている教区役員の女、さらにその女を見ている未亡人とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■主観ショットの起点となる人物をさらに主観ショットで他の者が見ている珍しいシーン。ここで未亡人はオフオフを使っている。 ⑭家から出て来る2人(未亡人とセフレン)とそれを窓から見ているマリとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。■エスタブリッシング・ショットの不在。彼女はどこから見ているのか不明。 ⑮■テーブルで食事をしているセフレンと彼に「他に誰か約束した人でもいるのですか?」と聞く未亡人とのあいだは、5ショット目で『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■未亡人はキャメラの左側を、セフレンはキャメラを正面から見据えていてイマジナリーラインがずれている。しかしこれが未亡人からの主観ショットだとするとイマジナリーラインはずれてはいないことになる。 ⑯裁縫をしている未亡人と彼女に話しかけるセフレンとのあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■どちらも左を向いて向き合っていてセフレンはキャメラを正面から見据えている不思議な切り返し。これも『分断』⑮のように未亡人からの主観ショットということか。 ⑰■酒を飲んでいるセフレンとそれを見ている未亡人とのあいだは、若き未亡人の幻影との切り返しを含めて13ショット目に未亡人と『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■キャメラを正面から見据えた未亡人のクローズアップは照明が修正されている。未亡人が振り向きざまにキャメラを正面から見据えるクローズアップから始まるこのシークエンスは若き日の未亡人とセフレンとの切り返しで未亡人もセフレンもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが未亡人は斜めに座っているのでさほどずれてはいないのかも知れない。 ⑱森の中を歩いてゆくセフレンとそれを見ている未亡人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。位置関係が定かではないがおそらく主観ショットとして撮られている。 ⑲ベンチに座って話している2人(セフレンとマリ)と森を歩いて来る未亡人とのあいだは、4ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで3ショット内側から切り返されている。 ⑳■その直後、やって来た未亡人とセフレンとのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■さほどずれているわけではないが未亡人はオフオフを使っている。 21結婚式での参列者たちとそれを見ているマリとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 22結婚パーティで驚いてお皿をひっくり返したマリとそれを見ている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■この結婚式のパーティもエスタブリッシング・ショットが撮られておらず多くは『分断』されて撮られている。お盆を落としたマリは何に驚いたのか不明。 23セフレンが未亡人に「私が主人だ」と宣言するシーンでの2人のあいだは、外の使用人とのショットを除いて11ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■セフレンも未亡人もどちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインが合っていない。しかしどちらも人物の左側から撮られている=逆から切り返されている=ので実際のイマジナリーラインは合っているのかも知れない(ハリウッド映画的切り返しはキャメラの位置は変わらないのでキャメラは人物の右側と左側になる)。しかし見た感じでは大きくずれているように見えてしまう。 24(23の過程で)外で作業をしている使用人の男(エミール・ヘルセングレーン)と彼を窓越しに呼びつける未亡人とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。 25その直後、使用人に締めあげられるセフレンとそれを見ている未亡人とのあいだは、同一画面に挟まれた5ショット内側から切り返されている。 26その直後、部屋を出て行き布巾を畳んでいる未亡人とそれを見ているセフレンとのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 27籠を持って家の中に入ってゆくマリと草むらに寝そべってそれを見ているセフレンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 28野外のロープにかけられた敷物とそれを見ているセフレンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 29■その直後、敷物を編んでいる使用人の女(マティルデ・ニールセン)と敷物の隙間から指を出しているセフレンとのあいだは、4ショット目に2人の「指だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、7ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 30その直後、セフレンの手を握って捕まえている使用人の女と小屋から出て来た未亡人とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■未亡人はオフオフを使っている。 31マリの部屋に夜這いに忍び込んできたセフレンとベッドで横になっているマリとのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。ベッドの位置が不明確で場所的感覚が浮遊している。セフレンと未亡人とのあいだもずれている。未亡人に言い訳する時、セフレンはフルショットでキャメラを正面から見据えている。 32■その後、未亡人がセフレンにスプーンで薬を飲ませる時の2人のあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されている。未亡人の照明が修正されている。狭い逆側へ敢えてキャメラが置き直されている。その後、同一画面に引かれたショットはまるで額縁のように縁取られている。 33■再び夜這いに来たセフレンと未亡人、マリ、使用人の女とのあいだは、5ショット目に使用人の女と収まった同一画面を除いた13ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■■セフレンと蒲団の中から顔を出した使用人の女とのあいだが窮屈。 34■夜、狭い部屋でセフレン、未亡人、マリの3人が椅子に座って仕事をしているシークエンスにおける3人のあいだは、最初と最後の『正常な同一画面』に挟まれた17ショット内側からの切り返されている。■同一画面の全景を撮ったエスタブリッシング・ショットの客観性に挟まれながら、周囲をアイリスで暗くした近景から撮られている空間は照明の修正を含めて異質の主観的時空を形成しており、特に未亡人の死を願っているセフレンとマリの企みが2人のあいだのクローズアップの切り返しによって主観的に露呈している。マリには同一画面から照明が修正されてバックライトが当てられている。■狭い空間で正面から撮っているので人やセットをどけて別々に撮らない限り撮ることはできない。 35■悪魔の絵とそれを見ているセフレンとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 36■その直後、同じように悪魔の絵とそれを見ているマリとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■照明の修正された娘のクローズアップはその直後に引かれた画面とはまったく異質の主観的時空へと転化されている。 37セフレンとマリが悪魔に変装してベッドで寝ている未亡人を脅かしに行った時の3人のあいだは、12ショット目に未亡人とセフレンが同一画面に収められているがそこでは未亡人が画面の中に入って来た時セフレンは既に画面の外に消えており(『持続による同一存在の錯覚』)、次のショットで2人は『正常な同一画面』に収まり終わっている。『持続による同一存在の錯覚』もまた『奇妙な同一画面』と同様、存在することが却って『分断』を露呈させるという効果をもたらしている。 38■セフレンが梯子を外しマリが誤って落下したシーンにおける駆けつけたセフレンと二階の未亡人とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 39■回復したマリの横で身の上話を始めた未亡人とセフレン、マリとのあいだは、 4ショット目に同一画面に収められさらに9ショット目に再び同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■狭い空間で正面から撮っているので人やセットをどけて別々に撮らない限り撮ることはできない。 40■その直後、未亡人と彼女に許しを乞うセフレンとのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■今度はセフレンは横から撮られているがその場所にはマリがベッドで寝ているはずであり、かつ未亡人は正面から切り返されているのでその直前の外側からの切り返し同様、キャメラの入りづらい狭い空間にキャメラを置いて(おそらくマリかマリのベッドごとどけて撮っている)撮っている。セフレンの照明が修正されている。 41藁を持って小屋から出てきた使用人の女と木を削いでいる使用人の男の2人と未亡人とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■未亡人を人が見た最後のシーンであり、馬と戯れ、家の中に入る時、振り向いて世界を見回してから入ってゆく、その最後の姿を使用人たちが目撃している。 42亜麻の種を撒いているセフレンとそれを見ているマリとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ■総評 『彼女は僕に誠実な人間になるすべを教えてくれた』というセフレンの言葉によって映画は終わっている。多くが内側からの切り返しによって撮られているこの作品にはさらなる『分断』を見出すことが可能である。 正面から撮られているショットはそれが切り返しではなく1ショットであっても構図、照明を修正しながら別々に撮られている。 ■カッティング・イン・アクション 『分断』⑤におけるカッティング・イン・アクションのように、動作の重複が少ないか、或いは重複なしの寄る・引くが基本。 ▲平行モンタージュ 多用 ■ハイ・コントラスト 黑を意識したハイ・コントラストで撮られている。 ■トラッキング なし ■アイリス 極めて多い。アイリス・アウト→アウトする手前で止まるアイリス・アウトが多用されている。アイリス・イン・あり。 ■ワイプ 横と縦がある。横ワイプで中央で止まって画面を分割する。 ■フェイドアウト 多用 ■軸が動く 納屋の壁に寄りかかって笛を吹いているセフレンからキャメラが左へ横移動して小屋でペダルを踏んで作業をしている使用人を映し出す。これはトラッキングではなく横移動✕。人物を追うことなくキャメラだけが横へ動くこと。以降、この方法を、横へ移動する人物をキャメラが同じような横に移動して撮る『横移動』とは別に横移動✕として検討する ■画面分割 セフレンがマリの部屋に夜這いに行くとき、画面の左にセフレンの足、右にベッドで横になっている未亡人が撮られている。 ■オフオフ 『分断』⑬で未亡人が使っている。 ■成瀬目線 なし ■額縁・絵が動く 『分断』32。セフレンが仮病を使って未亡人に苦い薬を飲まされた後、キャメラが隣の部屋に大きく引かれた時、ドアの枠が額縁となりまるで絵が動いているようなショットが撮られている。 ■分離 笛を吹いているセフレンの頭に使用人がバケツの水をかけるシーンはキャメラがまず窓から顔を出す使用人とバケツを捉えてから下へパンダウンし下で笛を吹いているセフレンの頭に水がかかり始めるがその時には使用人とバケツはフレームの外部へ出ていて流れ落ちる「水のみ」が撮られている。ショットは持続しているが水を流れ出す主体(使用人とバケツ)と流れ落ちて来る水とが分離されている。こうした傾向はある領域に属するサイレント映画のある種の傾向として顕著に見受けられる。 ■起源 ①セフレン 貧しい農家の出身。みなの助けで大学に入り苦学をして牧師になるための訓練を受けた。 ②マリ 『牧師になるまでは結婚してはならない』という父の言いつけを守り何年も待ち続けている。 ③未亡人 終盤、本人によって「起源」が語られている。 ■回想 なし ■罪の意識 あり。セフレンとマリが未亡人に対して。 ■「常習性」 牧師の仕事は最初の候補者時代の説教だけで職務遂行型ではなく人間の常習性の物語。罪の意識、改心といったメロドラマではあるものの心理的なショットは撮られておらず根底にある人間性への信頼は変化していない。牧師の候補者としての説教、泥酔、私が主人だという宣言、悪魔の変装、階段を外すこと、といったエピソードを断片的に撮ることによってセフレンの弱さの中にある人間性をあぶり出している。 |
308-5-88-多い ■外側からの切り返し ①結婚式の時、やって来た2人の男が式を司る牧師と話している時、2人の男が正面から撮られた後、1ショット2人の真後ろから切り返されている。 ②結婚式でその牧師の前に立っている未亡人のバスト・ショットが撮られた後、1ショット2人(未亡人とセフレン)の外側から(真後ろから)切り返されている。①②どちらも真後ろから切り返されているので1台のキャメラで別々に撮られており古典的デクパージュにおける「インスタント」の要素はない。また②の外側からの切り返しは未亡人の後ろに立っている参列者たちをどかして撮っている。 ③落下してベッドで眠っているマリの蒲団を直している未亡人が1ショット外側から切り返されている。 ④■未亡人の看病でマリが回復してから、昔話をし終わった未亡人の膝にセフレンが顔を埋めた後、1ショット未亡人の外側から切り返されている。壁際でキャメラの入らない位置から(壁をはずすか場所を変えてから)敢えて外側から切り返されて撮られいる。セフレンの照明が修正されている。 ●逆からの切り返し ①『分断』23参照 ②『分断』32。仮病のセフレンに未亡人がスプーンで薬を飲ませる時 これら以外にも微妙な逆からの切り返しは撮られている。 |
1921 | 不運な人々 DIE GEZEICHNETEN 独 |
はっきりは以下 ①『分断』④ 少女時代の娘が母親に怒られて泣く時キャメラを正面から見据えるアイリスのクローズアップでキャメラを正面から見据えている。 ②『分断』⑨ 小舟の中でハンネ=リーベの学友マニアが何度かフルショットで ③『分断』⑲ 兄の弁護士ヤーコヴとその妻とのテーブルでの会話の時、弁護士がクローズアップとバスト・ショットで6ショットキャメラを正面から見据えている。妻も1ショット見ている。 ④『分断』30 ⑤『分断』40 ⑥『分断』72 ハンネ=リーベの恋人(トーライフ・ライス)に銃を突き付けられた商人の息子がキャメラを正面から見据えるクローズアップが2ショット。 |
4.1 872
1365 94 20世紀始めの南ロシアのある川沿いの町。ハンネ=リーベは反ユダヤ的感情を持つ人々が多く住むこの町でユダヤ人の娘として育てられロシアの女学校へ入学する。ロシアでは革命派の若者たちが大衆へ革命の思想を伝搬し始めている。時は過ぎて1905年、あと数か月で女学校を卒業するハンネ=リーベ(ポリーナ・ピエコフスカ)は大学へ入るため都会へ行くことになるロシア人の恋人サーシャ(トーライフ・ライス)から秘密の革命団体に入っていると聞かされたとき、ちょうど川辺に居合わせた商人の息子フージャ(リヒャルト・ボレスラフスキー)と学友に2人の姿を見られてしまい市場であらぬ噂を広められ学校を退学になる。ハンネ=リーベの姉ツィベ(ジルヴィア・トルフ)は母親を説得しユダヤ人の結婚仲介人マハレルスを通してハンネ=リーベの結婚相手を探すがお見合いの席から飛び出したハンネ=リーベはその夜、鞄一つで農道の一本道を兄のいるロシアの首都へと旅立ってゆき、同じくサーシャは首都で革命家のサークルへ参加し最初の爆弾を投げる任務を率先して引き受ける。一方、ユダヤ人であることを隠しキリスト教に改宗したハンネ=リーベの兄ヤーコヴ(ウラジーミル・ガイダロフ)はペテルブルクの売れっ子弁護士であるものの妻とは倦怠期を迎え売春浴場に通っているある日、以前の事件で見たことのあるリローヴィッチ(ヨハンネス・マイヤー)がロシア皇帝の秘密警察のエージェントの娼婦ペヒータと通じていることを目撃し彼がスパイであるとの疑念を抱く。兄を頼って首都へやった来たハンネ=リーベは兄と再会したあと、預けられたフロロウ家でサーシャとも再会する。そのフロロウ家のパーティでサーシャから革命戦士として紹介されたリローヴィッチを見た兄ヤーヴェは彼が秘密警察に買収されたスパイだと確信しそれを告げるため翌日サーシャと会う約束をしたが現れず心配したハンネ=リーベが探しに行くと既に革命サークルのアジトはスパイの密告を受けた秘密警察の摘発によって空になり居合わせた彼女も逮捕され連行される。娼婦ペピータは秘密警察の署長に呼び出されユダヤ人虐殺によって革命の目を逸らすよう提案しその任にスパイのリローヴィッチが当てられ彼は僧侶に変装してハンネ=リーベの故郷へと向かう。秋が来て、兄の尽力で釈放されたハンネ=リーベもまた故郷へ戻ると地元の女たちにありもしない噂を広められる。スパイは商人の息子や住民たちにユダヤ人たちが何をしてもいいという法律がまもなく出来ると嘘をついて反ユダヤを扇動する。母、危篤、すぐ帰れ、の電報をもらった兄はストライキのため汽車から荷馬車に乗り換え故郷へ向かうが途中に寄った酒場で踊っているダンサーが突然死するのを見る。時を同じくして皇帝は全ロシア市民の自由を保障して政治犯に恩赦を与え、釈放されたサーシャはハンネ=リーベの身に危険が迫っていると上司を説得しストライキのリーダーの汽車を使って故郷へ向かう。家に到着した兄は母を見舞った夜、眠りについてから母のような亡霊を見るが、起きると母が亡くなっていた。その後、ある老婆からユダヤ人が埋葬されている新しい墓の死者がお前の悪い体液を吸いだしてくれると聞いた病気の男がハンネ=リーベの母親の墓を暴いているのを見た兄は男を殴り倒す。自由をくれた皇帝を礼賛する行進は商人の息子の扇動もあって次第に反ユダヤへと暴徒化しハンネ=リーベの義兄アブラハム(フーゴー・デーブリン)は群衆のリンチで犠牲となり兄ヤーコヴも家に押しかけて来た商人の息子たちに捕まり最後はスパイに撃たれて殺される。危うく商人の息子の手に落ちそうになったハンネ=リーベは駈け付けたサーシャに助けられ2人は国を逃れて歩いて来るユダヤ人たちを見つめながら自由を求めて馬車で国境を目指してゆく。 ■『分断』74箇所。 ①幼少時代、木に登っている商人の息子と彼に手を振るハンネ=リーベとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■イマジナリーラインは合っているのだろうがハリウッド映画では余り見ない逆方向への切り返し。エスタブリッシング・ショットの不在。 ②その直後、木の上の子供たちとそれを見ているロシア人商人(Dr.J.ドゥワン=トルツォフ)とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③その直後、娘を突き返された母親(アデーレ・ロイヒター・=アイヒベルグ)と突き返したロシア人商人とのあいだは、最初のショットで『正常な同一画面』に収められた後、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれている。正面から撮られている商人は母親と向き合っているにもかかわらずキャメラの左側を見ている。 ④■その直後、母親に怒られて泣いているハンネ=リーベと母親とのあいだは、最初のショットで『正常な同一画面』に収められた後2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■見つめ合っていながらキャメラを正面から見据える娘のクローズアップとキャメラの左下を見ている母親とはイマジナリーラインがずれている。これも母親の主観ショットだとすればイマジナリーラインは合っていることになる。 ⑤母に連れられて女学校の門のところまでやって来た娘と女学校の教頭(アンナ・アルカディーヴナ)とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■教頭は一瞬キャメラを正面から見据えているが娘が小さいためキャメラを2人のあいだに置いたかは不明。 ⑥学校の廊下に立っている娘と彼女に挨拶しないとたしなめる教頭たちとのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■娘の照明が修正されている。 ⑦木戸を開けて庭に入って来た娘の恋人サーシャ(トーライフ・ライス)とそれを二階のテラスから見ているハンネ=リーベ(ポリーナ・ピエコフスカ)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。主観ショット。 ⑧川べりで寝そべっている商人の息子フージャ(リヒャルト・ボレスラフスキー)と彼に石を投げる娘の学友マニヤとのあいだは、同一画面に挟まれた5ショット内側から切り返されている。 ⑨■小舟を漕いでいる商人の息子と彼を誘惑する娘の学友マニヤとのあいだは、ロングショットの同一画面に挟まれた4ショットが内側から切り返されている。■船の中で2人は正面から撮られマニヤは何度かキャメラを正面から見据えている。 ⑩その直後、船を降りて丘に座った娘の学友マニヤと船の上で魚の仕掛けを調べている商人の息子とのあいだは、16ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■正面から撮られている。 ⑪教室で噂話をしている生徒や教師たちとそれを見ているハンネ=リーベとのあいだは、5ショット目に教師と同一画面に収められるまで内側から切り返されている。最初の2ショットは主観ショット。■教師は娘が教壇に近づいて来るとき成瀬目線を使っている。ぎこちない目の動き、正面から撮られている。 ⑫その直後、ハンネ=リーベと彼女に退学を言い渡す女教師(と生徒たち)とのあいだは、6ショット目に生徒たちと同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■5ショット目に密告をした女学生マニヤが成瀬目線を使っている。これもぎこちない視線の動き。成瀬目線は画面の外に存在しない者を存在するとしてその動きを視線で追うものゆえにどうしても視線が飛んでしまう。この女学生の視線も飛んでいる。 ⑬退学になり木戸を開けて庭に入って来たハンネ=リーベとそれを二階のテラスから見ている母親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。主観ショット。 ⑭その直後、ハンネ=リーベと彼女に退学について尋ねる母親とのあいだは、2ショット目に外側から切り返されて母親とハンネ=リーベの「頭部のてっぺんだけ」が同一画面に収められる(『奇妙な同一画面』)まで1ショット内側から切り返されている。■ハンネ=リーベの照明が修正されている。 ⑮揺りかごを揺らすように夫に命ずるハンネ=リーベの姉ツィベ(ジルヴィア・トルフ)とペダルを踏む夫アブラハム(フーゴー・デーブリン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑯ハンネ=リーベに口笛を吹く商人の息子と彼に石を投げようとする娘とのあいだは、最初に同一画面に収められたあと9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑰白いドレスを着て部屋に入って来たハンネ=リーベとテーブルのお見合いの相手の男とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。■二人ともキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれている。ただ、どちらも人物のやや左側から切り返されている=逆から切り返されている=のでイマジナリーラインがずれているように見えてしまうのかもしれない。 ⑱その後、部屋を出ていく娘とそれを見ている見合いの相手の男とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■見合いの相手の男は成瀬目線でハンネ=リーベを追いかけている。視線が飛んでいる。 ⑲■テーブルに就いている妻とその右隣りに座っている弁護士の夫でハンネ=リーベの兄ヤーコヴ(ウラジーミル・ガイダロフ)とのあいだは、16ショット目で『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。■夫と妻とが何度もキャメラを正面から見据えるショットが内側から切り返されているこのシーンは強い『分断』の傾向によって撮られている。最初は右の方を見て夫と話している妻が次のクローズアップではキャメラを正面から見据えて夫の目を見ている(ように見える)。イマジナリーラインがずれているというよりも喪失している。夫が立ち上がった時、妻は成瀬目線を使っている。倦怠期の夫婦が『分断』されて撮られる傾向は「市民ケーン(CITIZEN KANE)」(1941)にも見られている。 ⑳その直後、グラスを地面に投げつけて泣き崩れる妻と夫とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■叩きつけられるグラスは妻の手から『分離』されて撮られている。 21■回想で、病床の父親とその付き添いの者たちと、部屋に入って来た兄ヤーコヴとのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■前半は主観ショットで撮られている。■狭い空間で人をどけて撮られている。 22その後、裁縫をしている母とそれを見ている兄ヤーコヴとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 23兄ヤーコヴと彼を誘う娼婦とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■最初のショットは娼婦の左から、切り返されたショットもまたヤーコヴの左側から撮られている。通常とは逆から切り返されている。さほどずれを感じさせる切り返しではないが念のためここに書いて置く。 24コートを掛けているヤーコヴと浴場の係りの者とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 25売春浴場の個室のドアを開けて入って来たヤーコヴと彼を待っていたユダヤ人売春婦とのあいだは。3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 26白い馬に引かれてやって来る馬車とそれを見ているスパイ(ヨハンネス・マイヤー)とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。■スパイは小さく成瀬目線を使っている。 27浴場に入ってゆく男女のスパイとそれを見ている兄ヤーコヴとのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■4ショット目に弁護士は成瀬目線を使っている。 28家の前の階段に座っているハンネ=リーベ(妹)とそれを見ている兄とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。アイリス主観ショット。 29ハンネ=リーベが預けられたフロロウ家で恋人サーシャと再会する時の2人のあいだは、4ショット目に娘の後ろから外側から切り返されて同一画面に収められるまでの3ショット内側から切り返されている。■イマジナリーラインがずれている。恋人が正面から、ハンネ=リーベが正面やや右側から撮られているのでイマジナリーラインは殊更ずれているように見えるのかもしれない。 30ハンネ=リーベを預かっているフロロウ家の屋敷に招待されたスパイと兄ヤーコヴとのあいだは、27ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■兄が正面から撮られたクローズアップで、成瀬目線でスパイを追いかけたりキャメラを正面から見据えたりしている。スパイと兄とは同一空間に存在しながらこの長い時間、1ショットも同一画面に収められずに終わっている。1つ1つのショットを「そのひと」として撮ることに加えここではフリッツ・ラング「メトロポリス(METROPOLIS)」(1926)におけるブリギッテ・ヘルムとグスタフ・フレーリヒとのあいだような、人と人とのあいだを同一画面に収めてはならない強い意志を見出すことができる。 31連行されるハンネ=リーベとそれを窓から見ているスパイ・住民たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。スパイは成瀬目線で見ている。二階の窓から身を乗り出して見ている住人たちのショットは恐ろしいほどずれている。 32秘密警察の所長とユダヤ人虐殺を提案する娼婦ペピータとのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■どちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれている。逆から切り返されているのでイマジナリーラインが殊更ずれているように見えるのかもしれない。 33鍋を焚いている商人の息子とそれを上から見ている僧侶に変装したスパイとのあいだは、同一画面に挟まれた6ショット内側から切り返されている。■上下空間の『分断』。落とされる砂は落としたスパイの手から『分離』されて撮られている。 34その後、スパイのポケットから見えている酒瓶とそれを見ている商人の息子とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 35その後、商人の息子と彼にコインを投げるスパイとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 36洗濯をしながらハンネ=リーベの噂話をしている女たちのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最初の、のこぎりを引いている女と吊るされた洗濯物の前の女とはイマジナリーラインがずれている。逆から切り返されているのでイマジナリーラインがずれているように見えるのかもしれない。最初にエスタブリッシング・ショットが撮られている一瞬のロングショットでどの女がどこにいるのかまったくわからずこのエスタブリッシング・ショットは存在していないも同然のように撮られている。 37妻に拳を振り上げる夫ヤーコヴとそれを見ている召使とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。召使はヤーコヴとその妻を「オフオフ」の視線で見ている。 38その直後、夫と彼を見ている妻とのあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■途中までは主観ショット。 39その直後、引き出しの中からボタンを取り出すヤーコヴとそれを見ている妻とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれている。キャメラがどちらも人物の正面やや右側に置かれている=逆から切り返されている=ことがこうしたイマジナリーラインの「ずれ」を生じさせるのかもしれない。 40義兄アブラハムと彼に商売の邪魔をするなと怒鳴るロシア人商人とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められた後、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ロシア人商人はキャメラを正面から見据えたりキャメラの右側を見たりしている。 41馬車で酒場に到着した兄と彼に吠えている犬とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 42酒場で踊っている女とそれを見ている兄とのあいだは、5ショット目に兄の後ろから外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 43踊っていて突然死する男とそれを見ている者たちとのあいだは、9ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 44その直後、入って来た御者と兄とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■御者はオフオフを使ってダンサーの死んだ酒場の方へと視線を移しているがぎこちない。 45馬車で家に帰ってきた兄とドアからそれを見ているロシア人女中(B・ホーホ・ピンノーヴァ)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■おかしなショットのつながり方をしている。 46その後、馬車に寝そべっている御者と振り向いて彼に言伝する兄とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■ほとんど無意味のショットを意味ありげに撮っている。 47■ベッドに寝ている母とその部屋に入って来た兄とのあいだは、5ショット目で兄と母の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、さらに9ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■最初の母のショットは主観ショット。近距離からの切り返し。 48■その直後、ベッドの母と他の者たち(ハンネ=リーベ、兄、姉夫婦)とのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 49母を見守っている兄とドアを開けて彼を見ている姉たちとのあいだは、5ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 50鍋で茹でられている玉子とそれを見ている同志とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■意味を読み取る象徴的ショット。 51鍋で茹でられている玉子と3人(党の幹部と彼に掛け合っているサーシャと同志)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■意味を読み取る象徴的ショット。 52その直後、揺り椅子に揺られている男と3人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■物語的にはまったく無意味な揺り椅子の運動が別々に撮られている。まるでエイゼンシュテインが撮ったかのようなナマのリズム運動。揺り椅子は「革命が動き出した」という意味があるのかもしれない。 53眠っている兄の体からもう一人の彼が抜け出して亡霊と遭遇するシークエンスでは、8ショット目で兄と亡霊が『正常な同一画面』に収められた後、9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■兄は2回成瀬目線で追いかけている。特に1回目は視線が飛んでいる。■体からオーヴァー・ラップで抜け出した者たちの「白」が際立つ空間は「吸血鬼(VAMPYR)」(1931)へ。 54その直後、母親の亡骸の周りに集まっている人々とドアを開けてそれを見ている兄とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 55皇帝の支持者たちと路地からそれを見て逃げてゆくユダヤ人の結婚仲介女とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 56母親の墓を掘り返している男とそれを見ている兄とのあいだは、7ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 57その直後、さらに2人のあいだは8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■どちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが、男は振り向きざざまに半身で真後ろに立っている兄を見ていることから右の方を見ることは正しいことになる。さらにこの場合もキャメラは双方の左側から撮られている(逆から切り返されるている)ことからイマジナリーラインがずれているように見えるのかもしれない。最後の切り返しのショットで男は僅かだが視線を左から右へと成瀬目線で動かしていることからすればこの切り返しもまた別々に撮られているように見える。 58皇帝の額を持って演説している皇帝の支持者とそれを二階のテラスから見ている女たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 59演説をしている商人の息子とそれを離れた場所から見ている者たちとのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 60皇帝の支持者たちと屋根の上で旗を振っている男とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 61路地から出て来て逃げる義兄アブラハムと彼を捕まえろと指示するロシア人商人とのあいだは、5ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 62皇帝のパレードとそれを見ているスパイとのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 63鐘を鳴らす男とそれを見ている2人(スパイとロシア人商人)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 64暴徒たちとそれを二階の窓から見ている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。 65銃を構えている男と撃たれて倒れる男とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■このあたりのショット感覚とスピード、そして『分断』の傾向は既にエイゼンシュテインを先取りしている。 66二階のテラスから下を見ているハンネ=リーベと下から怒鳴る商人の息子たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。■上下空間の『分断』。 67暴徒に囲まれ銃を発砲する兄とそれを二階の窓から見ているハンネ=リーベとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■上下の切り返し 68鶏小屋と銃を投げ捨てた商人の息子とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットが撮られていないので切り返しなのかどうかも不明。 69やって来たスパイと暴徒に取り押さえられている兄たちとのあいだは、13ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■逆から切り返されている。 70梯子を降りて逃げて来るユダヤ人とそれをドアを開けて見ている女とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 71商店で略奪する暴徒たちと二階の廊下から枕の羽を舞い落している男とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■上下空間の『分断』。まったく無意味な運動。エイゼンシュテイン的でもある。階下に舞い落ちる羽はそれを2階から舞い落している男の手から『分離』されて撮られている。 72失神したハンネ=リーベを抱きかかえている商人の息子と救出に駆けつけた彼女の恋人とのあいだは、最初のショットで同一画面に収まるが恋人は背中を向けていて「その人」とは特定できず(『奇妙な同一画面』)、10ショット目で2人は『正常な同一画面』に収められた後、16ショット目まで内側から切り返されそのまま終わっている。■商人の息子がキャメラを正面から見据える2つのクローズアップを含めて別々に撮られている。『分断』の最後は上下空間で終わっている。 73息子の亡骸にすがりつくロシア人商人とアコーディオンを弾きながらそれを見ている男とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 74国境へ向かう人々とそれを馬車の上から見ている2人(ハンネ=リーベとその恋人サーシャ)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■ラストシーンのエスタブリッシング・ショットが撮られていない。 ■評 切り返されずに1ショットだけ撮られたショットも多くは別々に撮られている。殆どすべてのショットが別々に撮られていることからさらなる『分断』を見出すことができるだろう。皇帝の支持者たちが暴動を起こし始めてから一気にスピードが増しエイゼンシュテインかと錯覚するような無意味なショットの連鎖も現れている。娘の救出のクロス・カッティングなどはD・W・グリフィスから来ることだろうが、ショットの流れはむしろこの作品の4年後に処女作を撮るエイゼンシュテインに接近している。 ■1ショットだけのずれ 非常に多い。 ■平行モンタージュ 多用されている。 ■カッティング・イン・アクション ①革命サークルでサーシャが最初に自分が爆弾を投げると志願して立ち上がる時、「立ち顔」が撮られている(「サタンの書の数ページ」(1919)「ミカエル(Michael)」(1924)「怒りの日(Vredens Dag)」(1943)の『カッティング・イン・アクション』参照。 ②病気を治すという女がとかした髪を後ろへ回す時にカッティング・イン・アクションで大きく引かれている。しかしこのような大きな動作の重複させるカッティング・イン・アクションはこれくらいで動作の重複の少ない寄る・引く・が基本。 ■ハイ・コントラスト気味で黑が出ているがグラデーションの幅もある。 ■アイリス 多用 ■フェイドアウト・フェイドイン・多用。 ■分離 『分断』⑮のあと、揺れている揺りかごだけがそれをペダルで揺らしている父親から「分離」されて揺れている。 ■軸 ①母、危篤の電報をもらった兄ヤーコヴが妻ににじり寄り拳を振り上げる時。 ■太目 ハンネ=リーベはやや太め ■目を開けて死ぬ 酒場のダンサーが ■ナイフを逆手に握っている ハンネ=リーベが終盤襲われる時。 ■エイゼンシュテインについては『分断』で何度か言及している。特に恋人のサーシャがハンネ=リーベを助けに故郷へ向かうあたりから一気に『エイゼンシュテイン的」になる。この時未だエイゼンシュテインは処女作「ストライキ(STACHKA)」(1924)を撮っていないのだから当然ながらエイゼンシュテインが『ドライヤー的』なのだが、歴史家はエイゼンシュテインという「権威」の味方をしたがるようである。特に群衆を扇動した商人の息子が馬車の荷台に乗って街を出る時にふと挿入される少女のクローズアップ、これが驚くほど『エイゼンシュテイン的』である。この作品が『エイゼンシュテイン的』になって行くのはサーシャが「党幹部」を説得して汽車に乗り人々が蜂起して映画が『群衆の映画』へとなってゆくあたりからである。 ■起源 兄はユダヤ教徒であることを隠してキリスト教に改宗した。 ■回想 あり 兄がキリスト教に改宗したことで父親から罵倒されるシークエンス。 ■罪の意識 なし ■「常習性」 強い。 |
515-27-108-非常に多い ■多くの外側からの切り返しは真後ろからなされており1台のキャメラによって撮られている。 ①ハンネ=リーベの姉が出のショットで夫に赤ん坊を抱かせるとき2ショット外側から切り返され。真後ろから切り返されている。 ②『分断』⑭参照。1ショット。『奇妙な同一画面』との融合。ハンネ=リーベの真後ろから切り返されている。 ③結婚仲介人の女が姉の家にやって来てお見合い相手の写真を見せる時、2ショット(間をおいて)女の外側から切り返されている。■ここでの内側からの切り返しは逆から切り返されている。 ④見合いの相手が結婚仲介人の女に相談に来た時、1ショット女の外側から切り返されている。逆から切り返されている。 ⑤『分断』29参照。真後ろから切り返されている。 ⑥メイドがドア越しに母親に息子のヤーコヴからの手紙を渡す時、2ショット続けて外側から切り返されている。殆ど真後ろから切り返されている。 ⑦商人の息子が僧侶に変装したスパイに『ここに座りなさい』と地面を叩いた後、1ショット商人の息子の外側から切り返されている。殆ど真後ろから切り返されている。 ⑧その後、『まもなくユダヤ人が全ロシアを手に入れるという法律ができる』とスパイが誘惑するとき、商人の息子の後ろから2人を捉えた『古典的デクパージュ的人物配置』に近い配置が撮られそこから2ショット続けて外側から切り返されているが、2回とも逆から切り返されている。 ⑨その後、スパイが立ち上がる時、1ショット商人の息子の外側から切り返されている。殆ど真後ろから切り返されている。 ⑩『分断』42参照。1ショット殆ど真後ろから切り返されている。 ⑪広場で人をかき分け群衆の中へ入って来た商人の息子から3ショット続けて外側から切り返されている。1ショット目と3ショット目は『古典的デクパージュ的人物配置』だが2ショット目は男の肩しか映っておらず『奇妙な同一画面』とも言うべきショット。 ⑫僧侶に変装したスパイの前で十字を切るロシア人商人の外側から切り返されている。1ショット。逆から切り返されている。キャメラは一台。 ⑬ドアを開け暴徒となったロシア人商人の息子たちと向き合った兄ヤーコヴの外側から切り返されその直後、今度はロシア人商人の息子の外側から切り返されている。2ショット続けて。殆ど真後ろから切り返されている ⑭ロシア人商人の息子が斧でドアを破った後、1ショット彼の外側から切り返されている。見事な視点転換。 ●逆からの切り返し ①外側からの切り返し③参照 ②外側からの切り返し④参照。。見合いの相手が結婚仲裁人の女に相談に来た時、最初の切り返しが逆から切り返されている。 ③『分断』⑰参照 ④『分断』32参照 ⑤外側からの切り返し⑧↑参照 ⑥『分断』39参照 ⑦『分断』57参照 ⑧外側からの切り返し⑫ ⑨『分断』69参照 |
1922 | むかしむかしDER VAR ENGANG デンマーク |
20ショットくらい。多くはちらちら。はっきりは以下 ①『分断』⑩ 王子が王と王女に謁見している時に王女と王が。 ②『分断』⑬ 森で精霊が最初にキャメラを正面から見据えているクローズアップ ③『分断』⑲ 王子と王女がキスをしている時に侍女がクローズアップで。 |
7.2 503
645 77 むかしむかし大海の遥か彼方にあるイリヤという王国にわがままなカトリンという王女がいました。求婚者は数知れず、お眼鏡にかなわぬ者たちをさらし首にし、飼っているインコがいなくなると侍従を縛り首にするような冷淡な女だった。そこへ北国よりデンマークの王子がお供のリューハッツを連れて舩でやって来てデンマークの春、夏、秋、冬の素晴らしさを語りながら王女に求婚するが縛り首は免れたもののあっさりと拒絶される。落ち込んだ王子は祖国へ帰ると森で精霊の末裔である行商人から未来の見える魔法のやかんをもらいそこには陶工となった自分が妻の王女と働いている姿が映し出される。イリヤ王国へ戻った王子は陶工に変装し、精霊からもらった玩具と魔法のやかんを王女に見せびらかして誘惑し玩具を条件に王女とキスをし、魔法のやかんを条件に夜、王女の寝室で寝る約策を取り付ける。夜中に王女の寝室に入った王子(陶工に変装した)は魔法のやかんを見せて未来の姿を王女に見せるが王女は信用せず暖炉の隣で寝ることになる。一方、デンマーク王子の使者として騎士に変装したお供のリューハッツは王に招き入れられて城に入り王へのメッセージを伝える。わが王子は王女の評判を危うくさせるような大胆な行動に出ました。そして王女の寝室にいる陶工がいるのを見てリューハッツは『王女をこの狼藉者の陶工ともども国外追放されよ!、さもなくばわが王子がかくも侮辱を受けた貴国に対し宣戦布告する」と脅かした。(フィルムの多くが欠落しているこのあたりの物語がよくわからない。解釈すると以下のようになる。お供のリューハッツが言っているのは、王子は陶工に化けて王女の寝室に入り敢えてあなたの王女の評判を危うくさせる。それをバラされたくなければ王女を国外追放せよ。さもなくば戦争だ、、と。そして王もお供も、陶工を王子だとは知らないふりをして王女を国外追放にさせた、と。ただ、この「国外追放」が、王子が王女と結婚するためなのかそれとも王女に侮辱された王子が王女を懲らしめるためなのかはよく分からない。おそらく後者だろうが、、)。追放された2人は荒野をさまよいデンマークまでたどりつくと森の中の古い陶工の家を見つける。一向に働こうとせずそれだころか(陶工に変装した)王子に『私を誰だと思っているの。跪(ひざまず)きなさい』と命令する王女は『ここでは俺が王様だ!』と王子に怒鳴られあえなく改心し陶器づくりの仕事に精を出す。炭焼き場の老人を手伝う王子を残し王女ひとりで市場に陶器を売りに行くが森林警備たちに壊されてしまい怒った王子は密漁をして森林警備隊に追われるが隠れてやり過ごした後、王女は王子への愛を告白し2人はキスをして結婚する。→→ここからは多くのフィルムが失われているので字幕と写真によることになる。その後、王子が病に倒れると王女は城へ食べ物を乞いにいきリューハッツの許嫁のボレットに食事をもらう代わりに城で働くことになる。結婚するために外国の王女を伴い城に帰って来た王子(一人二役)は王女(架空の)が旅の途中で病気になったがどうしても式を挙げたいので下女たちの中から王女と寸法の合う女を探し出し代わりに花嫁役を演じさせることになりサイズの合った王女が花嫁役を務めることになる。夫が病気だから帰りたいという王女の願いもかなわず婚礼は夏至の日に行われ、式が終わった後、衣装を脱いでいる王女は『カトリン』という呼びかけに振り向き、近づいてきた彼を見つめ、抱きしめる。婚礼の噂を聞いた王様がやって来る。2人は窓辺に寄り添い、遠くに燃える夏至祭のかがり火を見つめている。 ■『分断』33箇所。 ①最初の求婚者と王(ピーター・イェアンドーフ)と王女(クララ・ポントピダン)とのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最初と5ショット目の同一画面はロングショットで求婚者の顔は「その人」と特定できない(『奇妙な同一画面』)。ただのロングショットと言ってしまえばその通りだが。 ②止まり木にいないオウムとそれを見ている王女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③2人目の求婚者と2人(王と王女)とのあいだは、24ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■王女は求婚者を見る時、最初は正面付近を見ていたのがしばらくすると思い切りキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれている。王は2回成瀬目線を使っている。求婚者と2人は1ショットも同一画面に収められていない。 ④楽器を演奏している者たちと王とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑤木に留まっているオウムとそれを見ている侍従たちとのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑥船からボートへ乗り移る王子のお供の者(ハーコン・アーンフェルツ=レンネ)とそれを見送る者たちとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑦現れた王が初めて2人(王子とそのお供)と会った時の両者のあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■王は正面から撮られている。 ⑧インコを捕まえてきた侍従とそれを見ている王女とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑨その直後、侍従と王女のあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑩化粧を直している侍女とその脚を盗み見しているお供の男とのあいだは、最初のショットで同一画面に収まっているが侍女は後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、その後の10ショットは内側から切り返されそのまま終わっている。■コンパクトの鏡を見ている侍女の右側から撮られたフルショットは照明が修正されている。 ⑩奥の間から出て来て王座に座る2人(王と王女)とそれを見ている王子(スヴェン・メトリング)とのあいだは、王子が自国の春から冬までをイメージするシーンを除いて19ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■王と王女が何度かキャメラを正面から見据えている。王女はオフオフを使っている。 ⑪⑩のあいだ、お辞儀をする侍女、侍従たちとそれを見ている王女とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑫その後、去ってゆく王女とそれを見ている王たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑬森の中で座っている王子とやって来た精霊とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められたあと10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■王子は終盤成瀬目線を使っている。最初のショットで精霊はキャメラを正面から見据えているが次の切り返しではキャメラの左方向を見ている。しかし王子もまた左方向を見ていることからイマジナリーラインがずれている。しかしこのシーンは逆から切り返されている(どちらの切り返しも人物の右斜めから撮られている)のでイマジナリーラインは合っているのかも知れない。また王子は振り向いたまま視線を向けているので「不運な人々」の『分断』56の検討がここでもあてはまる。 ⑭焚火の煙から出てきたやかんとそれを見ている王子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑮侍女たちと輪投げ遊びをしている王女と、彼女たちを見たあと木にもたれて玩具を振り回している王子とのあいだは、19ショット目に侍女と『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■特に城の門に位置する王女たちと木にもたれている王子とのエスタブリッシング・ショットが撮られておらず、かつ王子と王女たちはどちらもキャメラの左方向を見ているのでイマジナリーラインがずれているようにも見えるがどちらのショットも人物の右側から切り返されている=逆から切り返されている=ためにそう見えるのかもしれない。王子は彼女たちから見て左方向の木にもたれて座っているはずだが交渉に行った侍女は彼女たちから見て右方向へ向かい右方向から帰ってきている。失礼のないように遠回りしているのかも知れないがおかしな撮り方ではある。 ⑯交渉にやって来た侍女と王子とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められたあと1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■木陰にもかかわらず侍女の髪にバックライトが浴びせられている→照明が修正されている→別々に撮られている。 ⑰もう一度交渉にやって来た侍女と王子とのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■ここでも侍女に木陰のバックライトが浴びせられている。■『分断』⑲⑳の王女には『木陰のバックライト」が当てられていないことからしてもドライヤーはこの侍女がお気に入りのように見える。 ⑱振り回されている玩具とそれを門のところで見ている王女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■主観ショットの角度がずれている。 ⑲キスをしている2人(皇子と王女)とそれを盗み見している侍女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■侍女はキャメラを正面から見据えている。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑳木にもたれてやかんを叩いている王子とその音を聞きつけやかんを欲しがる王女とのあいだは、25ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ここでは2人は1ショットも同一画面に収められていない。これも『分断』⑮と同じく門のところまでやって来た王女たちと木にもたれている王子との場所的関係が撮られていない(エスタブリッシング・ショットの不在)。最初王女はキャメラの左を、王子も左方向を見ていてイマジナリーラインがずれている。仮にそれはどちらも少しだけ右側から撮られている=逆から切り返されている=からだとしても、次に王子が成瀬目線で王女を追う時には最初は右方向を見ているのはどう見てもおかしい。。 21その後、鍵を持ってやって来た侍女とそれを見ている王子とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 22その直後、振り向いて「つーん!」する侍女とそれを見ている2人(王子とそのお供)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 23楽器を奏でながら小舟でやって来る王子の使者たちとそれをテラスから見ている侍女たちとのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最初は音声だけが聞こえて来ているので切り返しではなく平行モンタージュ。テラスに出て初めて「見ること」による切り返しが始まる。エスタブリッシング・ショットが撮られず場所的感覚が浮遊している。 24止まり木のオウムと王女と侍女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 25浜辺で水を汲んでいる王子と小屋の戸口に座り込んでそれを見ている王女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 26小屋の中をほうきで履いている王子とそれを見ている王女とのあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■照明の修正された王女のクローズアップが大きくずれて入る。 27王子に『ここでは俺が国王だ!」と怒鳴られた後、桶を持って小屋を出て行く王女とそれを見ている王子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■王子の照明が修正されている。 28小屋に入って来て祭壇に花を供える王女とそれを見ている王子とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 29森林保安官に陶器を壊されて小屋に帰って来た王女と王子とのあいだは、最初のショットで王女が小屋の扉を開けた瞬間、奥にうっすらと姿を現した王子と手前の王女とが縦の構図で同一画面に収まっているが手前の王女は後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、その後、王子が小屋を出て行くまで17ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■10ショット目と14ショット目で王女は成瀬目線を使っている。王女が椅子に座った後、キャメラが王女の横顔に接近するにつれ照明が修正されている。 30その間、壊れた陶器を積んだ荷車とそれを見ている王子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 31森の中を追いかけて来る森林警備隊とそれを見ている王子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 32小屋に踏み込んできた森林警備隊とそれを見ている王女とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■王女は成瀬目線を使っている。 33厩に隠れている王子と彼を探している森林警備隊たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 →→これ以降は多くのフィルムが失われ編集の順序も定かではないので『分断』の検討はここまでにするる ■アイリス 殆どアイリスがかかっている。アイリス・アウトあり。 ■フェイドアウト あり。多用されている。 ■コントラスト 基本的にはハイキーのローコントラスト。 ■カッティング・イン・アクション 重複性は弱い。立つ・引くは無し。 ■シルエット 放浪して小屋にたどり着いた時、ドアを開けた小屋の中はシルエットになっている→「捜索者(THE SEARCHERS)」(1956)のラストシーン。 ■平行モンタージュ あり。多用はされていない。 ■軸 動かない(トラッキングなし) ■気づかないことにする デンマーク王子が初めて王様に会った時、お供の男が王様の手に持っているお菓子を口からつまみ食いするが王様は気づかない。1922年当時においても「気づかないことにする」は依然威力を発揮している。 ■太目 女王は太目、侍女たちは全員細目。 ■照明 光の帯 陶器を森林警備隊に壊された王女が帰宅する途中の森に新月の光の帯が差し込んでいる。 ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 女王にあり。 ■「常習性」 女王は「改心」しているので「常習性」は弱いようにも見える。しかし一度陶工を愛したら決して愛を曲げない性質は女王が本来持っている性質でありなんらそれは「改心」することなく一貫している。この映画はそうした愛に捧げられている。 |
282-3-35-あり ■外側からの切り返し ①菓子を左手に持った王と王子たちが初めて合って会話を交わす時、それぞれ王子と国王の外側から1ショットずつ切り返されているが連続して切り返されてはいない。これは逆からの切り返しでもある。 ②『私は王女よ、ひざまずきなさい!』と小屋の中で言われた王子が王女の腕を掴む瞬間、手前に王女の後ろ姿、奥に王子の顔を捉えた『古典的デクパージュ的人物配置』がなされるのだが次に外側から切り返されずに内側から切り返されてそこで撮られた王女のクローズアップは照明が修正され大きくずれて入って来る。しかもこのクローズアップは逆から切り返されている(どちらのショットも人物の左側から撮られている)。そのあと再びキャメラはこちら側へ戻って来て王女の後方から最初のショットと同じ『古典的デクパージュ的人物配置』へと外側から切り返されているがここも逆から切り返されている。ここからさらに外側から切り返されることはない。このショットの連鎖において『古典的デクパージュ的人物配置』からの外側からの切り返しは1ショットも撮られていない。しかも2ショット目の王女のクローズアップは大きくずれている。仮に外側から切り返された場合でもドライヤーの外側からの切り返しはずれている場合が極めて多い。 ③2人で樫の木に吊るされた死体を見たあと、炭焼き場で手前の2人(王子と王女)と奥の男が撮られた後、男の真後ろから外側から切り返されている。真後ろから切り返されているので当然キャメラは一台であり視点転換。 ■逆からの切り返し ①外側からの切り返し①参照。 ②①の直後、さらに王へと内側から切り返されているが逆から切り返されている。 ③『分断』⑬参照 ④『分断』⑮参照 ⑤『分断』⑳参照 ⑥外側からの切り返し②参照 |
1924 | ミカエル Michael 独 |
29ショット。多くは分断表の中のシーンではっきり見られている。
①『分断』⑧ ②『分断』⑪ ③『分断』⑯ ④『分断』⑲ ⑤『分断』⑳ ⑥『分断』22 ⑦『分断』28 ⑧やって来たアーデルスキョルドに『アリス夫人)は元気か?』と画家が聞く時、フルショットで。 ⑨『分断』44 ⑩『分断』55 |
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1004 89 知人たちが集まっている画家クロード・ゾレ(ベンヤミン・クリステンセン)の家に公爵夫人ザミコフ(ノラ・グレゴール)がやって来て自分の絵を書いて欲しいと言づけて帰っていく。画家のモデルのミカエル(ヴァルター・シュレザーク)は自分が画家のモデルになり殆ど息子のようになった経緯を侯爵(ディディエ・アスラン・同じ公爵だが公爵夫人とは無関係)に語り始める。彼によると4年前、画家に絵を見せにやって来たが見るべきものはないと突き返され帰ろうとしたところをモデルにならないかと呼び止められたとのこと。侯爵は、ミカエルがモデルになってから画家は名声を確固たるものにしたとミカエルを褒め称える。そこへアーデルスキョルド夫妻がやって来て夫人が侯爵と意味ありげな握手を交わしたあと一同は食卓につき死について語り始め食事が終わるとその会話をジャーナリストのスウット(ロバート・ガリソン)が画家の大研究書を書くために書き留めている。アーデルスキョルド夫妻が帰るのと入れ違いに公爵夫人が再びやって来てここで初めてミカエルは彼女を見る。最初は侯爵夫人の肖像画を書くことを断った画家だが彼女の目を見て翻意し壁に掛けてある自分の絵「勝利者」などを見せる一方、執事長(マックス・アウツィンガー)はジャーナリストに侯爵夫人の財政状態が悪いことを報告している。侯爵夫人が帰った後、画家はみずから最高傑作と認める「勝利者」をミカエルに譲ることにしいずれ私の物はすべて君のものになるという。肖像画を描き始めた画家はどうしても伯爵夫人の目を描くことができずに眠れない夜が続いている。ミカエルを待たずに画家と伯爵夫人が昼食を始めたのが不満げなミカエルだったが画家に代わって伯爵夫人の目を見事に書き終え、2人はキスをする。ジャーナリストはミカエルと侯爵夫人との関係を知らないのは君だけだよと画家に忠告するが画家はそうかとうなずくだけだった。ミカエルは画家の許しがあると嘘をつきイギリス・グラスを自分の家に持ってくるよう執事に言いつけてから劇場のボックス席で伯爵夫人と密会し、また侯爵もまた別のボックス席でアーデスギョルド夫人と2人きりになる。その後、気分が悪いからと夫を残して馬車で帰宅途中のアーデルスキョルド夫人の馬車を侯爵が呼び止め2人は馬車の中で過ごすことになる。ミカエルの家にやって来た伯爵夫人と密会を重ねる彼は画家の家には稀にしか来なくなりそれも義務感から基づくものになる。とある男爵が画家の屋敷にやって来てミカエルが多額の金を自分から借りていると話すと画家は『若いというのは金がかかるのです』と借金を肩代わりする。やって来たジャーナリストは雑誌に書かれた『画家の最新作侯爵夫人の目は別人によって書かれたものだ』という記事はミカエルの仕業だとするが画家は君の嫉妬だ、これ以上私を孤独にするなと怒り、ミカエルを追い出せというジャーナリストに子供なしで死にたくないという。その後、アパートにやって来た侯爵夫人に多額の借金の証書を見せられたミカエルは「勝利者」を売ることにし、その後、屋敷にやって来た画商(カール・フロイント)から「勝利者」が市場に出回っていると聞いた画家はそれを匿名で買い戻してミカエルの家へ送り戻す。その日以来画家は誰にも合わず「傑作」の創造に集中する。それが完成するとミカエルが戻って来るがそこでイギリス・グラスをミカエルが勝手に持ち出したことを知りそれがきっかけとなってミカエルは『もうあなたには頼らない』と反抗する。その頃アーデスギョルドは妻が公爵と浮気をしている現場を目撃する。画家の最新作の披露パーティが行われ公爵の母親(ヴィルヘルミーネ・ザンドロック)は息子を探しに来るが息子はその時、アーデルスキョルドと決闘して命を落としていた。パーティにミカエルが来ていないことに画家は落胆するがしばらくしてやって来たミカエルは画家に無断でスケッチを持ち出し画家は彼をかばうがその夜、画家は危篤になる。ジャーナリストはミカエルにすぐ来るようメモを送るがミカエルは拒絶する。画家は畑の真ん中に埋葬してくれとジャーナリストに言い遺し、執事長と手を握った後『やっと静かに死ぬことができる。私は偉大な愛を見たのだから』と息を引き取る。アパートの中庭からジャーナリストが『ミカエル、先生がお亡くなりになった!』と大声で告げそれを聞いたミカエルは取り乱すが侯爵夫人の揺りかごに揺られて静かに眠る。 ■『分断』61箇所。 ①ジャーナリスト(ロバート・ガリソン)に『この絵は売れない』と話している画家(ベンヤミン・クリステンセン)と彼に『なぜ?』と尋ねたミカエル(ヴァルター・シュレザーク)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。■特にミカエルへと切り返されたバスト・ショットがずれている。 ②画家との出会いの回想の時、返ろうとするミカエルと彼を呼び止める画家とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■どちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるがミカエルは振り向きざまの半身であること、キャメラがどちらも人物の左側から切り返されている(逆から切り返されている)ことから、イマジナリーラインはずれてはいようにも見える。 ③屋敷に入って来たアーデルスキョルド夫妻(グレーテ・モスハイム・以下アーデルスキョルド夫人とアレクサンダー・ムルスキ・以下アーデルスキョルド)とそれを見ている公爵(ディディエ・アスラン)とのあいだは、4ショット目に夫人と同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■夫人を見ている侯爵は2回成瀬目線を使っている。 ④客を集めて丸いテーブルで画家が死をイメージした絵を客に回す時の客とのあいだは、最初のロングショットとその次のショットで一同と複数人が『正常な同一画面』に捉えられたあと、髑髏の絵を見せられた夫人が死への恐怖を語りその絵が向かって左隣の公爵へと渡されるとき公爵と女の「手だけ」が同一画面に映し出され(『奇妙な同一画面』)、さらにその後は持続した長回しと左へのパンによって向かって左隣の夫へ、さらに左隣のジャーナリストへと手渡されるところを撮り続けているが、これは『持続による同一存在の錯覚』ではなく一瞬だが隣り合わせの者たちが同一画面に収まっていることからして『持続による奇妙な同一画面』ともいうべき出来事として撮られている。その後キャメラは画家へと切り返され、それからジャーナリスト、そしてミカエルとのあいだで9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■通常なら『持続による奇妙な同一画面』などいう定義はせずただのパンニングと書くところだがドライヤーの場合にそれは当てはまらない。 ⑤客の会話を書き留めているジャーナリストと彼を見ている2人(ミカエルと夫)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑥ソファーに横並びに座ったアーデルスキョルド夫人と公爵とのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■ソファーの横に座っている公爵は夫人の方を向き、かつキャメラは最初は公爵の左側から切り返され(逆から切り返されている)、次のショットでは公爵の正面から切り返されていてどちらも照明が修正されている。寄りの主観的画面と引きの客観的画面との差が著しい。 ⑦二度目にやって来た侯爵夫人(ノラ・グレゴール)とそれを見ているミカエルとのあいだは、5ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■ソファーに座って夫人を見ているミカエルと次に立った状態で夫人の動きをぎこちない成瀬目線で追っている彼のショットが大きくずれており、さらにそのずれが夫人とのあいだにおけるずれを増幅させ空間的に2人は浮遊状態に置かれている。ミカエルの照明が修正されている。 ⑧その直後、肖像画を描くか否かについて話している2人(侯爵夫人と画家)とそれを離れたソファーに座って見ているミカエルとのあいだは、2、4ショット目で画家と侯爵夫人とが『正常な同一画面』に収められ、10ショット目で3人が『正常な同一画面』に収められるまでの5ショット内側から切り返されている。■最初の切り返しではキャメラを正面から見据えている画家とキャメラの左側を見ている侯爵夫人とのあいだのイマジナリーラインがずれている。その後の切り返しでは今度は公爵夫人がキャメラを正面から見据えていて画家はキャメラの右側を見ている。キャメラを正面から見据えているショットはその相手からの主観ショットであり画家はキャメラを正面から見据えている侯爵夫人の目を見て絵を描くことにしたことになる。そうするとその後、左を向いてミカエルへと振り返る侯爵夫人とキャメラを正面から見据えている(ように見えるが微妙)ミカエルとのあいだの切り返しは侯爵夫人の主観ショットとして2人は見つめ合っているようでもあるがミカエルのショットは今一つ不確かでまたそこからもう一度公爵夫人へ切り返されていないことから(切り返して侯爵夫人が目を伏せでもすれば映画的に見つめ合っていたことになる)2人が見つめ合っているかどうかは不確かなまま終わっている。3人とも照明が修正されている。 ⑨■壁に掛かっているミカエルのヌードの絵「勝利者」を侯爵夫人が見上げた時の侯爵夫人とミカエルとのあいだは、ロングショットの『正常な同一画面』に挟まれた2ショットがクローズアップで内側から切り返されている。■クローズアップ同士によって内側から切り返されたミカエルと侯爵夫人の時空はその前後のかなり離れたロングショットによって撮られた客観的時空に挟まれることで2人きりの主観的な時空として際立っている。アイリスで周囲を暗くしたクローズアップで照明の修正がなされている。ここでのミカエルは目を逸らしていて2人は見つめ合っていない。近接する2人のあいだにキャメラを挟んで撮っている。 ⑩絵を見上げている侯爵夫人とその後ろ姿にライトを当てているミカエルとのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■伯爵夫人を照らす光はミカエルの持っているライトとは別の光で撮られている=照明が修正されている。 ⑪■その直後、全裸でキスをしている男女の絵を見上げている侯爵夫人とミカエルとのあいだは、3ショット目ではミカエルと侯爵夫人の「羽帽子だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、その次のショットで『正常な同一画面』に収められるまで2ショット内側から切り返されている。■⑨のように、客観的時空としての『正常な同一画面』の存在が却って主観的なクローズアップによる切り返しの主観的時空を際立たせている。同一画面が「正常」であればあるほど、客観的であればあるほど、クローズアップによって撮られた内側からの切り返しの時空が主観的に現れる。1ショット目の切り返しでキャメラを正面から見据えているミカエルのクローズアップは侯爵夫人の主観ショットだとするとここで2人は映画の中で「見つめ合っている」ことになるはずだが、次の切り返しで侯爵夫人は我に返ったように慌てて目を逸らしていることから見つめ合ったか定かではない。彼女はミカエルの瞳を「見つめていた」のではなく「引き込まれた」という撮り方がされている(キャメラが引かれて同一画面に収められたあと侯爵夫人は画家と握手する前にふらついている)。その次のショットではこの作品で初めて撮られた『外側からの切り返し』(真後ろから切り返されている)が侯爵夫人の羽帽子の後ろからなされることで侯爵夫人の視線が隠され彼女をじっと見つめているミカエルの視線のみによって侯爵夫人の視線を想像させるというエロスをフィルムに収めている。外側からの切り返しは古典的デクパージュのインスタント用法として多用される傾向があるがここでの外側からの切り返しは映画的にそれしかない、という状況によって撮られている。ここは巨匠の画家が描けなかった侯爵夫人の「目」を助手のミカエルが描いてしまうシーンへとつながる布石でありこの時点で2人の「見つめ合い」は不確かなこととして撮られている。双方のクローズアップのみならず外側からの切り返しもまた照明が修正されている。 ⑫「勝利者」の絵とそれを見上げている2人(画家とミカエル)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑬キャンバスに向かっている画家とドアを開けて入って来てそれを見ているジャーナリストとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑭その直後、キャンバスに向かっている画家と彼に話しかけているジャーナリストとのあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑮アトリエにやって来た侯爵夫人と画家とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められてから8ショット目で侯爵夫人の外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■外側からの切り返しは侯爵夫人の真後ろから切り返されている。その真後ろからの伯爵夫人の照明が修正されている。 ⑯■その直後、画家が『あなたのお陰で眠れない夜が続いています』と侯爵夫人に述べるシーンで2人のあいだは、7ショット目に侯爵夫人の外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■外側からの切り返しは真後ろから切り返されている。画家はすべてキャメラを正面から見据えているが伯爵夫人はずっと右の方を見ていて視線は合わされていない(ように見えるが伯爵夫人は慌てて目を逸らしているので画家の目を主観ショットとして見ていたかもしれない。ただ、すぐ目を逸らしているのではっきり見つめ合っているようには撮られていない)。ここでも真後ろからの伯爵夫人の照明が修正されている。 ⑰その直後、食事にしようと執事に言いつける画家に『ミカエルを待たなくても?』と侯爵夫人が尋ねるときの2人のあいだは、周囲を暗く縁取られた侯爵夫人のクローズアップと明るい『正常な同一画面』が交互に続いた4ショットが撮られており、余りにも画質の違う二つの時空によって侯爵夫人の心理的空間が客観的空間から浮遊している。■このシーンは『分断』31同様、侯爵夫人への「寄り」であって厳密には「内側からの切り返し」ではない。 ⑱ミカエルを差し置いて画家と侯爵夫人が食事のテーブルについているシーンにおいてミカエルと侯爵夫人とのあいだは、15ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返され、さらにそこから2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■帰宅したミカエルは侯爵夫人の白い手袋を見つけてそれを握りしめながら視線を移すとそこにはテーブルで談笑している侯爵夫人の姿が映し出される(ここでは敢えてこれを切り返しの1ショット目として数えている)。これはミカエルの視線との関係からして彼の見た目のショット(主観ショット)として撮られていると見るべきだが手袋を放り投げてミカエルがテーブルの部屋へと入っていくとき、なんと閉められているドアを開けて入ってゆく。するとミカエルとテーブルとはドアに遮られていたことになり見た目のショットは幻想ということになる。だがあれが幻想だと指し示すショットはどこにも撮られておらず、ましてあの見た目のショットでテーブルの奥に映っている白いドアを開けてミカエルは入ってゆくのであり、位置関係からするとあの見た目のショットとはまったく逆方向からミカエルは入ってきている。もしもこれが「撮り間違い」ないしは「編集間違い」でない限り、イマジナリーラインなるものはそもそもドライヤーには存在しないことになる。★ミカエルは成瀬目線を使っている。 ⑲その後、アトリエで『あなたの目が描けない』と伯爵夫人に言う画家とドアを開けて入って来たミカエルとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■画家はキャメラを正面から見据えて伯爵夫人を見ている。 ⑳ミカエルが画家からペンを受け取り侯爵夫人の眼を描くシーンにおけるミカエルと侯爵夫人とのあいだは、12ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。ここは論文で検討する。 21侯爵夫人と握手して画家が出て行ったあとのミカエルと侯爵夫人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■斜めからの切り返しでイマジナリーラインも合っていることから「ずれ」いてないようにも見えるがその直前の『正常な同一画面』とは違い侯爵夫人の照明が修正されている。 22■侯爵夫人が帰宅する時、ミカエルが背後からコートを羽織らせてからキスをするまでの2人のあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■侯爵夫人はキャメラの右側をミカエルはキャメラを正面から見据えているのでイマジナリーラインがずれているようにも見えるが伯爵夫人の主観ショットだとするとイマジナリーラインは合っていることになる。伯爵夫人の照明が修正されている。 23画家から『ずっとどこへ行ってた』と聞かれて『田舎です』と答える2人とそれを見ているジャーナリストとのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■男同士の切り返しは余りずれない。 24その直後、画家とジャーナリストとのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■どちらも正面付近から撮られジャーナリストも画家もキャメラのやや左側を見ていてイマジナリーラインがずれている。 25舞台の上のバレエとそれをボックス席から見ている侯爵夫人とのあいだは、合わせて10ショットほど内側から切り返されそのまま終わっている。舞台空間。主観ショットと書かないのは余り熱心に舞台を見ていないから。ミカエルが肩にキスをする時の伯爵夫人の照明が修正されている。 26その直後、劇場の座席に座っているジャーナリストとボックス席から彼を呼び出すアーデルスキョルドとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 27その直後、舞台のバレエとボックス席とのあいだは、合わせて7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。舞台空間。 28ミカエルの家にやって来た侯爵夫人と彼女のコートを預かったミカエルとのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■キャメラを正面から見据えるミカエルのクローズアップの照明が修正されている。 29その『正常な同一画面』の直後、キャメラはミカエルの後方から外側から切されている。この2人がキスをしている時のショットが『古典的デクパージュ的人物配置』でありハリウッド映画ではこのショットが撮られたあとは十中八九外側から切り返されるがドライヤーは切り返さない。 30その後、人形たちとそれを見ている2人(ミカエルと侯爵夫人)とのあいだは、2ショット内側から切り返されてそのまま終わっている。主観ショット。■その直後、おかしな顔をするミカエルのクローズアップは切り返しではないがずれている。 31■その直後、ソファーに座った侯爵夫人と彼女を見おろすミカエルとのあいだは、3つの『正常な同一画面』に挟まれた2つのミカエルのクローズアップが内側から切り返されている。■ミカエルのクローズアップだけが大きくずれている。これは『分断』17同様、ミカエルへの「寄り」であって「内側からの切り返し」ではないが、1ショットによる客観的時空から主観的時空への転換であり照明が修正され大きくずれているのでここに書いた。 32その後、執事からお盆を手渡されたミカエルとソファーからそれを見ている侯爵夫人とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■最初にミカエルが壁のスイッチへ手を伸ばし内側から切り返された侯爵夫人の空間のライトが落とされさらに内側から切り返されたミカエルが同時にスイッチを押すという順序で撮られていて灯りが落とされる空間だけが『分離』して撮られている。。 33■その後、右手にグラスを持った侯爵夫人とミカエルとのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■侯爵夫人のスパンコールをキラキラ光らせ、ミカエルにはバックライトを浴びせて共に照明の修正がなされている。 34ミカエルが肖像画の目について新聞にリークしたとジャーナリストが画家に伝える時の2人のあいだは、同一画面に挟まれた11ショット内側から切り返されている。■途中からどちらもキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見える。 35侯爵夫人が再びミカエルの家にやって来たあと、部屋を出て行って戸を閉める召使とそれを見ている2人(ミカエルと侯爵夫人)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 36その後、窓際で手紙を読んでいるミカエルとソファーでハンカチを噛んでいる侯爵夫人とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■窓際のショットの照明が修正されている(流れ作業で撮っていたのではあの照明は無理)。侯爵夫人がハンカチを噛むのはD・W・グリフィス「イントレランス(INTOLERANCE)」(1916)の現代篇の夫の法廷シーンの傍聴人席でハンカチを噛んだメェ・マーシュへのオマージュかも知れない。 37壁に掛けられた「勝利者」の絵とそれを見ているミカエルとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 38■その直後、泣いている侯爵夫人とそれを見ているミカエルとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ミカエルはずれていないが侯爵夫人の照明が修正されている。 39■その後、泣いている侯爵夫人と彼女を慰めているミカエルとのあいだは、3ショット目に侯爵夫人の外側から切り返されるまで内側から切り返されている。■38とは逆に、侯爵夫人はさほどずれていないがミカエルがずれている。 40入って来たアーデルスキョルドとそれを見ている画家とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■画家は成瀬目線を使っている。 41「勝利者」が市場に出回っていると知らせに来た画商(カール・フロイント)と画家とのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた15ショット内側から切り返されている。■ショット数の割にはさほど『分断』されてはいない。男同士はあまりずれない。キャメラマンのカール・フロイントを見ることができる。 42アトリエの画家とそれを二階から見ているミカエルとのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 43■画家が執事長(マックス・アウツィンガー)に『イギリスグラスを出してくれ』と言った後の画家と執事長とミカエルとのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■特に執事長のショットがずれている。 44その直後、画家に反抗するミカエルと画家とのあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■画家がキャメラを正面から見据えているショットが特にずれている。 45アーデルスキョルド夫人(妻)と公爵との情事を見ている夫アーデルスキョルドとのあいだは、11ショット目に夫人と同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 46その直後、部屋を出て行く夫と夫人とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■夫人の照明が修正されている。 47画家の新作とそれを見ている公爵の母親(ヴィルヘルミーネ・ザンドロック)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 48その後、椅子に座っているアーデスギョルド夫人と彼女に『私の息子を知りませんか』と尋ねている公爵の母親とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 49アーデスギョルドと公爵との決闘における2人のあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■銃の煙が切り返されると逆の方向へ流れている。 50画家と彼に乾杯する招待客たちとのあいだは、7ショットほど内側から切り返されそのまま終わっている。■ピアノを弾いている手、ミカエルを探しに行くジャーナリスト等多くは『分断』されている。最後に画家のバスト・ショットで照明を暗くしている。 51暖炉の前で画家のスリッパを履かせているミカエルと部屋を出て行く執事長とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められたあと2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 52その直後、やって来たジャーナリストとミカエルとのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■特にジャーナリストの照明が修正されている。フルショットによる客観的時空からクローズアップの主観的時空へ。 53■その直後も2人のあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。 54さらにその直後も2人のあいだはクローズアップで5ショット内側から切り返されている。■男同士の見つめ合いはさほどずれてはいない。 55やって来た執事長と彼にスケッチについて尋ねる2人(ジャーナリストと画家)とのあいだは、14ショット目に執事長の外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■執事長は『ミカエルが持ち出した』と言うまでキャメラを正面から見据えているがそのあとキャメラの左側を見ている。イマジナリーラインがずれているが前半は画家からの主観ショットかも知れない。執事長の照明が修正されている。 56その後、ソファーに座っている画家と部屋を出て行く時に彼を見ているジャーナリストとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 57入って来た医者とベッドでそれを見ている画家とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 58ベッドの画家とミカエルへのメモを使いに渡すジャーナリストとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ジャーナリストの視線が2つのショットで異なっている。 59ジャーナリストに遺言を託す画家とそれを見ている執事長とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 60画家の死を知らせにアパートの中庭にやって来たジャーナリストとそれを二階の窓から見ている侯爵夫人とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。■侯爵夫人はキャメラの右側を、ジャーナリストはキャメラの左側を見ているのでイマジナリーラインは合っているはずだがエスタブリッシング・ショットが撮られていないために途方もなくずれている。 61その直後、ベッドから身を起こしたミカエルと窓際の侯爵夫人とのあいだは、3ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ■評 殆どのショットが別々に撮られている(その場合照明が修正されていることは当然の前提となっている)。よってイマジナリーラインのずれは日常的に起こりうることになる。 ■アイリス 常時かけられている。アイリス・イン、アイリスアウトも。 ■カッティング・イン・アクション 基本的に重複は少ない。多いのは以下の二個所のみ。 立つ→引く ①序盤、絵を描いている画家に『席を外してくれ』と言われたジャーナリストが立ち上がる時、カッティング・イン・アクションで大きく引いている。 ②侯爵夫人がミカエルの家で借金の手紙を見せた後、ベッドの横で跪いていたミカエルが立ち上がる時、キャメラが立ち上がって来る顔を捉えている。これは「サタンの書の数ページ」(1919)第二話「不運な人々(1921)で見られた「立ち顏」であり立ち上がって来る顔をキャメラが予め待ち構えて撮る方法である。 ■パンフォーカス 序盤、アーデルスキョルド夫妻が帰り代わりに侯爵夫人が二度目の来訪をする時、大広間のロングショットが撮られているが画面左の彫像と奥の大広間の人々とのピントが合わされている。パンフォーカスとはそもそも奇形的な撮影方法であり、画面のすぐ手前の物体のクローズアップと奥の物体のロングショットに無理やり同時にピントを合わせ、得に画面手前の物体のクローズアップが異様なまでに露呈する「ひけらかかし」の撮影技術である。このシーンでは画面左の彫像にピントを合わせることは本来何の意味もないことからしてドライヤーは意図的にパンフォーカスを撮っていると断定できる。 ■コントラスト グレーの幅を意識したローコントラスト気味に撮られているが黑も出ている。 ■軸 ミカエルが侯爵夫人の目を描いている時だけ3回動く。トラッキングは無し。。 ①ミカエルが侯爵夫人の目を描き始めた時に2回ミカエルにトラック・アップし1回ミカエルからトラックバックする。 ■ロケーション この作品は「室内劇」と言われているが二個所ロケーションが撮られている。 ①画商(カール・フロイント)が画家の屋敷から帰った後、森を歩くミカエルと伯爵夫人が平行モンタージュで撮られている。 ②森でのアーデルスキョルドと公爵の決闘のシーン ■起源 画家とミカエルの出会いのシーンでミカエルがモデルになった「起源」が撮られている。 ■回想 ミカエルが公爵に画家との出会いを回想する。 ■罪の意識 侯爵は決闘で敢えて撃たれてみずからの「罪」を清算している。しかし心理的な停滞はなく公爵の人間性は一貫している。ミカエル、侯爵夫人に罪の意識はまったく見られていない。 ■「常習性」 強い。 |
423-9-117-あり ■外側からの切り返し ①『分断』⑪参照。真後ろからの切り返し。 ②『分断』⑮参照。1ショット。真後ろからの切り返し。 ③『分断』⑯参照。1ショット。真後ろからの切り返し。 ④ミカエルを差し置いて画家と侯爵夫人が食事している時、執事長がミカエルに『みなさんはもう食事におつきです」と言ったあと1ショット執事長の外側から切り返される。『古典的デクパージュ的人物配置』へと切り返されるているがそこからさらに切り返されるることはない。 ⑤『分断』29参照。2人がキスをする瞬間、外側から切り返されて『古典的デクパージュ的人物配置』が成立しているがさらにそこから外側から切り返されてはいない。 ⑥屋敷にやって来た男爵が『ミカエル氏が何度も私から多額の金を借りている』と画家に言った後、男爵の外側から切り返されている。視点転換。 ⑦『分断』39参照。 ⑧ソファーに座っているジャーナリストが画家に新作の批評を読んでいる時、ジャーナリストの外側から切り返されている。 ⑨『分断』55参照 ●逆からの切り返し ①『分断』② ②『分断』⑥ |
1925 | あるじ Du skal ære din hustru デンマーク |
20ショットくらい。はっきりも多い。 ①『分断』⑫ ②『分断』38 ③『分断』51 ④『分断』54 3ショットほど撮られている。 ⑤『分断』55 乳母が6ショット、夫が3ショットほどキャメラを正面から見据えている(字幕を挟んだショットは1ショットとして数えている) ⑥『分断』56 ⑦『分断』57 |
5.1 703 1231 105 あるわがままな夫の物語。町はずれの小さなアパートの朝の6時0分、フランセン家の妻イダ(アストリズ・ホルム)はまだあどけなさの残る娘(カーリン・ネレモーセ)の手を借り幼い弟(アージ・ホフマン)と赤ん坊の世話をしながら毎朝のきつい家事を淡々とこなしている。時計職人の夫ヴィクトア(ヨハンネス・マイヤー)は妻の苦労を当然のことだと見做し朝の食卓からあらさがしに余念がない。まるで文句を言うために生きているようなこの夫は手伝いにやって来たマーサ(マティルデ・ニールセン)にも皮肉を言って会社へと出かけてゆく。ヴィクトアの乳母であったマーサは余りの横暴に業を煮やしてイダの母親(クララ・シェーンフェルド)に相談しやって来た母はイダを連れて帰ろうとするが娘は『彼は悪い人じゃない。事業に失敗してからずっと家族を支えるために必死だった。いらいらしているものそのせいよ。あんな理想的な夫はいない。今は辛抱の時期』、と答えてみせるがそれももう限界で泣き崩れてしまい、あとのことはマーサに任せて母は子供たちを残してイダを家に連れ帰る。帰宅した夫は妻の不在はあんたたちの作戦だろう、とマーサに言い放ち自分を殴ったマーサと娘を巻き込んでの大乱闘となり、娘に『父さんが悪いんだわ』と目を見てはっきり言われた父親はおとなしくなりさらに娘からこの数か月、母さんはお父さんに必要なものを買うために夜通し内職をしていたと聞かされ、妻を迎えに行く。だが疲れ切って寝込んでしまった妻との面会は医者(ヨハンネス・ニールセン)に断られ妻は空気の良い田舎へ行って休養することになる。帰宅した夫は借りてきた猫のようにマーサに対して従順なる。もう元気になったというイダからの手紙を見たマーサは母親とともに帰って来た妻をすぐに夫とは会わせず、それどころかイダからの手紙を部分的に切り取ってあたかも妻に男がいるような文面にして夫に読ませ嫉妬してマーサに食いかかる夫は逆に諫められて壁に向かって立たされると、入って来た妻が彼を呼びとめ抱擁を交わし誤解を解いてからみなの食卓につき、義母は郊外のメガネ屋を買い取る資金を夫に提供し、妻は止まっていた柱時計のねじを巻いて時計職人の振り子が揺れ始める。 ■『分断』53箇所。 ①家事をしている母親(アストリズ・ホルム)と階段を上って来て母親を呼びに来た娘(カーリン・ネレモーセ)とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ②■食事のテーブルに就いて『食事の前にコーヒーを出せと言ってあるはずだ』と言う夫(ヨハンネス・マイヤー以下夫・父親)と妻とのあいだは、2ショット目,4ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。■内側からの切り返しと外側からの切り返しのミックス。外側からの切り返しは真後ろから切り返されている。■夫のクローズアップはキャメラを2人あいだに置いて(妻をどかして)撮っている。 ③■靴に穴が開いていることを指摘する夫と妻とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■夫のショットだけずれている。 ④■その後、『スプーンがないぞ』と文句を言う夫と夫の靴の紐を結んでいる妻とのあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されている。4ショット目に立ち上がる妻を夫は成瀬目線で下から上に追いかけている。 ⑤鳥籠の世話をしている妻とそれを見ている夫とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑥コートにブラシをかけている妻とそれを見ている夫とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。■夫の視線の先に妻はいない。場所的にずれている。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑦母親に抱かれて夫の幼い時の乳母(マティルデ・ニールセン)に手を振る赤ん坊と裁縫をしながら手を振り返す乳母とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑧路地で雪の上を滑って遊んでいる息子(アージ・ホフマン)たちとそれを二階の窓から見ている娘(カーリン・ネレモーセ)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑨雪の上を滑っている息子とそれを見ている父親とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまでの2ショット内側から切り返されている。 ⑩その直後、息子を連れて歩いている父親と彼に雪を投げつける少年とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■物の『分離』 父親の背中にぶつかる雪玉だけが分離して撮られている。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑪息子を叱っている父親と泣いている赤ん坊とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。赤ん坊は演技ができないので別々に撮られている。 ⑫その直後、父親と、裁縫をしながら彼を見ている乳母とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■乳母は2ショットキャメラを正面から見据えている。 ⑬その後、泣いている赤ん坊とそれを見ている父親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑭■『出来損ないのかゆだな』と文句を言う夫とそれを見ている妻とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■逆から切り返されている。 ⑮吹いているやかんとそれを見て『やかんの音が聞こえているのは俺だけか?』と皮肉を言う夫とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■その間に妻を見ている夫の主観ショットも撮られている。このあたりは夫を怒らせるためのマクガフィンが連発している。 ⑯入って来た赤ん坊とそれを見ている夫たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■壁に向かって立っている息子とのあいだも『分断』されている。 ⑰■食事中、家事のため立ったり座ったりする妻とそれを見て「どうして立ったり座ったりするんだ」と怒る夫とのあいだは、6ショット目に夫の外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻が立ち上がる前のショットで夫は既に上を見ている。外側からの切り返しは真後ろから切り返されている。 ⑱■夫の言いつけ通り冷めた肉料理を出す妻とそれに文句を言う夫とのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた5ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されている。 ⑲箱を持っている赤ん坊とそれを見ている父親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑳夫にりんごを勧めている妻とそれを見ている乳母とのあいだは、11ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■乳母は成瀬目線を使っている。妻は乳母と夫とのあいだでオフオフを使っている。その時の妻の照明が修正されている。そのあいだに妻が夫を見る主観ショットも撮られている。 21部屋の中の3人(父親と妻の母親で祖母クララ・シェーンフェルドと乳母)と部屋の隅に立たされている息子とのあいだは、合わせて4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 22乳母の顔に夫がたばこの煙を吐きかけたあと喧嘩している2人とそれを見ている2人(妻とその母親)とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 23■その後、夫が部屋から出て行く前に睨み合う夫と乳母とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■照明が修正されている。 24その後、ドアから顔を出した娘と部屋の中の3人(母とその母親と乳母)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■娘はオフオフを使っている。 25部屋の隅に立たされて鼻をかんでいる息子と2人(母と娘)とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 26鳥籠を持っている乳母とそれを見ている妻とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。。 27靴屋から靴を受け取っている妻とそれを馬車の中から見ている妻の母親とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 28父親の靴と服を外へ放り出している乳母とそれを見ている娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■娘は乳母がしゃがむのに合わせて成瀬目線で上から下へ瞳を動かしている。上から下への成瀬目線は極めて珍しい。 29父親の靴を引き出しにしまい込む乳母とそれを見ている娘とのあいだは、同一画面に挟まれた5ショット内側から切り返されている。主観ショット。 30妻が出て行ったことを知らない夫が帰宅して部屋に入って来た時、椅子に座って裁縫をしている乳母と夫とのあいだは、他のショットを除いて19ショット目で『正常な同一画面』に収まるまで内側から切り返されている。 31その後、鳥かごの前に座った夫と乳母とのあいだは、同一画面に挟まれた12ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最初はどちらもキャメラの右側を見ているが逆から切り返されているので(夫が半身なので見分けづらい)イマジナリーラインはおそらく合っている。しかしその後、夫は動いていないのにクローズアップになると乳母はキャメラの左側を見ている。このイマジナリーラインはずれている。 32■その直後、私が主人だと言ってお盆を持って行く乳母とやかんを火からおろせと命令する夫とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■夫は成瀬目線を使っている。やかんの主観ショットも混合している。 33その後、部屋に入ってきた乳母と、洗濯物を乳母に投げつける夫、そこへ入って来た娘とのあいだは、30ショット目で夫の「手だけ」と乳母の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、32ショット目と34ショット目に夫と乳母が同一画面に収められつつもさらに36、38、44ショット目には娘と夫の「腕だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)40と42、45ショット目には乳母と夫の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)46ショット目に夫と娘とが同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■分離→『分断』⑩と同じように投げられた洗濯物が投げた主体(夫)から分離され「洗濯物だけ」として乳母の前を通過している。決して洗濯物を投げる主体とぶつかる主体とを同一画面に収めようとはしない。夫は成瀬目線を娘はオフオフを使っている。エスタブリッシング・ショットの不在。 34■その直後、娘に妻の居場所を聞き出そうとする夫と娘、そしてそれを見ている乳母とのあいだは、19ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■最初は壁にすがりつきながらキャメラの正面方向を見ていた娘がその後キャメラの左方向を見ている。イマジナリーラインがずれている。壁にすがりついている娘が父親に向き直ったあと照明が修正されている。乳母は小さく成瀬目線を使っている。 35■娘が父親に母親の内職の話をした後の娘と父親とのあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。 36その後、出て行く父親と彼を呼び止める娘とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■娘の照明が修正されている。 37座っているベッドから立ち上がった医者(ヨハンネス・ニールセン)とベッドで寝ている妻とその母親とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻の母親にバックライトが当てられて照明が修正されている。さして大きな役ではない義母に強烈なバックライトが浴びせられている。 38ベッドに寝ている娘に話している母親と振り向いて2人を見ている医者とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■医者はキャメラを正面から見据えていて照明が修正されている。端役の医者も「そのひと」として撮られている。 39妻の実家から帰って来た夫とベッドの上で髪を編んでいる乳母とのあいだは、11ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 40花瓶を抱えて入って来た夫と彼に言づけをする乳母とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■乳母の照明が修正されている。 41洗濯女(ペトリーネ・ソンネ)を玄関で締め出した夫と乳母とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■2人共キャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが逆から切り返されているのでイマジナリーラインは合っているのだろう。エスタブリッシング・ショットの不在。台所と出口の間取りがよくわからない。 42その後、入って来て椅子に座った洗濯女と夫とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 43鳥籠の鳥に水をやっている夫とそれをドアの陰から見ている娘とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで4ショット内側から切り返されている。主観ショット。 44■その直後、母親がいつ帰るか娘から聞き出そうとする父親と娘とのあいだは、同一画面に挟まれた10ショットが内側から切り返されている。■娘の髪に当たるバックライトからして娘のクローズアップは別々に撮られている(照明が修正されている)。 45娘から母親の居場所を聞き出そうとしている父親とそれをドアの陰から見ている乳母とのあいだは、14ショット内側から切り返されそのまま終わっている。盗み見空間。■ドアの隙間から見ている乳母の照明が修正されている。乳母はその後成瀬目線も使っている。 46手紙を男の背中に隠した妻とそれを見て笑っているテーブルの男たち(妻の見張り役か)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 47父親の靴をボイラーに立てかけている娘とそれを狸寝入りしながら見ている乳母とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 48赤ん坊のおむつを替えている父親とそれをドアの陰から見ている乳母とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。盗み見空間。主観ショット。 49コーヒーを持ってきた乳母とテーブルでぼーっとしている父親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■父親のクローズアップには窓の外から修正された照明が当っている。僅か1ショットでありながらこの光が当てられるということはこの父親は映画的にはこの時点で「赦された」ことになる。 50洗い物をしている夫とそれを物置の窓から見ている妻とのあいだは、3ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 51義母の向かいのテーブルに座った夫とソファーに座っている義母とのあいだは、キャメラを正面から見据えている義母のクローズアップだけが「ずれ」ている(ちなみにこの直前、ソファーで横並びに座っている2人のあいだの切り返しで、夫が涙を流すクローズアップは別々に撮られているのだろうがさほどの「ずれ」を生じていない。ドライヤーにしては珍しくやや心理的。 52夫が乳母に言いたいことを切り出せず「ヘアピンが取れかかっている」と話題を逸らす時の2人のあいだは、同一画面に挟まれた12ショット内側から切り返されている。■最初、夫と乳母はどちらもキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが正面から向かい合った2人のそれぞれ右側から切り返ししている(逆から切り返されている)のでイマジナリーラインが大きくずれているように見えてしまうのかもしれない。 53娘がおもちゃのアヒルに乗せた手紙を父親に届けるときの2人のあいだは、13ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■父親はずっとキャメラの右側を娘はキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインは合っているが手紙が届いた後、娘の視線がキャメラの左側から右側へ変化していてイマジナリーラインがずれているように見える。だが視線が変化した時、娘の逆から切り返されているのでイマジナリーラインは合っているのだろう。 54ストーブの中に置かれた手紙を読んだ夫が乳母に「この男は誰なんだ!」と詰め寄るシーンで2人のあいだは、10ショット目で乳母と夫の「手だけ」が2回も乳母と同一画面に収まり(『奇妙な同一画面』)、16ショット目で夫の外側から切り返されて2人が同一画面に収まるまで内側から切り返されている。■キャメラを正面から見据えるショットを織り交ぜている。外側からの切り返しは真後ろから切り返されている。 55その直後、2人のあいだは同一画面に収められるまで12ショット内側から切り返されている。■キャメラを正面から見据える人物を内側から切り返し続けている。 56その後、壁に向かって立っている夫とそれを見ている乳母とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■乳母はキャメラを正面から見据えているように見える。 57その後、部屋に入って来た妻と壁に向かって立っている夫とのあいだは、5ショット目に妻の外側から切り返されて(真後ろから切り返されて)同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻は光の中へ入って行ってバックライトで髪を照らされる。夫に呼びかけると振り向いた夫はロングショットながらキャメラを正面から見据えている(主観ショット)。後ろ姿の夫の首に妻の手が巻き付いて来るショットは前年ルビッチが「結婚哲学(The MARRIAGE CIRCLE)」(1924)で撮っている。 58路地で遊んでいる弟と彼を呼んでいる娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 59食器をお盆に乗せてやって来た乳母と夫とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■乳母が夫の汚れたスボンと靴を見る主観ショットも含まれている。 60眠っている赤ん坊とそれを見ている母親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ■評 さらなる『分断』を見出すこともできるだろう。1ショットだけ別々に撮られている箇所も多くある。 ▲平行モンタージュ 狭い家の中で多用されている。家の中と外とでも使われている。 ■カッティング・イン・アクション 少ない動作の重複。 ①昼食に帰って来た夫の靴を妻が脱がせるためにしゃがむ時、しゃがむ→寄る、という典型的なカッティング・イン・アクション。 ②娘が父親に母親の内職の話をした後、父親が立ち上がる時。これも動作の重複のあるカッティング・イン・アクション。 ■アイリス 常時かかっている。アイリス・アウトあり。 ■フェイドアウト あり。 ■コントラスト 基本的にハイキーでコントラストはきつくない。 ■軸 ①序盤、最初の朝、パンにバターを塗る時キャメラだけが左→右へと移動する(トラッキングではなく横移動✕)。 ②赤ん坊を抱いた妻が椅子に座る時、少しだけ後退移動する。 ③父親に叱られた息子が床の上に倒れる時、少しだけ移動している。 ④路地で乳母と妻の母親が歩きながら話している時、キャメラが斜め横から移動している。 ⑤乳母が夫にたばこの煙を吹きかけられる前、夫に乳母が歩み寄る時にキャメラが移動している。 ⑥乳母が家の中に洗濯ロープを張っている時 ⑦籠の中の鳥に餌をやっている父親のところに歩いてゆく娘をトラッキングで。 ⑧港を歩いている父親を横移動で撮っている。 ⑨母親が港で車椅子を押しているシーンを横移動で撮っている。 ■ロケーション この作品は室内劇なのでロケーションを指摘する。 ①カフェの背景の光の差し込める坂道 ②港を歩いている父親を2ショット ③大きな建物に囲まれうっすらと雪のかかったやや大きめの通りを父親がこちらへ歩いて来るとき。おそらくロケーション。 ④母親が港で車椅子を押しているシーン。 ■手すり滑り 息子がアパートの階段の手すりに乗って滑り降りている。映画史ではよく見る光景。 ■起源 父親は事業が失敗してから変わったと妻が。 ■回想 ①母親が裁縫の内職をしているシーン。 ②母親が港で車椅子を押しているシーン。 ■罪の意識 父親にあり。 ■「常習性」 あり。父親には罪の意識もあり「改心」もしているはずだがそれを指し示す心理的なショット、しかめっ面は撮られておらず父親の人格は変わっていない。メロドラマでありながら変わることのない人間性を崩さずに撮っている。 |
491-11-128-多用 ■外側からの切り返し ①『分断』②参照。真後ろからの切り返しがあいだを置いて2ショット。 ②食卓で『バターを出し惜しみしていたわけだな』と愚痴をこぼす夫の外側から切り返されている。真後ろから切り返されている。 ③『分断』⑰。真後ろから切り返されている。 ④夫にりんごを勧めた妻が文句を言われたあと「あんたのお母さんを呼んでくる!」と乳母が妻に言う時『古典的デクパージュ的人物配置』に近い配置から字幕を挟んで1ショット外側から切り返されている。 ⑤夫が昼の食事をして出て行ったあと、ソファーで妻とその母親が隣同士で座っている時、3回、『古典的デクパージュ的人物配置』が撮られているがそのまま外側から切り返されることはない。 ⑥『分断』54。殆ど真後ろから切り返されている。 ⑦乳母が父親の耳を掴んで『壁に向かって立っていなさい』という時『古典的デクパージュ的人物配置』に近い配置でありながら次は父親へ内側から切り返されている。 ⑧『分断』57。外側から切り返されて『古典的デクパージュ的人物配置』となりそこからさらに外側から切り返されているが夫の真後ろから切り返されている。2ショット続けられた外側からの切り返し。 ●逆からの切り返し ①『分断』④ ②『分断』⑭ ③『分断』⑱ ④『分断』31 ⑤『分断』41 ⑥『分断』52 ⑦『分断』53 |
1925 | グロムダールの花嫁Glomdalsbruden ノルウェー |
4ショットほど。 ①『分断』⑨ ②『分断』⑪ 富農の息子が3ショット。 ③『分断』22 ④『分断』30 地主が何度か |
6.1 593
731 74 プリントが50分ほど欠落している。人のために働くことにうんざりしていた小作人の息子トーレ(アイナ・シッセナー)は川向こうの父母の家に帰り父親の古い農場を立て直そうと畑を耕している時、やって来た恋人で地主の娘ベリト(トーヴェ・テルバック)と結婚の約束をするが、ベリトの父親(ストゥブ・ヴィーベル)は富農(オスカー・ラーセン)の息子(アイナー・トヴァイト)との縁談を勝手に決めてしまい、家を飛び出したベリトはトーレと結婚を誓いあう。仕事の後、トーレとベリトが牧草地で踊っていると富農の息子と喧嘩になりそこでトーレが打ち負かされそうになるとベリトはトーレへの愛を宣言する。話を聞きつけた地主は川を渡るとそこに肥沃な土地が開けているのに驚き、トーレに物乞いのお前は私の娘と付き合うな、娘は富農の息子と結婚する、と釘を刺す。2週間後、馬に乗ったベリトは父親に引かれながらベリトの結婚式の開催されるホーグセットへ向かうが、通りがかった農場主を結婚式に招待しようと父親がその家に寄った隙に娘は逃げ出し落馬したところをトーレに助けられ舟で対岸のトーレの家で看病されることになる。だがベリトは回復せずトーレは自分が彼女から離れればこうならなかったのだと罪悪感を感じる。ベリトは動かせないので当分家で預かると地主に告げに行ったトーレの父親は、『私には娘はいない、あいつがどこに居ようがあいつの自由だ』と言われるが、『私はあなたの許可がない限り息子たちの結婚は許しません』と告げて帰ってゆく。事故の情報は広まり、牧師の妻(ソフィー・ライマース)がベリトの世話をするためにやって来る。夏が来て収穫の季節になり回復した娘はトーレたちには内緒で牧師の家へ移り(このあたりはおそらくフィルムが欠落している部分なので物語が飛んでいてよくわからない)そこで牧師に相談に来たトーレと再会し、妻に説得された牧師はベリトの父親を半ば脅迫気味に説得し、結婚を許した父親は帰って来た娘の前で涙を流す。さらに牧師は富農親子がベリトも結婚を承諾していると嘘をつき牧師に結婚式を挙げさせようとしたことは刑務所行きの犯罪だとこれまた脅迫気味に説得してベリトと富農の息子との結婚をご破算にさせる。結婚式当日、富農の息子はトーレの舟を流して式へ行けないようにするがトーレは地主の送った馬で川を渡ろうとして流され急流の滝に飲み込まれる寸前で岸へたどりつきベリトと共に式へ向かう。 ■『分断』46箇所。 ①やって来た地主の娘ベリト(トーヴェ・テルバック)とスコップで土を掘っている小作人の息子トーレ(アイナー・シッセナー)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ②その直後、娘とスコップの手を止めて振り向き彼女と話し始める小作人の息子とのあいだは、4ショット目に同一画面で握手しているシーンが撮られるまで4ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されているのでイマジナリーラインがずれているように見える。 ③■その後、結婚の約束を交わすことになる2人のあいだは、同一画面に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■フルショットに引かれると2人は切り返しの時よりも接近している。 ④その後、小作人の息子と彼に手を振って森の方へ歩き去る地主の娘とのあいだは、最初のショットで同一画面に収められた後4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■評 小舟でやって来たエプロンの娘がスコップ仕事をしている彼をいたずらっぽい眼差しでからかい半分の会話をしながら握手をし、たき火の煙が吹きつける牧場を見渡しながら将来の夢を語る彼と遠回しな会話を続けながらふと気づくと2人は結婚の約束を交わしている。喜び勇んでスコップ仕事に舞い戻った彼に土を引っかけられて逃げるようにエプロンを風になびかせ手を振って去ってゆく娘に手を振り返して再会の約束をしスコップ仕事に精を出す。すべてにおいて満たされている。 ⑤娘の結婚について相手と協議している地主(ストゥブ・ヴィーベル)たちとそれを陰から見ている娘とのあいだは。最初のショットで同一画面に収められた後、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■娘の照明が修正されている。 ⑥その直後、外へ出て絶望する地主の娘とそれを見ている小作人の息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑦その後、丘の上の2人(地主の娘と小作人の息子)とそれを馬車から見ている富農の息子(アイナー・トヴァイト)とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが逆から切り返されているのでずれてはいない。エスタブリッシング・ショットの不在。。 ⑧その後、帰宅した娘と『どこに行ってた?』と聞く父親とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■娘の照明が修正されている(娘が家の中に入って来た地点の照明が予め決められそこに娘が入って来るという順序)。 ⑨その直後、テーブルで話している2人のあいだは、同一画面に挟まれた5ショット内側から切り返されている。■父親はキャメラを正面から見据えているように見える。それ以外はどちらもキャメラの右側を見ているが逆から切り返されている。 ⑩その直後、階段で足を踏み鳴らしている娘と階下の父親とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑪牧草地で踊っている2人(トーレとベリト)とそれを見ている富農の息子とのあいだは、3ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■富農の息子はキャメラを正面から見据えている。このあともう二階富農の息子の外側から切り返されている→外側からの切り返し②参照。 ⑫その後、トーレへの愛を宣言する地主の娘とトーレたちとのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。 ⑬農家に入ってゆく地主とそれを馬上から見ている地主の娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。このあと娘は逃げる。 ⑭遠くの焚火の煙とそれを馬上から見ている地主の娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑮丘の上で落馬する地主の娘と彼女を助けに行く小作人の息子とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット、 ⑯その後、娘を小舟に乗せて河をゆく小作人の息子と娘を探しに来た地主とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められているがロングショットと後ろ姿で「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)、その後9ショット目まで内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■評 5ショット目の同一画面はさほど「奇妙」には見えず、今後、そのような同一画面は『奇妙な同一画面』とするのをやめて単に「同一画面」と記すことにする。2024.8.25。 ⑰娘を抱きかかえている小作人の息子と家の窓からそれを見ている彼の両親(ハラルド・ストーモーンとアルフィルド・ストーモーン)とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑱医者を迎えに出て行く父親とそれを見ている母親たちとのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑲やって来た医者と彼を見ている母親たちとのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑳その後、入ってきた父親とそれを見ている母親とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 21その直後、出て行く息子と医者たちとのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 22地主の家に向かって小路を歩いて来る小作人と地主とのあいだは、11ショット目で地主と小作人の「右肩だけ」が一瞬同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、14ショットで小作人が帰ってゆくまですべて内側から切り返されそのまま終わっている。■小作人は多くをキャメラのほぼ正面を見据え、地主はキャメラの右を見てイマジナリーラインがずれているがエスタブリッシング・ショットが撮られていないのでよくわからない。ひょっとすると2人は別々の空間で撮られているかもしれない。あまりにも奇妙な切り返し。 23ベッドに横たえている娘と彼女の手にすがりついている小作人の息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■娘の「手だけ」が同一画面に収められているのでこれは切り返しに含まれないかも知れないが息子の照明が修正されていて別々に撮られているのでここに入れておく。 24馬車で娘の様子を見にやって来た牧師の妻(ソフィー・ライマース)とそれを窓から見ている小作人の息子とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 25入って来た牧師の妻とそれを見ている2人(娘と息子)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■牧師の妻の照明が修正されている。おそらく有名な女優さんなのだろう。 26荷物を持って家の中に入って来た父子とそれを見ている2人(娘と牧師の妻)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 27居眠りしている小作人夫婦とドアを開けてそれを見ている息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 28野原で横になり足を掻いている娘とそれを見ている小作人の息子とのあいだは、3ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 29牧師の夫(ラスムス・ラスムッセン)を説得して部屋から出て来た牧師夫婦と帽子をいじりながら立っている2人(娘と小作人の息子)とのあいだは、7ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■牧師夫婦にバックライトが当てられている。 30ベッドに横になっている地主と椅子に座って彼を説得している牧師とのあいだは、10ショット目で同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■地主は途中からキャメラの正面あたりを、牧師はキャメラの右を見ているがイマジナリーラインはずれていないかも知れない。 31■その直後、2人のあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 32地主の家から出て来た牧師とそれを馬車の上から見ている娘とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 33スープを渡す娘とそれを飲む地主の父親とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■どちらも照明が修正されている。 34やって来る牧師と農作業をしている富農(オスカー・ラーセン)とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 35その後、話している2人(牧師と富農の息子)とそれを見ている富農とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 36去ってゆく牧師の背中とそれを見ている富農親子とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 37小舟から荷物を降ろして歩いて来る小作人親子とそれを見ている地主とのあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■途中までは地主からの主観ショット。 38荷物を持って歩いて来る2人(地主と小作人)とそれを窓から見ている娘とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■『窓空間』の主観ショットのはずだが窓は映っていない。位置もずれているためおそらく音だけ聞こえる『原初的音声空間の切り返し』だろう。それについては論文『サイレント短編史(仮題)」へ譲る。 39■小作人父子と地主父娘との初めてのテーブルの団らんで、立っている娘と彼女を見つめている小作人の息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。■娘の照明が修正されている。4人の客観的空間における2人だけの主観的時空が撮られている。 40河を流れてゆく二隻の小舟とそれを丘の上から見ている富農の息子とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 41小舟を追いかけてゆく小作人の息子とそれを丘の上から見ている富農の息子とのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■富農の息子は成瀬目線で見ている。 42川の対岸の花嫁一行とこちら側の花婿一行とのあいだは、馬が泳ぎ始めるまで18ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■叫んでいるトーレの父親と対岸で馬に乗っている地主との切り返しがどちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているように見えるが逆から切り返されているのでずれていない。 43その後、対岸から泳いで来た馬に乗り川を渡り始める小作人の息子と岸からそれを見ている人々とのあいだは、途中、丸太につかまって流されている小作人の息子と手前の岸の娘とがロングショットの縦の構図で2ショット同一画面に収められているがロングショットで「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)、102ショット目あたりで小作人の息子と娘が『正常な同一画面』に収められるまですべて内側から切り返されている。多くは主観ショット。■小作人の息子を中心に、彼と岸の者たちの切り返しに限定して計測しているので小作人の息子を連続して撮ったショットは計測されていない。特にこのシーンは危険なスタントなので岸の者たちは別々に撮られることになる。→D・W・グリフィス「東への道(WAY DOWN EAST)」(1920.9.3)。岸の者とのあいだは殆どエスタブリッシング・ショットが撮られておらずみな別々に撮られているが特に照明が修正されている娘のショットはまったく別の場所で撮られているような感覚。 44冠をかぶった花嫁とそれを岩山の上から見ている富農の息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 45馬で教会にやって来た新郎新婦とそれを草の上に座って見ている村の者たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 46その直後、歩いて来る新郎新婦と幼い女の子たちの手を引きながらそれを見ている老婆とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ■評 内側からの切り返しは基本的に『分断』されて撮られているのでこれら以外にも『分断』を見出すことは可能である。 ▲平行モンタージュ 多用されている。終盤、小舟に細工をする富農の息子と結婚式へ向かう一行とのあいだで多用されている。 ■カッティング・イン・アクション 動作の重複がないか少ない寄る・引くが基本。典型的な「立つ→引く」等は撮られていない。 ■コントラスト ローキイ気味に撮られている。 ■フェイドアウト あり ■アイリス 常時かかっている。 ■煙 たき火の煙が画面に立ち込めている。 ■母親の不在 地主には妻が存在しない。だが映画の中でその説明は一切なされていない。この地主が娘の結婚に執拗に反対する姿は ジョン・フォード「静かなる男(THE QUIET MAN)」(1952)におけるヴィクター・マクラグレンに似ている。両親の不在について一切語られず映画の中で妹の結婚に執拗に邪魔をするこの兄は、おそらく幼くして両親を亡くしたのだろう、妹の父親代わりであり母親代わりでもある。2人のあいだには他人には踏み込むことのできない時間がありそれを一切省略してまるで兄を悪者のようにして物語を進めてゆくジョン・フォードの在り方はここで母親の不在を一切語ろうとしないドライヤーとコミュニケーションしている。牧師の説得に折れて娘の結婚を許した地主が帰って来た娘の前で涙を流すシーンは決して感傷的なメロドラマではなく母親代わりで娘を育ててきた父親が亡き妻との想い出の時間を想起したに違いない何かが込められており、この場面にはひとつの字幕も挿入されていないのもまた「見ること」のみがもたらすことのできる省略のエモーションにほかならない。 ■ロケーション 「あるじ(Du skal ære din hustru)」(1925)から一変して自然の光と風と水の中で撮られている。 ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 なし。 ■「常習性」 地主は「改心」して結婚を許しているがベッドに寝転がって牧師と話している内に結婚を許すことになっていて何ら心理的な「改心」のショットは撮られていない。 |
272-9-18-多用 ■外側からの切り返し ①8分過ぎ、自分の結婚を勝手に決められて家から飛び出してきた娘が小作人の息子と向き合った時、最初に娘の後方からの『古典的デクパージュ的人物配置』が撮られたあと、娘のクローズアップ→娘の後方から外側からの切り返し→娘のクローズアップ→娘の後方からの外側からの切り返し→娘のクローズアップ→娘の後方からの外側からの切り返し、と、3ショット外側から切り返されているが、小作人の息子の後方からは一度も切り返されてはおらず外側からの切り返しは連続して撮られていない。また娘のクローズアップは照明を修正して別々に撮られていることから『古典的デクパージュ的外側からの切り返し』ではない。■娘のクローズアップはトーレをどけて別々に撮られている。 ②『分断』⑪から続いて。 恋敵と牧草地で決闘する時に3ショット、恋敵の後方からロングショットで外側から切り返されているが恋敵は正面から撮られていて別々に撮られているので視点転換であって『古典的デクパージュ的人物配置』ではない。ここは『分断』ではないもの別々に撮られている。 ③牧師が地主を説得した後、地主の外側から切り返されている。真後ろから切り返されている。 ④地主を説得した牧師が農作業をしている富農の息子のところへやって来た時、息子の外側から切り返されている。真後ろから切り返されている。 その他視点転換。 ●逆からの切り返し ①『分断』② ②『分断』⑦ ③『分断』⑨ ④『分断』42 |
1927 | 裁かるるジャンヌ LA PASSION DE JEANNE D'ARC 仏 |
47ショット。はっきりも多い。裁判官たちは何度もキャメラを正面から見据えているにジャンヌは1ショット、それも一瞬しかない。以下、アイ・ヴィーシーのDVDの時間に依るジャンヌの視線について。 ①27分34秒 キャメラを見ているようで見ていない。 ②~⑧も微妙だが見ていない。 ②31分45秒 ③35分22秒 ④38分6秒 ⑤44分42秒 ⑥53分45秒 ⑦58分54秒 ⑧74分04秒 ⑨48分58秒 拷問の機会におそれおののいてふんぞり返りながら3ショット、まさにこれは『奇妙なキャメラを正面から見据えるショット』とでもいうべきもの。 ⑩74分 「自分は神に選ばれた者だとまだ信じているのだな?」と聞かれたジャンヌが右に目を送る時に一瞬キャメラを見ている。 |
3.7 975
1511 93 パリの下院図書館の資料には審問官らの質問とジャンヌの答えが正確に記録されている。そこにあるのは勇ましい武将ジャンヌではなくありのままの人間としての信心深いジャンヌであり、たった1人で老練な神学者や法律家たちと対決するドラマを見ることができる。 法廷に連れてこられたジャンヌは次々と浴びせられる審問官たちの質問に毅然と答え自分は神の娘と主張して審理は紛糾しジャンヌはひとまず独房へ返される。審問官は王からの手紙を偽造して独房のジャンヌを脅かすが自分は神の娘だと主張し続けるジャンヌに審議はさらに紛糾する。ミサを求めるジャンヌに審問官はその男装の服を女性の服に替えればという条件を付するがジャンヌはこれも拒絶し、廷吏たちに散々からかわれてから拷問室へ連れて行かれる。意見を変えないジャンヌは拷問の機械を前に失神して独房へ運ばれそこで初めてジャンヌは死ぬのが怖いですと告白し、私が死んだら清められた土に埋葬してくださいと審問官に頼んだものの、聖体を餌にして異端の書面への署名を促そうとする審問官たちに却ってあなた方が悪魔の手先だと言い審問はまたしても中断される。ジャンヌは墓地で人民の前に引き出されて再び審問が始まり執拗な尋問にジャンヌは異端の書面に署名し火刑は免れたものの終身刑の判決を言い渡される。独房に帰ったジャンヌは丸坊主にされるたあと『火あぶりになるのを恐れて神に背きました』と翻意し審問官を呼んで異端への署名を取り消す。やってきた修道士(アントナン・アルトー)はいくつかの真摯な質問をした後、ジャンヌは告解をし、火刑台へ送られる。 ★この作品は内側からの切り返しと同一画面との比率が逆になっている。 ■カッティング・イン・アクション ショットを割ること自体が極めて少ない。 ①17分過ぎ、白髪の老人が立ち上がる時、重複は少ないがキャメラのアングルを変えて引かれている。 ■アイリス なし ■フェイドアウト なし ■コントラスト グレーの幅は出ている ■成瀬目線 17回 ■オフオフ 多用 ■エスタブリッシング・ショット 1箇所。 ■軸 横移動✕ (トラッキングではなくキャメラだけが横に動く) 33ショット オープニングでキャメラが傍聴人席の上から右へ移動していく等極めて多い。 トラッキング 11ショット。小さなのばかり。 トラック・アップ 11回 小さく寄る。 トラックバック 4回 ちょっと引くだけで全景までは決して引かない。 ■エイゼンシュテイン的 ①拷問室の高速のカッティングと回転する機械 ②墓地での審問の時、墓場のしゃれこうべとジャンヌがカットバックされる。 ③ジャンヌが火刑台へ連れられるとき、乳を飲んでいる赤ん坊が振り向く ④ラストシーンの群衆シーン。橋が上昇するシーンなど。 ■目を開けて死ぬ 終盤の群衆の中の母親が ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 あり。偽りの署名をしたことに ■常習性 一度、火刑の恐怖から「改心」してるが本質的ではない。 |
1058-1-675ー多用 ▲平行モンタージュ 多用 ●外側からの切り返し ①序盤、審問官がジャンヌの顔に唾を飛ばしながらしゃべる時、3ショット審問官の外側から切り返されている。口だけの外側からの切り返し。極めて珍しい。 ●逆からの切り返し 不明 |
1931 | 吸血鬼 VAMPYR 独・仏 |
13ショットくらい。 ①『分断』⑦ ホテルのベッドで青年が寝ている時に入って来た館の主人が「あの子を死なせてはならない」と言う時ウエストショットでキャメラを正面から見据えている。3ショットほど。 ②館の主人が影に撃たれて息絶える瞬間の2つのショットがクローズアップで ③『分断』26 吸血鬼に血を吸われ森の中から館に運び込まれ椅子に座らされた姉に見つめられて恐れおののく妹が右へ回りながらバスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。④『分断』48 青年の棺の蓋を閉めている義足の男がクローズアップで。 ⑤『分断』49 棺の中の青年の主観ショットで医者がキャメラを見つめている ⑥『分断』50 ⑦回復した姉がベッドの中のクローズアップで。⑧『分断』55 館の主人が窓枠一杯のクローズアップで出現しキャメラを正面から見据えている。3ショット。 ⑨『分断』56 粉ひき場に閉じ込められた医師が鉄の柵を掴みながらキャメラを正面から見据えるクローズアップ。 |
8.7 413 468 68 悪魔信仰や吸血鬼の迷信の研究に没頭するあまり夢想家となり現実と超自然の境界がなくなった青年、アラン・グレイ(ジュリアン・ウェスト)の不思議な体験。あてどもなく彷徨い、ある夜、川辺の淋しい旅籠クルタン・ピエールにやって来た。おかしな声が聞こえて階段を昇って行くと不気味な男が部屋から出て来る。夜、眠っている所へ入って来た老人(モーリス・シュッツ)が『あの子を死なせてはならない』と言い『我が死後に開けよ』と書かれた包みを残していく。青年が外を歩いていると大きな廃墟に出くわし、中には不思議な影の動きや義足の男と、そしてその主人らしき白髪の老人(吸血鬼アンリエット・ジェラール))と犬の鳴き声、かすかながら子供の声らしきものが聞こえる。そこで出会った怪しげな医者(ジャン・イエルニムコ)は青年と別れたあと吸血鬼から髑髏のマークの付いた薬瓶を渡される。青年は影を追いかけて森を抜けると淋しい館に出し、中ではあの旅籠に現れた老人が何者かの影に撃たれて殺され、死ぬ間際、次女で妹のジゼール(レナ・マンデル)にハート形のロケットを手渡す。青年が老人の遺した包みを開けるとにはそこには本が入っていて『生前に犯した悪行のために平安を見出せない死者の魂と肉体が明るい満月の夜に墓から出て子供や若者から血を吸い取り自らの影のような生活を長らえようとする。悪魔はこの輩の盟主で生者と死者の国でこの輩に超自然の力を与えている』と吸血鬼について書かれていた。館に残った青年はその後、森の中で吸血鬼に血を吸われたジゼールの姉(ジビレ・シュミッツ)を屋敷の中に運び込むと診察に来た医者は血が必要だと青年から血を採取する。召使(アルベール・ブラス)は青年の本に『寝ている吸血鬼の心臓に杭を突き刺し魂を土に釘づけにして滅ぼした。昔、このクルタン・ピエールの村に疫病がはやり11名の死者が出たが多くの者たちは墓地に埋葬されているマルグリート・ショパンが吸血鬼に違いないと信じた。彼女は生前、人の姿をした怪物だった。彼女は悔恨なく死亡し境界は彼女の葬儀を拒否した』とあるのを読む。血を取られて眠っていた青年が悪夢を見ていると召使に起こされ医者の置いて行った髑髏の薬瓶を姉が飲むのを阻止し(?)医者を突き飛ばしてその影を追いかけるが転倒してベンチで休んでいるとその体から魂が抜け出してあの廃墟へ行くと置いてある棺の中に自分を発見し、さらにやって来た医者と義足の男をつけて行くと彼らは青年の入っている棺に杭を打ち墓地へと運ばれてゆく。目を覚ました青年は召使と共に吸血鬼マルグリート・ショパンの墓を暴きその心臓に杭を打ち付けると吸血鬼は滅ぼされ姉は回復する。窓一杯に現れた館の主人の亡霊に驚いた義足の男は階段から落下して死に、粉ひき場へ逃げ込んだ医者は閉じ込められ粉に埋もれて窒息死する。青年は妹ジゼールとともに小舟で川を渡り光の差す森の中へと歩いてゆく。 ■『分断』56箇所。 ①宿屋の二階の窓から顔を出す女とそれを下から見ている青年(ジュリアン・ウェスト)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ②その直後、大鎌(かま)を担いで歩いてゆく男(以下鎌男)とそれを見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③その後、ローソクを持って部屋を出て行くメイドと彼女を見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■メイドはウエスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。それほどはっきりではないが。 ④その直後、小舟に乗っている鎌男と彼を窓から見ている青年とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。主観ショットだが遠近がずれている。 ⑤■その後、壁に掛けてある絵とそれをローソクをかざして見ている青年とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑥その後、階段の上の扉を開けて出て来た老人とそれを下から見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■トラッキングあり。 ⑦ベッドで寝ている青年とドアの鍵、ガウンを着てドアから入って来た館の主人モーリス・シュッツとのあいだは、主人が部屋から出てゆくまでの19ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■青年は成瀬目線を2回使っている。老人はキャメラを正面から見据えている。エスタブリッシング・ショットの不在。2人はこの部屋の中で1ショットも同一画面に収められていない。老人がキャメラを正面から見据えているショットは青年からの主観ショット。 ⑧逆モーションで土を掘りあげている男の影・建物の壁とそれを見ている青年とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■男の影との関係ではエスタブリッシング・ショットの不在。 ⑨義足の男の影とそれを見ている青年とのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■青年は通常の横の成瀬目線と下から上への成瀬目線を使っている。 ⑩通路の奥の影の中から出て来た男(吸血鬼アンリエット・ジェラール)とそれを見ている青年とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められているが男が画面の中に入って来た時に青年は画面の外へ消えており(『持続による同一存在の錯覚』)、そのまま終わっている。主観ショット。 ⑪ベンチに座っている義足の男の実体・その隣に座る影と、それを見ている青年とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑫■手すりを伝って階段を下りて来る医者(ジャン・イエルニムコ)と彼を下から見上げている青年とのあいだは、5ショット目に青年の外側から切り返されて『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■青年は成瀬目線を使っている。トラッキングあり。 ⑬その直後、子供について話している医者と青年とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑭その直後、子供と犬について話している2人のあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■医者も青年もキャメラの右側を見ているのでイマジナリーラインがずれているようにも見えるが逆から切り返されていて、かつ医者は振り向いているのでイマジナリーラインは合っているのかもしれない。 ⑮ひとりでに開く扉とそれを見ている医者とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑯■通り過ぎる2人(吸血鬼と医者)とそれを見ている髑髏たちのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■髑髏が成瀬目線を使っている。医者と吸血鬼が髑髏の部屋に入って来た時、まず髑髏の目が光り、次に切り返さると2体目の髑髏が成瀬目線を使い、もう一度その髑髏に切り返されているこのシーンは髑髏の主観ショットとして撮られている。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑰森の地面を逃げてゆく影とそれを見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑱燭台を持ってドアを開けようとして影に撃たれる館の主人とそれを窓の外から見ている青年とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■青年は成瀬目線で見ている。 ⑲■撃たれて床に倒れている館の主人とやって来た娘(レナ・マンデル・以下「妹」)とのあいだは、5ショット目で主人と妹の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、8ショット目まで内側から切り返されそのまま終わっている。■『奇妙な同一画面』が撮られることで『分断』の傾向が強まっている。 ⑳ピアノの上のローソクを点けている青年とそれを見ている妹とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらもキャメラの右側を見ていてイマジナリーラインがずれているようにも見えるが場所的関係が見えずまた青年は振り向いていて、かつ逆から切り返されているのでイマジナリーラインは合っているかも知れない。エスタブリッシング・ショットの不在。 21馬車で警察を呼びに出で行く男とそれを窓から見ている青年とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 22森を歩いてゆく女(ジビレ・シュミッツ。以下「姉」)とそれを窓から見ている2人(妹と青年)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 23森の中を捜索している2人(妹と青年)とそれを二階のバルコニーから見ている2人(召使の妻N・ババニーニと看護師ジェイン・モーラ)たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 24吸血鬼に血を吸われている姉と彼女を探しに来た2人(青年と妹)とのあいだは、6ショット目に姉と同一画面に収められるまで内側から切り返されている(吸血鬼とは同一画面に収まらないまま終わる)。 25看護師と召使(アルベール・ブラス)によって運ばれてくる姉とそれを二階のテラスから見ている召使の妻とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。テラス空間。エスタブリッシング・ショットの不在。 26■運ばれて椅子に座らされた姉とやって来た妹とのあいだは、最初に『正常な同一画面』に収められたあと姉と看護師の「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、そこから3、5、7、9、11、13ショット目にはキャメラは姉の座っている椅子の後ろから切り返されて(外側からの切り返し)妹と姉の「左腕だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、19ショット目に妹が部屋から出てゆくまで内側から切り返されそのまま終わっている。■6ショットが『奇妙な同一画面』、それ以外はすべて1内側から切り返されそのまま終わっている。意図的な『奇妙な同一画面』が『分断』の傾向を強めている。姉の成瀬目線が2ショットあり。妹は15ショット目にキャメラを正面から見据えている。 27馬車からしたたり落ちる血とそれを見ている2人(青年と召使)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 28馬を引いて歩いている召使とそれを窓から見ている青年とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■場所的に見えていないかもしれない。エスタブリッシング・ショットの不在。 29話している2人(召使と医者)の影と、それを窓から見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 30館に入って来た医者と彼に挨拶する青年とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されている。 31ベッドに寝ている姉と入って来た医者とのあいだは、最初のショットで姉が撮られてからキャメラが右へパンして医者を捉えて同一画面に収められてから『持続による同一存在の錯覚』、2ショット目に姉の顔と医者の「手だけ」が同一画面に収めら(『奇妙な同一画面』)3ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 32そのあいだ、2人(姉と医者)とそれを見ている看護師とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 33その直後、「血が必要だ」と言う医者と青年、そしてベッドで眠っている姉とのあいだは、7ショット内側から切り返されたあと8ショット目で青年と器具を揃える医者の手が同一画面に収められているが医者の手が画面に入って来る時既に青年は画面の外に出ており(『持続による同一存在の錯覚』と『奇妙な同一画面』)、そのまま終わっている。■青年は成瀬目線を使っている。エスタブリッシング・ショットの不在。さほどずれていない。 34ローソクを手に階段を上ってゆく医者とそれを見ている召使とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 35森の地面を逃げてゆく影とそれを見ている青年とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 36流れる雲と地面に転んだ青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 37さらにその後、流れる雲と歩いてゆく青年の魂とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 38■棺とそれを見ている青年の魂とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 39■その直後、立て掛けてある棺の蓋に書かれた文字とそれを見ている青年の魂とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。。 40■その直後、棺の中の青年とそれを見ている青年の魂とのあいだは、3ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 41その直後、すりガラスの向こうに揺れる影とそれを見ている青年の魂とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 42椅子に縛られている妹とそれを窓の外から見ている青年の魂とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 43その直後、中庭を歩いて来る医者とそれを見ている青年の魂とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 44その直後、建物に入って来た医者とそれを陰から見ている青年の魂とのあいだは、 4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。エスタブリッシング・ショットの不在。 45そのあいだ、揺れる影の映った階段とそれを見ている医者とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 46その直後、戸口から出て行く義足の男とそれを落とし戸を開けて見ている青年とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 47その後、棺の中の青年とそれを見ている医者とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 48■棺に蓋をする義足の男と棺の中からそれを見ている青年とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■義足の男はキャメラを正面から見据えている。死者からの主観ショット。 49■2人の男(棺の蓋をねじで留めている義足の男とローソクを持った吸血鬼)と棺の中からそれを見ている青年とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■吸血鬼はキャメラを正面から見据えている。死者の主観ショット。 50■天井、医者、建物等とそれを棺の中から見ている青年とのあいだは、12ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■途中で棺の中を見ている医者はキャメラを正面から見据えている。死者の主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 51吸血鬼の墓へ向かい墓を暴いている召使と彼を見ている青年とのあいだは、11ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 52流れる黒い雲と3人(吸血鬼に杭を打ち込む青年、召使、棺の中の吸血鬼)とのあいだは、9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 53雲間から差す光と吸血鬼の髑髏とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 54さらにその後、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■エスタブリッシング・ショットの不在。 55窓一杯に出現した館の主人の顔とそれを見ている2人(医者と義足の男)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 56粉引き場に閉じ込められた医者と、召使、歯車、水車等の機械とのあいだは、平行モンタージュされている他のショットを除いて21ショットほど内側から切り返されそのまま終わっている。医者の主観ショットが多い。■エスタブリッシング・ショットの不在。歯車等の機械類と埋もれる医者とは違う場所で撮られているように見える。医者は1ショットキャメラを正面から見据えている。 ■評 内側からの切り返しは別々に撮られることを基本としており多くの場合全景(エスタブリッシング・ショット)が撮られていないので場所が浮遊し(場所的感覚の喪失)夢の中のような感覚を実現させている。切り返されない1ショットでも多くは別々に撮られている。明らかに『分断』を意識して撮られている。 ▲平行モンタージュ 多用されている。特に終盤、粉引き場の医者と逃げてゆく2人(青年と妹)とのあいだが執拗に平行モンタージュされている。 ■カッティング・イン・アクション 重複しない。寄る・引く・は基本的にトラッキングによってなされている。 ■アイリス なし ■フェイドアウト 序盤に1回だけ。 ■ハイ・コントラスト ローキイのハイ・コントラストで撮られているが白い空間がざらざらと乾燥気味に撮られている。 ■軸 トラッキング、トラック・アップ、トラックバックなど基本的に軸が動いている。軸が動くことで空間は却って狭まって見える。 ■横移動✕ キャメラだけが動く横移動は3ショット。 ■パン✕(人、物の動きを追わないパンニング) 多用。素早いパンも。 ■目を開けて死ぬ 館の主人、棺の中の青年、義足の男。 ■天井 頻繁に撮られている。 ■オフの音 オフ空間からの音が頻繁に使われている。 ■起源 青年→悪魔信仰、、吸血鬼の迷信に没頭し夢想家となり現実と超自然の境界がなくなった。 ■回想 なし ■罪の意識 なし ■「常習性」 悪魔の研究家が悪魔を倒す。職業運動でもあり人間運動でもある。 |
249-7-62-多用 ■外側からの切り返し ①■『分断』⑫。青年の真横からのクローズアップから青年の外側から切り返されている。狭い空間でキャメラ1台。 ②『分断』26 椅子の後ろから6ショット外側から切り返されているが不連続。極めて特異な構図で視点転換。 ③『分断』40 青年の魂が棺の中の自分を見たあと、魂の外側から切り返されているる ●逆からの切り返し ①『分断』⑭ ②『分断』⑳ ③『分断』30 |
1943 | 怒りの日Vredens Dag デンマーク |
8ショット。はっきりもあればちらちらもあり。キツイのは無し。
①『分断』⑧ 牧師がマーサに「ひざまずけ」と言う時。4ショットほど。 ②『分断』⑲ |
12.5 289 440 92 1623年、ノルウェーのある村では薬草魔女(昔のヨーロッパに実在した薬草を扱う女性たちのこと)のマーテ(アンナ・スヴィアキア)が魔女狩りで追われている。一方、神学の勉強を終えた息子マーチン(プレベン・レアドーフ)の帰宅の準備をしている牧師のアブサロン(トーキル・ローセ)は自分の息子より年下の後妻アンネ(リスベト・モーヴィン)と暮らしているが牧師の母親メレーテ(シグリズ・ナイエンダム)はその結婚を恥じて嫁に辛く当たっている。迎えに出た牧師と行き違いに帰って来た息子はアンネと挨拶を交わしたあと帰って来た父親を驚かせる。アンネが仕事をしていると逃げてきたマーテがやって来て、あなたの母親も魔女の宣告をされたと告げてアンネを驚かせ、牧師(アンネの今の夫)にあなたと結婚したいからと頼まれあなたのお母さんを密告しないで助けてやったと聞いたアンネはマーテを匿うがやって来た村の者たちにマーサは捕まり裁判にかけられる。魔女裁判の公証人でもある牧師はマーテの脅迫(牧師はアンネの母親が魔女だと知っていながらアンネと結婚したいがために黙っていたこと)をはねつけマーテは拷問にかけられ自分は魔女だと告白するがアンネの母については告発することなくアンネを助け、代わりに審問官のラウレンティス(オーラフ・ウッシング)に呪いをかける。同じころ、アンネは牧師の息子マーチンと野原や森を散策するようになる。牧師が自分を助けないと分かるとマーサは牧師とアンネにも呪いをかけたあと火あぶりにされる。牧師の異変を察した母親は牧師の秘密を半ば見抜いて警告を発し、牧師は君の母親は魔女だったとアンネに話し妻は牧師に愛を求めるが拒絶される。アンネの母は生者や死者を呼び出すことができ殺そうと思えば誰でも殺せる力があったことにアンネは興味を持ち『マーティン、、私はできる、、私はできる』とつぶやくとやって来たマーチンとキスをし2人は結ばれる。何も知らない牧師は老いた自分を感じ始め、息子は罪の意識からアンネに別れを切り出すがアンネの情熱に誘惑される。暴風雨の夜、マーサの呪いによって瀕死の審問官ラウレンティスを看取った牧師は帰宅したあと、アンネからあなたの死をずっと願っていたと、マーチンとの関係もほのめかされその場で憤死する。葬儀の日、アンネは牧師の母親に魔女だと告発されると、牧師の棺の前で、魔法の力であなたを殺し、魔法の力であなたの息子を誘惑したと告白して涙を流す。 『分断』33箇所 ①ドアを開けて部屋に入って来た牧師の息子(プレベン・レアドーフ)と牧師の妻アンネ(リスベト・モーヴィン)とのあいだは、8ショットすべて内側から切り返されそのまま終わっている。■評 2人の初対面を1ショットも同一画面に収めていない。妻の照明が幾度か修正されている。 ②父を驚かそうとして隠れている牧師の息子とそれを見ている牧師の妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。■2人だけの主観的な空間。妻の照明が修正されている。 ③入って来た魔女マーテ(アンナ・スヴィアキア)とふきんの整理をしている牧師の妻とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻の照明が修正されている(そのショットを撮るための照明がなされている)。 ④その直後、2人のあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻の照明が修正されている。 ⑤牧師の妻が魔女を匿った直後、入って来た牧師の母(シグリズ・ナイエンダム)と妻とのあいだは、11ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■母親は成瀬目線を使っている。妻の照明が修正されている。 ⑥■村の者たちが魔女を探しに牧師館へやって来たとき、牧師(トーキル・ローセ)と牧師の妻とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■クローズアップで内側から切り返された主観的時空。妻の照明が修正されている。 ⑦2人(牧師と魔女)の会話とそれをドアを開けて盗み見している牧師の妻とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑧■さらにその最中、牧師と魔女とのあいだは、11ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■牧師は魔女が立っている時キャメラを正面から見据え魔女がひざまずいてからはキャメラの下を見ているが魔女はひざまずいたままなのに牧師の視線は次第に上へ行きキャメラを正面から見据えていてイマジナリーラインがずれている(崩壊している)。『分断』⑤の過程で入れ子状態に撮られたさらなる『分断』。 ⑨歌っている少年合唱団とそれを見ている牧師の妻とのあいだは(その後やって来た牧師の息子とも共に)、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑩拷問室で尋問されている魔女と彼女を見ている牧師とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。魔女からの主観ショット。 ⑪火刑の準備をする人々とそれを二階の窓から見ている牧師の妻とのあいだは、16ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■成瀬目線、オフオフなど視線を動かしながら見ている。 ⑫■火刑のため縛られている魔女と彼女に呼ばれた牧師とのあいだは、8ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■魔女の顔に映っている揺れる木の葉の影など照明が大きく修正されている。 ⑬魔女が火刑に処せられた後、祈りを捧げている牧師とそれを見ている母親とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑭その直後、テーブルに就いた母親とやって来る牧師とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑮■その直後、牧師が椅子に座るまでの2人のあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。■逆から切り返されている。照明が修正されている。 ⑯部屋に入って来た母親と彼女にお休みを言って部屋から出て行く2人(妻と息子)とのあいだは、同一画面に収められたあと4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■母親の照明が修正されている。 ⑰牧師が妻に妻の母の話を切り出した時の2人のあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた8ショットが内側から切り返されている。■牧師は成瀬目線を使っている。妻の照明が修正されている。 ⑱その直後、部屋を出て行く牧師と妻とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■妻の照明が修正されている。 ⑲朝の朗読会の後、鼻歌を歌いながら糸を巻いている牧師の妻とそれを咎める牧師の母とのあいだは、11ショット目で同一画面に収められているように見えるが牧師の母が画面の中に入って来た時には牧師の妻は画面の外へ消える瞬間であり(『持続による同一存在の錯覚』)、それを除いた13ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■最後のショットで牧師の母はウエスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。妻の照明が修正されている。 ⑳牧師の書斎に入ってゆく母とそれを見ている牧師の息子とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 21■刺繍のボードを通して向き合っている牧師の息子と牧師の妻とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■妻はキャメラの左側を、息子はキャメラの右側を見ているが息子の見ている先に妻は存在していない=イマジナリーラインがずれているように見える。 22■『妻の笑い声を初めて聞いた』と言う牧師とそれを聞いている母親とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。 23■刺繡とそれを見ている牧師とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 24水面に反射している木の影とそれを小舟の上から見ている2人(牧師の息子と牧師の妻)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 25暴風の夜「息子のビールは」と尋ねる母親と絵を描きながら「知りません」と答える妻とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■妻の照明が修正されている(それほどでもないが)。 26その直後、風の音を気にする母親と妻とのあいだは、11ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■母親は正面付近から撮られているがさほどずれてはいない。 27その後、妻が部屋を出て行ったあと、離れたテーブルで話している母親と牧師の息子とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■逆から切り返されている。息子の照明が修正されている(それほどでもないが)。 28その後、帰宅した牧師に妻がビールを出した後の2人のあいだは、最初のショットで同一画面に収められた後、 16、20、22、32、34ショット目で外側から切り返されて同一画面に収められている以外は37ショット目で牧師が死ぬまですべて内側から切り返されそのまま終わっている。■妻が夫を「殺す」シーンは長いショットにおいて『分断』されている。内側からの切り返しのみならず外側からの切り返しにおいても妻の顔には「そのひと」としての照明が当てられている。 29■息子が牧師の妻に『父の死を願ったか!』と詰問するシーンにおける2人のあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■切り返しの「原ショット」と2ショット目の妻のクローズアップは別々に撮られている(照明が修正されている)。■窮屈でもある)。3ショット目で一見別々に撮られているようにも見える息子の横からのクローズアップはそのままキャメラが右へパンして妻を捉えていることから別々に撮られていないことがわかる。もしこのパンがなければ「別々に撮られている」と書いてしまいそうなところが実は別々に撮られていない。正面からではなく横から切り返されていることからこういうことが起きる。実に面白いシーン。 30葬儀で挨拶をしている息子とそれを見ている参列者や妻とのあいだは、4ショット目に息子と妻が同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻の照明が修正されている。 31椅子に座っている妻と彼女を告発する牧師の母親とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻の照明が修正されている。 32その後、牧師の妻の元を離れて母親と寄り添う牧師の息子と牧師の妻とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■妻のクローズアップは照明が修正されている。しかし『分断』29の教訓からして、それ以外の横から切り返しは別々に撮られていないかも知れない。 33棺の中の牧師と彼に話しかける妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま映画は終わっている。■妻のクローズアップになると照明が修正されている。 ■評 これら以外にも別々に撮られているシーンは存在する。 ■長回し オープニングで特に長い長回し。 ■軸 よく動く。 ■パン✕(人、物の動きを追わないパンニング) 多用されている。 ▲平行モンタージュ 多用されている。 ■カッティング・イン・アクション ★立つ・引く ①母親が牧師と2人で話していて母親がテーブルから立ち上るときキャメラがカッティング・イン・アクションで引かれている。その後母親は『魔女の火あぶりの後お前はおかしい』と牧師に言う。 ②①のあと『アンネの目を見たかい』と母親が牧師に尋ねる会話が終わってから母親が立ち上がる時、カッティング・イン・アクションでキャメラのアングルが変わっている。「立ち顏」に近い→「サタンの書の数ページ(Blade af Satans Bog)」(1919)第二話、「ミカエル(Michael)」(1924)の『カッティング・イン・アクション』参照。 ③舟での逢引きを終えたアンネが船の中で立ち上がる時、アングルを変えながらキャメラを大きく引いた立つ→引くのカッティング・イン・アクションで撮られている。 ■寄る・引く あり。 ■ディゾルヴ 多用されている。 ■アイリス なし。 ■フェイドアウト フェイドイン あり ■照明 これ以前の作品に比べて照明の陰影が強くなっている。照明でアイリスの効果を出すような感じで撮られている。 ■ハイ・コントラスト 黒い部分が真っ黒になっている典型的なハイ・コントラスト。 ■オフの音 オフ空間からの音が頻繁に使われている。魔女が牧師館の屋根裏部屋で捕まる時の悲鳴。時計のチクタク、妻の笑い声、暴風雨、など。 ■目を開けて死ぬ 牧師が。 ■柱時計 あり。 ■起源 母親が魔女 ■回想 なし ■罪の意識 牧師、息子にあり ■常習性 魔女は魔女であり、という「職業」運動。牧師の職業運動は審問官ラウレンティスを看取るくらい(職業がマクガフィン)。アンヌと牧師の母親の常習性は強い。牧師と息子は弱い。 |
271-14-73-極めて多い ■外側からの切り返し ①屋根裏部屋の鍵を牧師の妻が牧師の母親に渡す時、2人のあいだは『古典的デクパージュ的人物配置』に近い配置で撮られているが、そこから内側からの切り返し→外側からの切り返し→内側からの切り返しと続き外側からの切り返しが連続することはない。逆からではない。 ②『分断』⑫ ③母親が牧師に『アンネの目を見たかい』と尋ねるとき『古典的デクパージュ的人物配置』に近いがやや変則的な配置へ置かれたあと、牧師への内側からの切り返し→母親への外側からの切り返しが12ショット連続して撮られていて外側からの切り返しが連続することはない。かつすべての切り返しが逆側からなされている。 ④牧師の息子と妻が初めてキスをする時、キャメラが逆側へ転換している。それによって『古典的デクパージュ的人物配置』となり、その直後、外側から切り返されている。そのあと、2人が物音に気付くとここでもキャメラが逆側へ転換されている。これは外側からの切り返しではないが記しておく。妻の照明が修正されている。 ⑤『分断』28参照 ●逆からの切り返し ①『分断』⑮ ②外側からの切り返し③参照 ③『分断』27 |
1954 | 奇跡 ORDET デンマーク |
ちらちら数ショット。クローズアップが少なく遠景から見ているかどうか不明なのが幾つかある。
①嫁のインガーが父親に「恋をしたことある?」と聞く時にフルショットの父親が見ているようでもある。 ②①の長回しのその後にも父親はフルショットでキャメラを正面から見据えているように見える。長回しの映画なのでセリフを書いた板を読んでいるように見えなくもない。 ③アーネスが結婚を断られたと知った父親が怒っている時、フルショットで。 |
64 56 111 119 ボーエン牧場の三男アナス(カイ・クリスチアンセン)は朝、次男ヨハネス(プレベン・レアドーフ)がまた丘に行ったと大地主の父親モーテン(ヘンリック・マルベア)とさらに長男ミケル(エーミール・ハス・クリステンセン)も伴って3人でヨハネスを探しに行く。結婚八年目の長男の嫁インガ(ビアギッテ・フェザースピール)によると神学の勉強に没頭したせいで27歳で心の病だというヨハネスはみずからはキリストの子であり『信仰ある者のみが神の王国で祝福されるのだ』と丘の上で大声で話している。信仰厚い父親はヨハネスを預言者にして欲しいと神に祈り教会を再び活気づけて欲しいと願っていたがあのようになってしまった、もう正気には戻らない、現代の世では奇跡は起こらないと嘆くが嫁のインガは神に祈れば奇跡は起きると義父を諭す。長男のミケルもまた、父は私の不信心を怒っているに違いないと神を信じることのできない自分を嘆いているが嫁のインガはあなたには何より大切な心の美しさがある、あなたもいつか神を信じるようになると夫を励ましている。父親と信仰的に対立する宗派で仕立て屋ペーター(アイナー・フェザースピール)の娘アンネ(ゲアダ・ニールセン)と恋仲の三男アナスから、宗派なんか関係ない、僕に協力して欲しいと頼まれたインガは私がお義父さんに話をするからあなたはアンネの父親に会いに行きなさいとアナスを励ます。2人の娘の母親で今3人目を身籠っているインガに息子が欲しいとほのめかす義父にアナスの結婚を認めて欲しい、彼らはほんとうの恋をしていると、農家の政略結婚で恋をしたことのない義父を諭し、もし認めて下されば日曜の夕食にうなぎのフライを作って差し上げると笑いながら、次は男の子を産んで差し上げますと提案するが、既にアーナスがアンネの父親に会いに行ったと聞いた義父は自分にだけ内緒で事が進められていたことに腹を立ててその場を立ち去る。しかし厩で冷静になった義父は、自分は心から神を信じていないので奇跡は起こらない、ヨハネスは回復しない、もう自分は奇跡を信じられないと嘆くが私は奇跡を信じるとインガはいう。一方、インガによると説教が長いと評判の教会の新任の牧師(オーヴェ・ルズ)がボーエン家に挨拶来るとヨハネスと出くわし、我こそは神の子なり、奇跡を起こすためにここにいる、というヨハネスに牧師が奇跡はもう起きないというと信仰が足りないとたしなめられる。一方、アンネの父親に会いに仕立て屋のペーターの家に行ったアーナスは宗派の違いからアンネとの結婚を拒絶される。父親モーテンは、自分は信仰のなかったこの土地でひとりで戦い信者を増やした、えせ信者の娘などと結婚させることは絶対にできない、と改めてペーターの娘との結婚を否定するが、三男のアーナスが帰って来てペーターに宗派の違いから結婚を断られたと聞くと私の宗教をバカにしているのかと激高し、結婚を認めさせにペーターの家に行くぞとアーネスを促し『今日の父さんは物分かりがいい』と言うアーネスに『それはいつものことだ』と返して2人で意気揚々とペーターの家へ乗り込んでいくが、そこで父親たちがお互いの宗教をけなし合い、あろうことか改宗を勧められたあげくにあんたは地獄に落ちると言われたモーテンの堪忍袋の緒が切れて交渉は完全に決裂したところでお産でインガの様態が悪化したとの電話が入り『神は奇跡を起こされた、あんたにばちが当たったんだ』と感動しているペーターをよそに2人は急いで帰宅する。モーテンの元へインガの長女でまだあどけない孫娘の少女マーレン(アン・エリザベス・グロス)がやって来て、ママは今夜死ぬが私が生き返らせるとおじさん(ヨハネス)が言ったと告げるが、モーテンは戯言だと相手にしない。ヨハネスは少女にママは死んでもみなの信仰がなければ生き返らせることはできないというが少女はどうしても奇跡を起こして欲しいとヨハネスにせがむ。医者(ヘンリー・シャール)の治療もあってインガは男の子を死産するも一命をとりとめるがヨハネスの言った通りまもなく息を引き取り、嘆き悲しむ長男は時計の振り子を止める。ヨハネスは遺体の前で失神したあと正気に戻り、置き手紙を書いて家を出て行く(手紙を書き窓から素早く出るという運動はそれ以前のヨハネスにはできない運動)。家の者たちはアンネも含めてヨハネスを探し回るが見つからず、迎えたインガの葬儀の日、仕立て屋のペーターは日課の教会へは行かず娘のアンネを連れてボーエン家へ出向いてゆき、モーテンに許しを乞い娘のアンネを嫁にもらって欲しいと頼む。そこへヨハネスが帰って来ると少女がやって来て「おじさん急いで、早くして」とヨハネスの手を握りしめる。 ■『分断』10箇所。 ①白い洗濯物のはためく丘を登ってゆく次男ヨハネス(プレベン・レアドーフ・リュエ)と彼を窓から見ている三男アナス(カイ・クリスチアンセン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ②その後、次男ヨハネスを探しに丘を登ってゆく三男アナスとそれを窓から見ている長男の嫁インガ(ビアギッテ・フェザースピール)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ③さらにその後、丘を登ってゆく父親(ヘンリック・マルベア)とそれを窓から見ている嫁インガとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■エスタブリッシング・ショットの不在。 ④教会へ向かう新任の牧師(オーヴェ・ルズ)と彼を窓から見ている嫁インガとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。エスタブリッシング・ショットの不在。 ⑤牧師がインガの棺の上で祈りを始めた時、彼と参列者たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■牧師の背後の窓の白い光はまるでその部分だけ紗をかけられたかのように輝いている。ここでこの映画で初めて「正面からの切り返し」が撮られる。牧師と長男とがほぼ正面から切り返されどちらもキャメラの左側を見ているが立ち位置からしてイマジナリーラインは合っているかもしれない。このあたりからドライヤーの『分断』の傾向が急加速する。 ⑥部屋に入って来たヨハネスとそれを見ている父親とのあいだは、3ショット目に父親の外側から切り返されて同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。 ⑦その直後、棺の中のインガとその前に立っている2人(ヨハネスと父親)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。■1ショット目の棺のショットには棺にすがりついているはずの長男が映っていない→まったく別々に撮られている。 ⑧その後、棺の前のヨハネスと2人(牧師と医者)とのあいだで合わせて6ショット内側から切り返されている。■さほどずれてはいない。 ⑨その後、棺の中で手を動かし始めた嫁とそれを見ている少女(アン・エリザベス・グロス)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑩復活したインガ(と長男)とそれを見ている2人(モーテンとペーター)、さらに時計を巻いている三男とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ■評 長回しによって撮られているこの作品には切り返しが32ショット程度しかないが終盤になって『分断』が加速する。。 ■再フレーミング 長回しで軸を動かすことで再フレーミングを繰り返す。 ■寄る・引く 「寄る」はすべて少女(嫁の長女)に対する寄り。 ① 『ママはもう死ぬの?』という少女(インガの長女アン・エリザベス・グロス)の問いかけにヨハネスが『死んでほしいのかい?』と答える時キャメラが寄っている ②告別式が終わり、帰って来たヨハネスが棺の前で少女と手を握りキリストにお祈りを始めた時、少女のクローズアップに寄ってから引き、再び寄ってから引いている。 ■カッティング・イン・アクション 寄る・引くそれ自体が↑しかないのでカッティング・イン・アクションもその範囲に限られるがアクションの重複はないので寄り・引く、となる。 ■光 医者の車のヘッドライトが家の壁を通り過ぎると次男が『主が壁を通り抜けられた』と言う。ちなみに医者の車は音と光だけで直接には撮られてない。 ■照明 長回しの映画で照明の修正が少ない。壁には人物のそのままの影が映っている。しかし終盤、変化が現れる。 ■ディゾルヴ あり。 ■フェイドアウト・フェイドイン あり ■アイリス なし ■ワイプ 家を出たヨハネスを探す時、左から右へのワイプが何度も。 ■コントラスト 白の出たハイキー気味だが黒い服は真っ黒になっているのでハイ・コントラストの強いフィルムでもある。 ■パン(人、物の動きを追わないパンニング) 18回程度 ■軸 家の中でよく動く。 ■音 同時録音。時計チクタク、風。 ■風 オープニングで洗濯物が風にはためいている。 ★オフから 風、鳥、虫、子供の歌声、医者の車が到着した音。犬。お産でインガの苦しむ声。ヨハネスの祈りの声。 ■柱時計 あり。ラストシーンで三男が時計を巻いて振り子の音がオフから聞こえてくる。 ★ヨハネスはいつ正気に戻ったか。 置き手紙をして窓から出て行くときには既に正気に戻っている。置き手紙はもとより敢えて「窓から出て行く」という俊敏な運動を撮ることでヨハネスの運動能力が回復していることを現わしている。 ■ラストシーン ヒッチコック「間諜最後の日」のラストシーンのように終わっている。 ■起源 次男→父親によると心の病。自分を神の子だと言っている。神学の勉強をし過ぎた。父親はヨハネスを預言者にして欲しいと神に祈った。 ■罪の意識 父親たちにあり。父親と仕立て屋は「改心」して謝罪し合う。 ■回想 なし ■「常習性」 次男ヨハネスと嫁と少女は終始ぶれない。 ■舞台劇のように撮っている。長回しで撮られていることから照明は弱くなる。 |
32-1-9-多用 ★クローズアップ ①インガがアーナスの結婚を許してと父親に頼んでいる時の長回しの最中のショット内モンタージュで父親のバスト・ショットに近いクローズアップ。 ②お産で苦しんでいるインガの逆さまのクローズアップ。そのままパンしてインガの手を握っている長男のクローズアップへ(ショット数としては1ショット)。 ③苦しんでいるインガのローアングルからのクローズアップ。照明はそれ用に修正されている。 ④亡くなったインガの死に顔をクローズアップで。照明はそれ用に修正されている。 ⑤インガが復活する時、少女のクローズアップが3ショット。 ⑥ラストシーンの2人(インガと長男ミケル)のクローズアップが2ショット。まるでヒッチコック「間諜最後の日(SECRET AGENT)」(1936)のラストシーンのよう。 ■外側からの切り返し 『分断』⑥参照 ▲平行モンタージュ 多用されている ●逆からの切り返し なし |
1964 | ガートルードGERTRUD デンマーク |
2ショット。 ①『分断』① 夫ベント・ローテがガートルードに「ほかに男がいるのか」と迫る時、ウエスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。そこから分断表①の内側からの切り返しが始まる。 ②『分断』④の7ショット目の切り返しで詩人が。 |
79.5 45
83 110 書斎に入って来た妻ガートルード(ニーナ・ペンス・ローデ)は夫カニング(ベント・ローテ)と目を合わさずに話し続ける。妻はオペラに行くこと、弁護士の夫は今度大臣に内定したこと、新進の音楽家ヤンソン(ボアズ・オーヴェ)と会い、ローマから故国へ帰って来た詩人リートマン(エッペ・ローデ)とも会ったこと、妻は元歌手の時代に詩人と付き合っていたこと、過去のことは気にしないことなどを妻に話すが妻は目を合わせようとしない。寝室にかけられた詩人からもらった鏡の前で身繕いをするガードナーは入って来た夫のキスを拒絶する。1か月も寝室に入っていないと夫は妻に迫りほかに男がいるのかと聞く。そこへやって来た夫の母親(アンナ・マルバーグ)が帰った後、ガートルードは夫に離婚を切り出す。あなたは妻よりも仕事を大事にしている。私は愛が欲しい、と。だが夫の追求でガートルードはほかに男がいることを告白する。その後、オペラではなく公園の泉の前でガートルードは恋人の音楽家と密会し2人の過去が回想されたあと、毎日朝まで酒を飲み明かすという音楽家に芸術に専念してとたしなめるが聞かれず、私はもう自由になる、一緒に暮らしましょうと言う。その後、音楽家の家へ行き2人は結ばれる。会議の帰り道、夫はオペラ劇場へ行くが妻は来ていなかった。夫婦で出席した詩人の祝賀会で夫が祝辞を述べている時に気分の悪くなったガートルードが別室で休みをとっていると昔馴染みで今はパリに住んでいる医者アクセル(アクセル・ストレビュ)がやって来て今は学生たちと精神医学の講義を受けているという。そこでガートルードはあなたは意志的だが私の父はあなたと違って運命論者で人生はすべて決まっていると教えられた。でも私は意志的だと。君もパリへきて学ばないかと誘ってから医者は出て行き、入れ違いに入って来た夫と2人きりになると、君はオペラにも家にもいなかったと追求される。そこへ詩人が入って来て入れ替わりに学長に呼ばれた夫が出て行くと、ガートルードと2人きりになった詩人が昨夜のパーティはひどかった、そこで祝賀会の招待客の1人であった音楽家の奏でるメロディが聞こえてくると、彼とパーティで一緒になった、私は彼が嫌いだ、軽薄で秘め事までしゃべりる。大勢の人間の前で彼は最近の獲物について自慢げに吹聴した、相手の名前まで、、でも彼と別れない、彼を愛している、とガートルードはいう。私の何よりも愛してるものをあんな若造に人前で汚されるされるとは、君とこんな形で再会するとは思ってなかった、と詩人は泣き去ってゆく。入れ替わりに夫と音楽家が入って来て学長が君の歌を聞きたい、と言われたガートルードは歌っている途中で失神する。再びあの公園で音楽家と会ったガートルードは一緒に旅に出ましょうと提案するが、援助してくれている年上の女性がいて彼女は妊娠している、君はただアバンチュールを求めているのかと思っていたと言われ、私は愛しているけどあなたは私を愛していない、これで終わりよといい、音楽家は君は魂が高慢だと言い去ってゆく。その後、明日発つからと別れを言いやって来た詩人から一緒に行かないかと誘われるが断り、何故私から去ったと聞く詩人に、あなたが私を捨てた。あなたは愛が重荷だった。あなたの部屋を片付けメモを残して帰ろうとしたとき、ふと見つけたメモ用紙に『女の愛と男の仕事は敵同士だ』と。そこへ夫が帰って来て詩人と話している時ガートルードは台所で医者のアクセルに電話をかけ、私もパリへ行ってあなたと同じクラスで勉強したいと伝えてから3人で乾杯をし詩人は帰ってゆく。その後、『私を愛したか?』と尋ねる夫に『恋愛に似た感情はあった』と言って夫を怒らせそのままガートルードは1人でパリへと旅立つ。数十年後、世捨て人として孤独に暮らしているガートルードのもとへ医師のアクセルがやって来る。2人は40年前のパリでの学生時代の友情を懐かしみ、ガートルードはアクセルから来た手紙を彼に返し彼はそれを暖炉の炎で焼く。かつて君は愛がすべてと言った。今でも変わらないか?
後悔はないのか? とアクセルが聞くと、してないわ、人生にはなにもない、青春と愛以外には。そして私の墓石にはこう刻むの、『愛がすべて』と。2人は手を振り合い別れてゆく。 ■『分断』4箇所。 ①夫カニング(ベント・ローテ)が妻ガートルード(ニーナ・ペンス・ローデ)に「ほかに男がいるのか」と迫る時、7ショット目に夫の外側から切り返されて同一画面に収められるまで6ショット内側から切り返されている。■最初のショットで夫はキャメラを正面から見据えているが次に内側から切り返された時にはキャメラの左側を見て話している。よって最初のショットは別々に撮られている。また最後に2人が『正常な同一画面』に収められた時のガートルードの背もたれに映っている頭の影が内側から切り返され時とは違っていることから(照明の修正)、内側から切り返された6ショットもイマジナリーラインは合っているものの別々に撮られている可能性が高い。キャメラを正面から見据えているショットは主観ショット。 ②詩人の祝賀会で階段を降りてきた楽隊とそれを見ている来賓の3人(詩人エッベ・ローデ・大学総長エドゥアール・ミエルシュ・夫)とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返されている。■3人は成瀬目線を使っている。 ③その直後、楽隊と階段でレースを振っている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ④その後、賛辞を贈る楽隊の学生(ラース・クヌツォン)とそれを聞いている詩人とのあいだは、7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■どちらも正面から撮られ、詩人は最後のショットでキャメラを正面から見据えている。 ⑤帰ってゆく楽隊とそれを手すりにもたれて見ている(歌っている)2人の女たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■女たちの照明が修正されている。 ⑥歌を唄うガードルードとそれを見ている夫とのあいだは、4ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■さほど『分断』されてはいない。 ⑦去ってゆきながら手を振る医者(アクセル・ストレビュ)と彼を見送るガートルードとのあいだは、最初のショットで『正常な同一画面』に収められた後、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■医者は正面から撮られガートルードはやや斜めから撮られているが照明が修正されている(それまでになかった部屋の中からの強い光がガートルードに後方から当てられている)。 ▲平行モンタージュ 1箇所。ドライヤー映画に日常的なされていた平行モンタージュが1箇所しか存在していない。 ■カッティング・イン・アクション 大きく重複しているのは以下の「立つ」「座る」という典型的な2箇所。 ①座る 詩人のパーティで気分が悪くなって医者と話し、スピーチを終えた夫が入って来て医者が出て行ったあと夫が妻の横に座る時、アングルを変えてカッティング・イン・アクションで撮られている。 ②立つ 公園のベンチでガートルードと音楽家が別れ話をしてから音楽家が立ち上がる時、アングルを変えてカッティング・イン・アクション。 ■コントラスト グレーの幅がありハイキー気味でもある。 ■ディゾルヴ 回想に入る時 ■アイリス なし ■フェイドアウト・フェイドイン あり。 ■長回し 軸を動かし再フレーミングしながら。 ■壁を通過 回想の時、アパートの廊下からそのままドアを無化してキャメラは横移動し部屋の中に入っている。 ■軸 よく動く。 ■横移動✕ 2回。詩人の祝賀パーティでテーブルを横切ってゆくなど。 ■パン✕(人、物の動きを追わないパンニング 少ない。 ★往復 それまでなら切り返しで撮られている会話とクローズアップがパンを往復させることによって撮られている(映画が始まってすぐのソファーでの夫婦の会話)。この場合、クローズアップは「1ショット」と数えられる。 ■照明 回想シーンは真っ白の空間。「奇跡(ORDET)」(1954)に続いてキャメラマンはヘニング・ベンツセンだが「奇跡」と違い壁に映る人の影がくっきりと制御されている。 ★影のみ 音楽家の家でガートルードが服を脱ぐ時、影だけで撮られている。 ■音 歌以外は同時録音のように見える(聞こえる)がアフレコもある。マイクを人物に接近させ遠近法を破壊するほどのシャープな音声を出している。80分頃、鏡の中にガートルードが映っているシーンで左上にマイクロホンの影が見えている。ギリギリまで接近させて音を録っている。 ★オフからの音 チャイム、鳥(公園で)、詩人の祝賀会で別室で休んでいるガートルードの部屋に夫の祝辞の声が聞こえる。鐘(ラストシーン) ■波紋 公園の池。 ■鏡 屋敷で医者と「鏡の中だけ」のガートルードが同一画面に収められそのショットはそのまま終わっている。 ■モノローグ 馬車の中で夫(弁護士)が。 ■ひざまずいて女の体に顔を埋める 音楽家がガートルードに。 ■起源 妻→元歌手。以前、詩人と付き合っていた(以上・夫との会話)。父は運命論者で人生は予め定まっていると教えられた(詩人の祝賀会での医者との会話)。。 ■回想 ①ピアニストのアパートで。②詩人との別れのいきさつ。どちらも白い世界。 ■罪の意識 妻→なし。 ■「常習性」 妻・医者→強い。夫・音楽家・詩人→弱い。 |
27-1-6-1箇所のみ ■外側からの切り返し ①音楽家の家でキスする時、外側から切り返されているように見えるが、これは外側からの切り返しではなく逆アングルへ転換されているだけで切り返しではない。 ★クローズアップ パンで往復されるクローズアップ、キャメラを寄った一瞬のクローズアップ、『2人クローズアップ』、などでクローズアップを撮るためのショットは撮られていない。 ①始まってすぐ、夫と妻がソファーら座って話す時、夫からパンして→妻→夫→4妻と1ショットで一往復半している。バスト・ショットに近いクローズアップ。 ②公園の泉で音楽家と会った時、ガートルードがショット内モンタージュで一瞬。 ③音楽家の家でガートルードがピアノの椅子に座った時。カットが割れているのでキッチリ照明が修正されている。 ④外側からの切り返し①参照。ガードナーのクローズアップ。これもカットが割れていて照明が修正されている。 ⑤詩人の祝賀会の学生の祝辞が終わり切り返されるた詩人のクローズアップ。それ以前のバスト・ショットから少しだけ接近したぎりぎりクローズアップ。 ▲平行モンタージュ ①音楽家と逢っているガートルードと馬車に乗りオペラ劇場へ妻に会いに行く夫とが。 ●逆からの切り返し なし |