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オーソン・ウェルズ内側からの切り返し表


 

邦題・原題・封切日

正面(人物が映画内でキャメラを正面から見据えたショットの数

左から
1ショットの平均秒数(④×60÷③)
1時間の平均ショット数(60秒×60分=3600÷①) 
 総ショット数 (④÷60分×②)
映時間
あらすじ
内側からの切り返しによる分断
視覚的細部

内側からの切り返し・外側からの切り返し・クローズアップの数。
●内側からの切り返しについてのコメント
■外側からの切り返しについてのコメント。「視点転換」とは古典的デクパージュとは無関係な切り返し。
★クローズアップについてのコメント。
1941 市民ケーンCITIZEN KANE
9月5日

はっきり見ているのは以下
①序盤、後見人のジョージ・クールリスが立て続けに3ショット、クローズアップやバスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。
②ドロシー・カミンゴアが自殺未遂をする直前のオペラのシーンでオーソン・ウェルズがオーヴァー・ラップでキャメラを正面から見据えているクローズアップ。

③『分断』⑫
④ピクニック
のテントの中で妻と言い争いをして立ち上がったウェルズのクローズアップがキャメラを正面から見据えている。

11.5 313 620 119
■『分断』14
箇所。
主婦の噂話は記事にはしないという買収した新聞社の編集長(アースキン・サンフォード)と彼に新しい方針を伝えているチャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■特に編集長がずれている。
新聞の声明をくれと言ったリーランド(ジョセフ・コットン)とそれを聞いて笑っている(?)ウェルズとのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■ウェルズの照明が修正されている
③最初の妻、
ルース・ウォリックとの結婚生活が次第に冷え切ってゆく様子を時の経過とともに捉えた朝食のテーブルで、向かい合って座っているオーソン・ウェルズと妻とのあいだは、最初に『正常な同一画面』に収められた後、25ショット目にキャメラが引かれて同一画面に収まるまで内側から切り返されている。すべてのショットが同じ角度から同じサイズで切り返されてゆくこのシーンは、時の経過とともに服装もメイクも表情も変化してゆく夫婦を撮ることで「同じ写真」を拒絶しながら夫婦間の次第に離れてゆく距離を内側からの切り返しによって分断している。ここまで切り返しの非常に少なかった映画がこれ以降、切り返しを加速させてゆくことになる。
④歯痛のドロシー・カミンゴアと出会ったあと彼女の部屋に入り一度閉めたドアを開けたあとのウェルズとカミンゴアとのあいだは、最初『正常な同一画面』に収められた後、化粧台の鏡の中に映し出された彼女とウェルズとのあいだをキャメラは4回内側から切り返されそのまま終わっている。ウェルズと向き合って座っているカミンゴアがウェルズと内側から切り返されるのではなく、ウェルズの背後にある鏡の中の彼女とウェルズが切り返されるという極めていびつで「ずれ」た切り返しによって2人は分断されている。さらのその
鏡の中ではウェルズの外側から切り返されている。さらに鏡の中のカミンゴアとウェルズの「右半身だけ」が同一画面に収められている(『奇妙な同一画面』)。こういう複合的切り返しはエルンスト・ルビッチ「呪の眼(Die Augen der Mumie Ma)」(1918)『分断』⑫を参照。。
その直後、母親の遺品を見に行く途中だったと話すウェルズとカミンゴアのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた5ショット内側から切り返され、さらにその後、2人のあいだは4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■『正常な同一画面』に挟まれてすべてやや斜めからのクローズアップで切り返されたこのシーンは、笑っていたカミンゴアの右頬に落ちた影(照明が修正されている)と微妙に静まってゆく彼女の表情の変化によって2人の運命を決する切り返しが「同じ写真」を拒絶しながら撮られている。
⑥壇上で選挙演説をしているウェルズと聴衆席(妻と息子など)とのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。
泥酔してタイプライターに顔を埋めているジョセフ・コットンと彼の前に立っているウェルズとのあいだは、1、3、5、7、9、11ショット目でコットンの
外側から切り返されてウェルズと手前のコットンの「背中だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)6ショット目ではコットンとウェルズの「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、それ以外は内側から切り返されそのまま終わっている。タイプライターに顔を埋めているコットンを正面から撮ったショットにしてもかろうじて「その人」と特定できるに過ぎないこのシーンはすべてが「奇妙な」ショットの切り返しによって分断されている。
⑧劇場でのカミンゴアの2度目の舞台シーンで、舞台の上のカミンゴアと観客席のウェルズとのあいだは、最初にウェルズの
外側から切り返された同一画面に収められるがウェルズは影のみで「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)、次にウェルズの外側から撮られた(切り返されてはいない)ショットで同一画面に収められているがウェルズは影がかかって「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面でパンフォーカス』)、そこからさらに6ショット目と8ショット目にウェルズの外側から切り返されで同一画面に収められているがウェルズは影がかかっていて「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』でパンフォーカス)、そこから7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■外側からの切り返しは最初のショット以外はすべてパンフォーカスで撮られている。
⑨新聞の批評を見て怒鳴り散らしているカミンゴアとパイプを吹かしたウェルズとのあいだは、2ショット目にウェルズの
外側から切り返されて同一画面に収められているがウェルズは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)5ショット目で『正常な同一画面』に収められているものの9ショット目でウェルズの外側から切り返されてカミンゴアとウェルズの「首から下だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)17ショット目にウェルズの外側から切り返されてカミンゴアとウェルズの「鼻から下だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)19ショット目にはカミンゴアとウェルズの「影だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)20ショット目でカミンゴアとウェルズの「影と下半身だけ」が同一画面に収められそのまま終わっている。20ショットの中で1ショットの『正常な同一画面』が撮られた以外の19ショットは『奇妙な同一画面』と内側からの切り返しによって分断されているこのシーンには極めて強い分断の性向を見ることができる(ただしスタンダードサイズで撮られたこの作品がビデオ化される時に上がちょん切れた可能性もあるので「首から下だけ」「鼻から下だけ」の断定は控えたい)■終盤、2人は接近してとなる。
⑩⑨と重複して、舞台のカミンゴアと彼女にアドバイスをしている歌の教師(フォルトゥニオ・ボナノヴァ)とのあいだは、最初に教師とカミンゴアの「脚だけ」が同一画面に収められてから(
『奇妙な同一画面』)7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■ここでは観客席のジョセフ・コットン等とも内側から切り返されている。
自殺未遂をしてベッドに横たえているカミンゴアと彼女を見守るウェルズとのあいだは、最初のショットで同一画面に収められているがウェルズは後ろ姿で「その人」と特定できず(
『奇妙な同一画面』)、1ショット目でカミンゴアの外側から切り返されて同一画面に収められているがカミンゴアが後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、2ショット目でウェルズの外側から切り返されて同一画面に収められているがウェルズは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)そのまま終わっている。僅か2ショットの切り返しだが、もはやこの3ショットの『奇妙な同一画面』が偶然そのように撮られたと判断することはできない。
⑫暖炉に火のともされた大広間でジグゾーパズルをしているカミンゴアと入って来たウェルズとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■カミンゴアは2ショット
キャメラを正面から見据えている
ピクニックのテントの中で言い争いをしているカミンゴアとウェルズとのあいだは、最初のショットで同一画面に収められているが手前のカミンゴアが後ろ姿で「その人」と特定できず
(『奇妙な同一画面』)、それから7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■6ショット目にウェルズはキャメラを正面から見据えている
さらにバンドの演奏を挟んで続けられる2人のいさかいは、最初のショットで2人は同一画面に収められているがカミンゴアは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、2、4、6、8ショット目でカミンゴアの外側から切り返されて同一画面に収められているがカミンゴアは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)、5ショット目にはカミンゴアと彼女を平手打ちするウェルズの「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、9ショット目にカミンゴアに内側から切り返されそのまま終わっている。

「市民ケケーン」イコール長回し、という連想を破壊させるに足る多くの分断がここに撮られている。偶然そのように撮られたのだと感じていた『奇妙な同一画面』がここまで徹底されているのを見た時、もはやそれらは偶然撮られたものではないと確信することができる。
■カッティング・イン・アクション 立つ・引くが基本。重複は少ない。立つ・引く、座る・寄る、等の典型的なカッティング・イン・アクションは撮られていない。
■ディゾルヴ 大活用されている。
■オーヴァー・ラップ二重写し あり。
■フェイドアウト・イン
■ズームアウト あり
■ワイプ あり
■コントラスト ハイ・コントラスト気味
■カメラのブレ(揺れ) オープニングのニュースでウェルズが車椅子を押されている時
■起源 母親に「棄てられた」。
■回想 回想によって撮られている。
■罪の意識 なし
■常習性 極めて強い
150-52-96-なし
▲平行モンタージュなし。
■外側からの切り返し
①新婚旅行に出発するウェルズたちとそれを新聞社の窓から見ているコットンたちのあいだで、手前の社会部の担当記者の女性タウンゼントの後頭部のクローズアップを手前になめたパンフォーカスでかつ見ている者たちの後姿の『奇妙な同一画面』が2ショット外側から切り返されている。真後ろから切り返されている
②『分断』④
鏡の中で外側から切り返されている。
③選挙演説の後、タクシーに乗った妻とタクシーの外から彼女と話しているウェルズとのあいだで4ショット外側から切り返されている『古典的デクパージュ的人物配置』にしてはお互いの距離が近過ぎ照明も暗すぎる。また外側から切り返されたショットは手前の妻のピントがぼやけ夫は「影のみ」のどちらも『奇妙な同一画面』となる。
④ライバル候補(ジェームズ・W・ゲディス)に不倫をネタにゆすられるシーンで部屋の奥に立っているウェルズから3ショット外側から切り返されているが最初の外側からの切り返しは手前のウェルズに殊更ピントを合わせたパンフォーカスであり、あとの2つは(『奇妙な同一画面』)
⑤選挙で負けた後、新聞社で酔ったジョセフ・コットンと話しているウェルズの外側から2ショット切り返されているがどちらも最初はウェルズの「脚だけ」「下半身だけ」が同一画面に収められている(『奇妙な同一画面』)。2回とも逆から切り返されている
⑥『分断』⑦
外側から切り返された5ショットはすべて『奇妙な同一画面』となっている。
⑦『分断』⑧
外側から切り返されたショットは1ショットを除いてすべて『奇妙な同一画面』かつパンフォーカスとなっている。
⑧『分断』⑨参照
ここでも外側からの切り返しは『奇妙な同一画面』とセットになっている。
⑨『分断』⑪参照
ここでも外側からの切り返しは『奇妙な同一画面』とセットになっている。
⑩カミンゴアが大広間の暖炉の前に座ってジグゾーパズルをしている時、2ショットカミンゴアの外側から切り返されているが1ショット目は通常の『奇妙な同一画面』、2ショット目はカミンゴアを手前になめたパンフォーカスによる『奇妙な同一画面』となる。
⑪『分断』⑭
ここでも外側からの切り返しは『奇妙な同一画面』とセットになっている。真後ろからの切り返し
⑫カミンゴアがウェルズの屋敷から出て行くときの戸口でカミンゴアとウェルズのあいだで6ショット外側から切り返されている。この配置がこの作品の中でもっとも『古典的デクパージュ的人物配置』に接近しており『奇妙な同一画面』もカミンゴアの外側から切り返されたショットは常識的な後姿に撮られウェルズの外側から切り返されたショットは「その人」と特定可能で『奇妙な同一画面』ではない。
⑬⑫の直後、もう一度ウェルズの外側から切り返されているがこれは『奇妙な同一画面』に接近している。
1973 オーソン・ウェルズのフェイク
F FOR FAKE
9月、サン・セバスティアン映画祭に出品
封切
フランス
1975年3月12日
  3.2  1141 1673  88
終盤のオーソン・ウェルズとコダールという娘の関係のみここに提示する。
終盤、贋作画家の祖父について話すオーソン・ウェルズとコダールとのあいだは、23ショット目に2人は同一画面に収められているがオーソン・ウェルズは「後ろ姿の影のみ」で特定できず(『奇妙な同一画面』)31ショット目で同一画面に収められているがウェルズは「後ろ姿の影のみ」で特定できず(『奇妙な同一画面』)33ショット目はウェルズとコダールの「手だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)34ショット目は逆にコダールの「後ろ姿の影のみ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)54ショット目に同一画面に収められているがコダールが後ろ姿でその人と特定できず(『奇妙な同一画面』)55ショット目にはウェルズの外側から切り返されて同一画面に収められているがウェルズは「影のみ」でその人と特定できず(『奇妙な同一画面』)59ショット目にもウェルズの外側から切り返され同一画面に収められているがウェルズは「影のみ」でその人と特定できず(『奇妙な同一画面』)66ショット目と68ショット目と70ショット目にはコダールの外側から切り返されて同一画面に収められているがコダールは後ろ姿のピンボケでその人と特定できず(『奇妙な同一画面』)72ショット目ではコダールの外側から切り返されているがコダールは後ろ姿で「その人」と特定できず(『奇妙な同一画面』)75ショット目で2人がベンチに座って『正常な同一画面』に収められ、89ショット目で2人は同一画面に収められているがコダールは「胴体の影のみ」で「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)98ショット目にウェルズの外側から切り返されて同一画面に収められていてウェルズはかろうじてその人と特定できるに過ぎず(「奇妙な『正常な同一画面』」、99ショット目にはコダールの外側から切り返されて同一画面に収められているがコダールは「後ろ姿の影のみ」で「その人」と特定することはできず(『奇妙な同一画面』)100ショット目にはウェルズとその背後を通り過ぎるコダールの「影のみ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』) 終わっている。
488-11-多い→あり(?)
▲平行モンタージュは人物の場所的関係が定かでないので平行モンタージュなのか切り返しなのか不明なものが余りにも多い。