改訂・フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ内側からの切り返し表。
題名にはYouTubeで検索しやすいように原題を書いておく。数字はすべておおよそです。
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邦題・原題・封切日 |
正面(人物が映画内でキャメラを正面から見据えたショットの数 |
左から |
内側からの切り返し・外側からの切り返し・クローズアップの数。 ●内側からの切り返しについてのコメント。逆からの切り返しも。 ■外側からの切り返しについてのコメント。「視点転換」とは古典的デクパージュとは無関係な切り返し。 ★クローズアップについてのコメント。 |
1920 | 夜への歩み Der Gang in die Nacht 1月21日 |
15ショット。クローズアップではっきり見てもすぐ目を逸らす。医師のオラフ・フェンスだけが頻繁にちらちら見ている。
①頭巾をかぶって患者に成りすました妻がクローズアップで。 ②盲人を食卓に招いた後、元婚約者の病状が思わしくないとの手紙を医師が胸ポケットにしまった後、ウエスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。 ③妻の衣装を抱きしめた後、医師がキャメラを正面から見据えて叫ぶフルショット。 ④病院へやって来たダンサーが診察室に入った後、ドアの前に立っている医師がバスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。 |
17 212 297 84 眼科医の男(オラフ・フェンス)は婚約者(エルナ・モレナ)がありながらダンサー(グドルン・ステフェンセン)に夢中になり2人は海岸沿いの屋敷に住み始めるがそこに盲目の画家(コンラート・ファイト)が現れ、最初は彼を恐れたダンサーも医師の手術で視力を取り戻した画家に惹かれ始めて恋仲になり、医師と別れて画家と暮らし始めるものの再び画家の眼が悪化して医師に手術を頼みに行くが嫉妬に狂った夫に断られて自殺し、婚約者もまた病状の悪化で死に、医師もまた画家からの手紙を手にしたままみずからの命を絶つ。その手紙にはこう書いてあった 『私はあなたを責めません。誰も私たちを責めることはできません。誰のせいでもありません。短いあいだでしたがあなたは私に光をくれました。私は彼女を見ることができました。私は自分の夜に帰ります。 ●『分断』8箇所 ①ボックス席の医師(オラフ・フェンス)とそれをカーテンの穴から見ているダンサー(グドルン・ステフェンセン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■カーテンの穴がアイリスとなって周囲を黒く囲っている。 ②③さらにこれがあと2回、4ショット繰り返される。主観ショット。■カーテンの穴は撮られていない。主観ショットとしては大き過ぎるほどの医師の大きなクローズアップが撮られている。 ④舞台の上で踊っていて怪我をしたふりをするダンサーとそれをボックス席から見ている医者とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■評 2人の出会いはダンサーの意志によるもの。 ⑤初めて医師の家にやって来たダンサーが『私を見て』という時の医師とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■大きなクローズアップ同士の切り返し。同一画面から特にダンサーの照明が修正されている。 ⑥嵐の夜、召使を呼んだ後、柱時計とそれを見ているダンサーとのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑦初めて(元)盲人の画家(コンラート・ファイト)を食卓に招いて乾杯する時の医師、ダンサー、盲人とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。■盲人とダンサーのショットが特にずれている(ややフィルムが失われているようだが)。 ⑧海辺で盲人に寄り添っているダンサーと、それを見つけた医師とのあいだは、7ショット目で『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 ■評 基本はフルショットでここという時にクローズアップに寄り、それはすべて別々に撮られている。必要なら切り返す。切り返しは少ないがすべて別々に撮られている。平行モンタージュを多用する。この時期のフリッツ・ラングとムルナウの撮り方はこうした点で共通している。 砕ける波のショットが何度も撮られ人々が罪の意識に苦しむことなどから基本的にはメロドラマとして撮られている。 ■カッティング・イン・アクション 重複は少ない。 ■フェイドアウト ■アイリス・イン、アウト 多用 ■ディゾルヴ ■コントラスト 黒い服が真っ黒ではなくグレーの幅が少し出ている。 ■被写界深度 劇場のボックス席と奥の舞台のリリーとがパンフォーカス気味に撮られている。 ■成瀬目線 ダンサーが壁の裏に隠れて通り過ぎる盲人を脅かそうとしている時、成瀬目線で盲人を追っている。これは切り返しではないが別々に撮られている。 ■軸 動かない(トラッキングなし)。 ■メロドラマ的要素 ディゾルヴ・海・砕け散る波・罪の意識・自殺 ■傘 医師、婚約者が雨の中さしている。医師は夜、ダンサーの家に向かう時のロングショット。 ■黑 ダンサーが初めて医師の家にやって来た時まるで喪服のような真っ黒な服と帽子を身に着けている。終盤、医師の病院にやって来た時も。 ■舟 盲人がやって来るとき、小舟の上で立っている。コンラート・ファイトは「カリガリ博士(DAS CABINET DES DR. CALIGARI)」(1919)の眠り男チェザーレ役。 ■男が女の膝に顔を埋める 海岸で元盲人がダンサーの膝に。終盤、医師の病室でダンサーの膝に。この時期のドイツ映画にはよく見られるシーン。 ■衣装を撫でて抱きしめる 医師が妻と盲人との関係を知った後。 ■風カーテン。 嵐の夜、カーテンが風に揺れている。 ■照明 カーテンを開けると光が差し込む(盲人の目が見えるようになる時) ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 あり。砕ける波が何度も撮られるメロドラマ。 ■「常習性」弱い。ダンサーと医師の職務行為も撮られているがマクガフィンでありそれ自体目的ではない。 |
21-2-13-多用(極めて多い) ●内側からの切り返しは序盤の舞台で撮られた以降、ほとんど撮られなくなる。キャメラを正面から見据える内側からの切り返しも撮られていない。 ●AとBの2人が同一画面に収められたあと、Aのクローズアップが撮られた場合、そこからさらにBが撮られて初めて「切り返し」が成立するのだが、殆どAのショットだけで終わっている。まだこの時期のムルナウは「切り返し」という方法を手に入れていない。 ■外側からの切り返し ①劇場のボックス席の医師から、外側から切り返されて手前に医師、奥に舞台で踊っているダンサーが取り込まれる。 ②ダンサーが歩いて来る盲人を初めて見るシーンはダンサーの後方から外側から切り返されて撮られている。 ★大きなクローズアップが多く撮られている。生々しく「ずれ」て入って来る。 |
1921 | フォーゲレット城 SCHLOB VOGELOED 4月7日 |
24ショット。ほとんどがサイレント短編風のちらちら。はっきり キャメラを正面から見据えているショットは以下 ①広間で招待客に囲まれて座っている伯爵ロータル・メーネルトが「弾丸は一発発射される」と話す時のクローズアップでちらりと。②その直後のクローズアップではっきりキャメラを正面から見据えている。 ③振り向きざまに「私は人殺しではない」と叫ぶ男爵パウル・ビルトのバスト・ショットで。 ④変装をはずしてゆく伯爵を見ている男爵が振り向きざまのクローズアップで2ショット。 |
9 397 517 78 深い森の中にあるフォーゲレット城では雨降りで狩りに出られない招待客たちが暇をつぶしているところへ3年前に弟をピストルで撃ち殺したと噂されている伯爵(ロータル・メーネルト)が招待無しにやって来てみなを驚かせる。そこには弟の未亡人(オルガ・チェホヴァ)が再婚した男爵(パウル・ビルト)と共に招待されていたからだ。ほどなくやって来た未亡人は伯爵がいることを知って狼狽するが、亡き夫の親類である神父がやって来ると聞き、彼と話がしたいからと屋敷に留まる。僅かな晴れ間に狩りがなされたその夜、やって来た神父に未亡人は亡き夫との過去について話し始める。最初は幸せだった結婚もしばらくすると夫が本と聖書に没頭し俗世間のあらゆる出来事を捨て去るようになった。その反動で自分は邪悪なものが見たくなりちょうどその頃男爵と知り合った。夫は貧しい者たちに財産を与えようとした。そして兄がやって来たその夜、夫は殺されたと。未亡人の告白が終わったその夜、神父の姿は屋敷から消え疑いの目が伯爵へ向けられる。翌朝、朝食の席で伯爵は男爵に彼の殺人をほのめかし動揺した男爵は妻にすがりつき妻(未亡人)は招待客たちの前で伯爵が夫を殺したと非難する。そこへ失踪したはずの神父が姿を現す。 以下ネタバレ 殺人の真相は→聖なるものに閉じこもった夫への反動で『邪悪なものが見たい、、殺人とか、、』と未亡人(当時は妻)が思わず口走り、彼女に夢中だった男爵はそれを聞いて伯爵の弟を撃ち殺した。 『分断』5箇所 ①大広間で暖炉にもたれて笑っている男(ユーリウス・ファルケン・シュタイン)と伯爵(ロータル・メーネルト)とのあいだが、合わせて4ショット内側から切り返されている。■暖炉の男の正面から撮られている(キャメラを見ている)ショットがずれている。 ②窓の外から出て来る大きな手とベッドで眠っている男とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。夢のシーン。 ③階段を降りて来る男爵(パウル・ビルト)と元検事(ヘルマン・ファレンティン)と話している伯爵とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■さほどずれてはいない。 ④椅子にもたれてうなだれている男爵とドアを開けて入って来る妻(オルガ・チェホヴァ)とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■妻のショットがずれている。 ⑤変装を解いて階段を降りて来る伯爵とそれを見ている3人組とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■さほどずれていない。 ■評 1ショットをゆったりと撮っている。「起源」へと遡るミステリーゆえ心理的になる。切り返しは基本的に使われていない。あっても『分断』の傾向は乏しい。カーテンを開けて外を覗いても主観ショットは撮られない。明るい画面の周囲をアイリスで囲っても「ずれ」は生じない。 ▲平行モンタージュ 多用 ■カッティング・イン・アクション ①以外は重複は少なく寄る・引く、が基本。 ①『彼が私の夫を殺しました!』と伯爵を指差した後、部屋に帰り椅子に座ってうなだれている男爵の妻の横で寄り添いながら城主の妻(ルル・キューザー=コルフ)が座る時、座る→寄るの典型的カッティング・イン・アクションが撮られている。 ■アイリス アイリスは常時でなくたまにかかる。アイリス・イン・アウト 多用。 ■ディゾルヴ あり ■フェイドアウト あり ■コントラスト グレーの幅が出ている。 ■カーテンが風に揺れている 男の夢のシーン。 ■シルエット 男爵の妻の回想の玄関の中がシルエットで暗く撮られている。 ■軸 動かない(トラッキングなし) ■照明 ライトの点け消しはカットを割っているように見える。 ■夜は基本的にアメリカの夜だろうか。 ■太目 女性はやや太め ■夢 ①男が謎の手に襲われる悪夢 ②コック見習の少年が神父にクリームを食べさせてもらう。 この②の夢の楽天性は「最後の人(DER LETZTE MANN)」(1924)のハッピーエンドバージョンの楽天性に通じている。 ■男が女の膝に顔を埋める 男爵が妻の前にひざまずいて。 ■ミニチュア 屋敷の全景はミニチュアのように見える・ ■起源 あり。男爵が伯爵の弟を殺した。 ■回想 あり。男爵の妻の回想が多数入る。 ■罪の意識 男爵夫婦にあり。 ■常習性 職務行為は撮られていない。人間の映画。伯爵はそれなりに常習性は強いがミステリーとしての弱さがある。 |
29-2-15-あり。 ●切り返しによって進められる映画ではない。 ■外側からの切り返し ①序盤、ソファーで新聞を読んでいる男の外側から切り返されている。 ②男爵の妻に『彼が私の夫を殺しました!』と指を差された伯爵のクローズアップのあと伯爵の外側から切り返されている。 ★大きなクローズアップが多い。 ▲平行モンタージュ それなりに入る |
1921 | 吸血鬼ノスフェラトゥNOSFERATU: EINE SYMPHONIE DES GRAUENS 1922年.3月4日 |
14ショット。 吸血鬼マックス・シュレックが不動産屋の妻グレタ・シュレーダーを襲うシーンからキャメラを正面から見据えるショットが増え始めるが、 ①『分断』②参照 オープニングで夫グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイムがドアを開けて入ってくるシーンがはっきりキャメラを正面から見据えている ②『分断』38 吸血鬼は5ショットキャメラを正面から見据えている。 ■評 俳優にはキャメラを正面から見てはならないという不文律のようなものがあるように見受けられる。 |
8 437 648 89 北ドイツの港町ヴィスボルグの不動産屋に勤めるフッター(グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)は雇用主のクノック(アレクサンダー・グラナハ)に命じられ、港町に家を買おうとしている伯爵(マックス・シュレック)と商談を進めるために妻エレン(グレタ・シュレーダー)を友人の船主とその妹(ゲオルク・H・シュネルとルート・ランツホフ)の家に預けて伯爵の住むトランシルヴァニアの城へと出かけるが、途中で寄った宿屋で伯爵の城へ行くというとみなによしなさいと言われ、置いてあった吸血鬼に関する本を読んでから翌朝馬車で出発すると御者は伯爵の城まで行くことはできないと帰ってしまいそこへ伯爵の馬車がやって来て城まで連れていかれる。到着したその夜、眠っている時に伯爵に首を噛まれたことに気づかずに妻への手紙に『首を蚊に刺されたが元気だ』と書いて送ったフッターはその夜、たまたま机の上に落ちた妻の写真を伯爵に見られると伯爵はフッターの向かいの家を買う契約をする。夜半、フッターは何者かの影に襲われ、遠く離れた港町に残した妻もまた伯爵の妖気で夢遊病にとり憑かれる。朝になってフッターは棺で眠っている伯爵の姿を見て影の正体を突き止め、馬車に乗って出発する伯爵を見て妻が危ないと直感し城から脱出しようとして転落し病院へ運び込まれる。時を同じくして港町では科学者のブルヴァー教授(ジョン・ゴッドウト)が教え子たちに食虫植物の実験をし、また伯爵の接近を感じて狂気に陥り病院に収監された不動産屋のクノックは看守から盗んだ新聞に『伯爵の立ち寄った先々でペストが発生、犠牲者全員の首に同じ傷跡。』と書かれているのを見て歓喜する。伯爵はフッターの家の向かいの屋敷に到着し、回復したフッターもまた陸路で馬に乗り妻の帰った自宅に戻る。港町にはペストによる外出禁止令が敷かれるが、夫から読まないように禁止された吸血鬼の本に『吸血鬼を退治するには純真な女性が自分の血を吸わせることで吸血鬼を一番鶏が鳴くまで足止めすること』と書かれているのを読んだ妻はみずからが犠牲になって吸血鬼を葬ろうとする。看守を絞め殺し脱獄したクノックは恐怖にとり憑かれた街の者たちにリンチされたその夜、妻の横たえる2階の寝室の真向いの窓に伯爵が姿を現す。 『分断』43箇所。 ①窓辺で猫をあやしている妻(グレタ・シュレーダー)とそれを窓から見ている不動産屋に努める夫フッター(グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ②裁縫をしている妻とドアを開け部屋に入って来た夫とのあいだは、4ショット目で同一画面に収められるまで3ショット内側から切り返されている。■入って来た夫はキャメラを正面から見据えている。その後、夫も妻もキャメラの左側を見ていてイマジナリーラインがずれている。 ③地図を見ているフッターと不動産屋の主人(アレクサンダー・グラナハ)とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまでの2ショット内側から切り返されている。■引かれた客観的同一画面空間からクローズアップの主観的空間の切り返し。 ④その後、向かいの家とそれを見ている2人(不動産屋とフッター)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑤荷造りをしている夫とその部屋に入って来た妻とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで3ショット内側から切り返されている。 ⑥宿屋で伯爵の屋敷へ行くんだと言ったフッターとそれを聞いて驚く客たちとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑦山から降りてきたオオカミと驚いて逃げる馬たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。動物モノ。 ⑧宿屋の外の馬たちとそれを窓から見ている夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑨馬車でやって来た御者席の吸血鬼と彼を見ている夫とのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。 ⑩馬車から降りたフッターと御者席の吸血鬼とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。 ⑪その直後、城の尖塔とそれを見ている2人(吸血鬼とフッター)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑫去ってゆく馬車と振り向いてそれを見ているフッカーとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑬新聞を読んでいる吸血鬼とそれを見ているフッターとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑭その直後、骸骨人形の時計とそれを見ているフッターとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑮誰もいない室内と、朝、目が覚めてそれを見ているフッターとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑯鏡に映っている喉の傷とそれを見ている夫とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑰その直後、テーブルの上の御馳走とそれを見ている夫とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑱馬で走って来る男と彼に手紙を渡すフッターとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑲妻の写真の入ったペンダントとそれを見ている吸血鬼とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑳遠くに立っている吸血鬼とそれを見て驚くフッターとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 21このシークエンスは城にやって来たフッターが吸血鬼に襲われるシーンと、遥か離れた場所で吸血鬼にうなされるその妻との二つの空間をカットバックで交互に撮られているが、ここでは同一空間に存在しているフッターと吸血鬼とのあいだについてのみ見てみると、開いたドアから入って来る吸血鬼とそれを見ているフッターとのあいだは、6ショット目でフッターと壁に映し出された吸血鬼の「影だけ」が同一画面に収まり(『奇妙な同一画面』)、7ショット目に吸血鬼が部屋の外へ出てゆくまで内側から切り返されそのまま終わっている。■フッターは吸血鬼の影としか同一画面に収められていない。。 22地下室の棺の中の吸血鬼とそれを見てしまったフッターとのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 23馬車の荷台に棺を積んでいる吸血鬼と城の二階の窓からそれを見ているフッターとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 24食虫植物とそれをみている教授たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 25牢の中の不動産屋とそれを見ている医者たちとのあいだは、同一画面に挟まれた3ショット内側から切り返されている。 26ポリープとそれを見ている学者たちとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 27蜘蛛の巣とそれを見ている不動産屋とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 28浜辺のベンチに座っている妻と砂丘から降りて来る船長とその妹とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 29船内に出現した吸血鬼の亡霊とそれをハンモックから見ている病気の船員とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 30棺の中から出て来るネズミ、吸血鬼とそれを見ている船員とのあいだは、5ショット目に船員の外側から切り返されて同一画面に収められるまで4ショット内側から切り返されている。主観ショット。 31その直後、船から落下する船員とそれを見ている船長とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 32舵に体をロープで括り付けている船長と接近して来る吸血鬼とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 33棺を抱えた吸血鬼と彼が見上げた屋敷とのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 34太鼓を叩いてペストの告知をする男と二階の窓からそれを見ている住民たちとのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 35吸血鬼の屋敷とそれを指差す妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 36棺を担いで来る人の列とそれを窓から見ている妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 37屋根の上の不動産屋とそこに石を投げる群衆とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 38妻の家の向かいの屋敷の窓からこちらを見ている吸血鬼とそれを見ている妻とのあいだは、9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。別々に撮られている。■吸血鬼は5ショットキャメラを正面から見据えている。9ショット目の妻の照明が修正されている。 39そのあいだ、眠っている夫とそれを見ている妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 40その直後、階下に降りてきた吸血鬼とそれを見ている妻とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 41向かいの吸血鬼の屋敷とそれを見ている妻とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 42部屋に入って来て襲ってくる吸血鬼と妻とのあいだは、3ショット目で妻と吸血鬼の「影だけ」が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)さらにその後、吸血鬼が妻の喉元に噛みついているシーンが3ショット同一画面に収められているが、3ショットとも吸血鬼の顔しか確認できず(『奇妙な同一画面』)、そのまま終わっている。 43一番鶏とそれを見ている吸血鬼とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ■カッティング・イン・アクション 重複は少ない。 ■軸 動かない ■照明 強い光が常時髪などに当てられていて照明の修正が際立つようには撮られていない。 ■アイリス・アウト 多用、アイリス・イン 多用 ■アイリス クローズアップはアイリスに囲まれているのが多い ■ディゾルヴ あり ■フェイドアウト あり ■コントラスト 黒い服が真っ黒ではなくグレーが意識されている。 ■アメリカの夜 ■コマ落とし 吸血鬼の馬車、馬車に棺を積み込むシーンなど。 ■オーヴァー・ラップ二重写し ■風に揺れるカーテン 妻の部屋の窓。 ■鏡 オープニングのネクタイを直す夫。首の傷を見る時。妻の寝室など。 ■目を開けて死ぬ 船長が。 ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 なし ■「常習性」 吸血鬼は「前科10犯」の「常習犯」。以前は『ドラキュラのみ「常習犯」であり、それ以外の人々は「巻き込まれ型」であり不動産業もマクガフィンに過ぎず職務行為、常習性を撮る映画ではない。 」と書いたが、妻は自分の意志で吸血鬼を倒しているので人間の映画であり、夫にしても「モノ」化まではしておらず「巻き込まれ型」ではない。 ■評 本、新聞、日記などをクローズアップで撮った主観ショットも5箇所ほど撮られていて、当然それも別々に撮られていることになるが、こうしたクローズアップは切り返しが定着する以前の映画初期から存在しており、果たして「切り返し」に含めていいか、今のところ定かではないので現在はカウントしていない。 |
135-4-27-多用 ■外側からの切り返し ①吸血鬼の城でフッターが誤ってナイフで指を切った後、後ずさりする夫と吸血鬼とが『古典的デクパージュ的人物配置』で向かい合った後、2回外側から切り返されるが、どちらも逆からの切り返しであり『古典的デクパージュ的外側からの切り返し』ではない(カール・ドライヤーにも同じような逆からの外側からの切り返しがよく撮られている)。 ②船員か病気にかかりましたと船長に伝える船員の外側から切り返されている。 ③ 『分断』30参照 ●逆からの切り返し ①外側からの切り返し①参照 |
1922 | 燃ゆる大地 Der brennende Acker 3月8日 |
8ショット程度。 ①父の死後、食卓についた弟のウラディミール・ガイダロフがウエスト・ショットではっきりと。あとはちらちら。 ■次男役のウラジーミル・ガイダロフ はドライヤーがドイツで撮った「不運な人々(DIE GEZEICHNETEN)」(1921)で主人公の娘の兄の弁護士役で出演している。 |
98分 伯爵家のメイドたちはルーデンブルグ家の呪いに怯えている。女中頭が伯爵夫人に語るところによると、ルーデンブルグ家の祖先が宝物を求めて「悪魔の大地」で採掘中、謎の爆発で亡くなったとのこと。その宝物を求めて今、子孫の伯爵(エドゥアルト・フォン・ヴィンターシュタイン)は後妻(以下伯爵夫人、ないし妻ステラ・アルベンティーナ)の心配をよそに豪雪の中「悪魔の大地」の探索を続けている。一方、近くの農家では年老いた農夫が死に2人の兄弟が残される(兄オイゲン・クレプファー、弟ウラジーミル・ガイダロフ・以下ヨハネス)。実直な農夫の兄と違い野心に溢れた弟は彼を愛する農家の娘(グレーテ・ディクルス)を残して家を出て伯爵の秘書となるが父の死に目にも間に合わず兄の怒りを買う傍ら、伯爵家の前妻の娘(リア・デ・プティ)と懇意になる。かねてから婚約者(アルフレート・アーベル)を冷たくあしらっていた彼女はヨハネスに惹かれてゆく半面、後妻の伯爵夫人とは対立を深めてゆく。そんな折、悪魔の大地には豊富な石油が埋蔵されているとの伯爵の話を盗み聞きしたヨハネスは、伯爵の遺言書の口述で伯爵の相続人が娘ではなく後妻の伯爵夫人であることを聞くと前妻の娘を棄てて彼女に接近し伯爵が死ぬと密かにヨハネスを愛していた伯爵夫人と結婚する。その後ヨハネスは「悪魔の大地」に石油が埋蔵されていることを確かめると都会へ行き大企業の重役たち相手に油田採掘のための巨額な資金の融資にこぎつける。一方妻(伯爵夫人)は冷たくなったヨハネスの愛を取り戻そうと「悪魔の大地」をヨハネスの兄に売り渡して報告すると激怒したヨハネスにこの結婚は金のためだと告白され妻はヨハネスの兄の元へ行って権利証を返してもらってから入水自殺する。それを知らずにヨハネスは兄の元へ権利証を取り返しに行くとそこへ運び込まれた妻の遺体を見て改心し、やって来た伯爵の娘にも愛はなかったと告白し、娘は「悪魔の大地」に火を放って復讐する。ヨハネスは兄と農夫の娘の待つ農家へと帰ってゆく。 ●『分断』31箇所。これ以上見出すことも可能。 ①雪の積もった斜面を転げ落ちる物体とそれを家の中から見ている女―メイドたちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■『窓空間』だが窓は撮られていない。 ②伯爵夫人(ステラ・アルベンティーナ)が夫の伯爵(エドゥアルト・フォン・ヴィンターシュタイン)の部屋に入って来て知人が死の床にあると告げる時の2人のあいだは、8ショット目に同一画面に収められるまですべて内側から切り返され、その8ショット目では夫人が後ろ姿のロングショットで「その人」と特定することはできない(『奇妙な同一画面』)。■さほどずれてはいない。 ③やって来る馬車とそれを窓から見ていた伯爵夫人とのあいだは、1ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。■ひょっとして『出て行く馬車』、かも知れない。 ④地下の部屋の家政婦たちとドアを開けて入って来た伯爵夫人とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑤朝の食卓のテーブルに就いている使用人たちとそれを見ている地主の長男(オイゲン・クレプファー)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑥その後、食卓のテーブルに就いた地主の次男ヨハネス(伯爵の秘書ウラジーミル・ガイダロフ)と『お祈りをしないのか』と尋ねる長男とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■次男はキャメラを正面から見据えている。 ⑦その後、席を立った次男と『お前に話がある』と引きとめる長男とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑧弟に掴みかかっている兄とドアを開けて入って来た使用人とのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑨居間で話している2人(伯爵の娘の婚約者アルフレート・アーベルと伯爵夫人)とそこへやって来た伯爵の娘(リア・デ・プティ)とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■さほどずれているわけではないが。 ⑩その直後、ソファーに座っている娘と伯爵夫人とのあいだは、『正常な同一画面』に挟まれた4ショット内側から切り返されている。■娘は下から上の成瀬目線で席をはずそうとした母親(後妻)を睨みつけている。客観的な『正常な同一画面』に挟まれることで主観的なコミュニケーションが際立っている(娘はほかに好きな男がいて婚約者と2人きりになりたくなかった)。 ⑪馬に乗っている2人(伯爵の娘と次男)とそれを窓から見ている兄たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑫馬に乗って帰って来た2人(娘と秘書)と、彼らを二階の窓から見ている伯爵夫人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑬その直後、階段ですれ違った母と娘とのあいだは、『正常な同一画面』に収められたあと3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■特に娘のショットがずれている。 ⑭石油埋蔵の話をしている伯爵たちとそれを見ているヨハネスとのあいだは、3ショット内側から切り返されてそのまま終わっている。■それ以降はドアを閉めているので『原初的音声空間の切り返し』ということになりここではカウントしない、 ⑮その直後、ヨハネスとの関係を問いただす伯爵夫人とそれを聞いて激怒する娘とのあいだは、同一画面に挟まれた1ショット内側から切り返されている。■キャメラの位置を想像すると別々に撮られていることになる。それほどずれているわけではないが。 ⑯雪の中の埋蔵場所(プラント)とそれを窓から見ているヨハネスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑰ソファーで泣いている伯爵夫人とそれを階段の上から見ているヨハネスとのあいだは、2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑱抱き合っている2人(伯爵夫人とヨハネス)とそれを2階から見ている娘とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑲その後、抱き合っている2人とそれを見ている2人(伯爵と娘)とのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑳雪の道を埋蔵場所まで歩いてゆくヨハネスとそれを部屋の中からそれを見ている夫人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。■窓は撮られていない。 21その後、帰って来たヨハネスとそれを盗み見している伯爵夫人とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 22椅子に座ってうなだれている伯爵夫人とやってきてそれを見ているメイドとのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 23農家の食卓で泣いている農夫の娘(グーレーテ・ディルクス)、離れた椅子に座っているヨハネスと、彼らを交互に見ている長男とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 24言い争っている兄弟と(伯爵夫人ま死を告げに)入って来た農家の娘とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 25伯爵夫人の亡骸とそれを見てうなだれる農家の娘とのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 26家の中の者たちと窓の外から中を見ている者たちとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 27燃えている埋蔵場所へ駆けつける人々とそれを窓から見ている執事とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 28燃えている埋蔵場所へ駆けつける人々とそれを窓から見ている次男とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 29目の前で燃えている埋蔵場所とそれを見ている3人(兄弟と農夫の娘)とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 30食卓にいる兄たちと割れた窓からそれを見ている弟ヨハネスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 31家の中の時計、花瓶、額とそれを見ているヨハネスとのあいだは、6ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ■評 キャメラを正面から見据えながらの奇形的な分断は存在しない。しかし「同じ写真」の切り返しでもない。分断による隔離性と心理的な密室性という内側からの切り返しによる分断のもたらす効果が複雑に絡み合っている。 ▲平行モンタージュ 多用。極めて多い。 ■カッティング・イン・アクション 重複は少なく、寄る・引く、が基本。典型的なのは以下。 ①映画が始まってすぐ、伯爵家のメイドが暖炉の煙に驚いて立ち上がる時、立つ・引く。 ②35分過ぎ 兄と一緒にテーブルに就いていた男が帽子をかぶってから立ち上がる時、立つ・割る ③終盤、丸テーブルで投資家たちとの会議を終えた次男が立ち上がる時 立つ→引くが撮られているが動作は重複していないのでカッティング・イン・アクションではない。これを見ても、典型的なカッティング・イン・アクションについては未だ意識されていないように見える。 ■ハイ・コントラスト ■ディゾルヴ あり ■アイリス 多用されている。アイリス・アウト。アイリス・インもあり。 ■成瀬目線 『分断』⑩のほかにも、切り返しの過程ではないが、伯爵夫人が次男への愛を告白した後の階段で伯爵の娘が階段を上ってゆく次男を成瀬目線で追いかけている。 ■軸 馬に乗っている2人(伯爵の娘と次男)を後退移動で。 ■起源 なし ■回想 侍女が。 ■罪の意識 あり。次男は改心している。 ■常習性 農民、秘書の職務行為は撮られていない。人間の映画。改心するメロドラマ。 |
139-1-46-多用 ■外側からの切り返し ①伯爵夫人の亡骸が運び込まれた後、弥次馬たちを追い出す長男の外側から切り返されている。 ▲平行モンタージュ 極めて多い。 |
1924 |
最後の人 DER LETZTE MANN 12月23日 |
はっきりは8~9ショット。 ①結婚式の翌朝、二日酔いのヤニングスの主観ショットで二重に見える女がキャメラを見ている。 ②『分断』25 ホテルにやって来た姪の婿の叔母がドア越しにヤニングスを見て叫んでいるところへキャメラが急接近したクローズアップ。窓が女の息で白く曇る。 ③その直後、仰天したヤニングスのクローズアップ。 ④『分断』26 トイレの客に呼ばれてもうろうと振り向くヤニングスがウエスト・ショットで。 ⑤その後、出て行った客のドアが開閉する奥のヤニングスがフルショットで。 ⑥その後、同じ体勢のヤニングスが少し近づいて。 ⑦ヤニングスが制服を着て帰宅している時、オーヴァー・ラップで笑っている女のクローズアップ ⑧『分断』31 姪の婿の部屋にやって来たヤニングスを見つめる娘婿が。 |
11.9 302 373 74 ホテルのポーターをしている老人(エミール・ヤニングス)は金モールの制服に誇りを持ちながら重いバッグを担いだりやって来た客に雨傘を差し出したりする重労働に励んでいたある時、仕事中に疲れて休んでいところを支配人(ハンス・ウンターキルヒャー)に見られもう年だからとトイレ係へ左遷されるが結婚を控えた姪(マリー・デルシャフト)の待つアパートにそのままでは帰れずロッカーから盗んだ制服を着て帰宅し左遷を隠す。だが次の日、差入れを持ってやって来た姪の婿の叔母(エミーリエ・クルツ)にトイレ係の姿を見られてしまいおしゃべりな彼女はアパート中にそのことを言いふす。★この作品は字幕が1つも入らず姪がクリームでケーキに『結婚式のお客様に』という文字をドイツ語で書いたこと以外は母国のドイツ人に対しても『見ていればわかる』映画として撮られているのであらすじを書くことは無意味かもしれない。そんなこともあり、エミール・ヤニングスと同居している娘が彼の姪であり、女は姪の婿の叔母であるとは映画を見ているだけではわからない。私はずっと姪ではなく娘だと思っていた。 ●『分断』33箇所 ①雨の中タクシーの屋根の上に載っている鞄とそれを見ているホテルのポーター(エミール・ヤニングス)とのあいだは、合わせて4ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ②仕事を休んで椅子に座り飲み物を飲んでいるヤニングスとそれを見てメモをする支配人ハンス・ウンター・キルヒヤーとのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ③帰宅の途中制服姿で路地を歩いて来るヤニングスと彼に挨拶する3人(窓の老婆と窓の下で帽子を脱ぐ2人の男)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ④ケーキを持ってきた姪とそのケーキを指で舐めてからウェディングドレスを見ているヤニングスとのあいだは、6ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■あいだに2ショットウェディングドレスを見ている父親の主観ショットが挿入される。姪のショットは窓から差し込む光(という体裁の)によって修正されている。 ⑤ヤニングスと彼の後任のポーターが回転ドアですれ違った時、3ショット目にヤニングスの外側から切り返されて2人は同一画面に収められているが後任の男は後ろ姿で「その男」とは特定できず(『奇妙な同一画面』。さほど奇妙ではないが)、もう一度ヤニングスの外側から切り返されて同一画面に収められるまで1ショット内側から切り返され、その後さらに2ショット目に『正常な同一画面』におさめられるまで1ショット内側から切り返されている。■少々統一感に欠ける切り返しによって撮られている。 ⑥ヤニングスが左遷の辞令を読んだあと、デスクで仕事をしている支配人の後ろ姿とそれを見ているヤニングスとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑦その直後、重い鞄とそれを見ているヤニングスとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑧その直後、倒れたヤニングスとそれを見ている支配人とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑨その直後、制服を脱がされるヤニングスとそれを見ている支配人とのあいだは、5ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑩その後、タンスの中に掛けられている制服とそれを見ているヤニングスとのあいだは、3ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑪その直後、やって来た女とそれを見ているヤニングスとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑫懐中電灯を首から下げて夜の見回りをしている警備員とそれを見ているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑬その後、夜のホテルの入り口とそれを見ているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑭グラスをもって乾杯する結婚式の招待客たちと彼らに敬礼するヤニングスとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ⑮ラッパを吹いて踊っている2人組とそれを二階の窓から見ているヤニングスとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。主観ショット。 ⑯二重に見える姪の婿の叔母(エミーリエ・クルツ)と目をこすりながらそれを見ているヤニングスとのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑰アパートの廊下で歪んで見える女の顏とそれを見ているヤニングスとのあいだは、同一画面に挟まれた2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 ⑱その直後、アパートのベランダで歪んだ顔をした女たちと歩きながらそれを見上げているヤニングスとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑲さらにその間、窓からヤニングスを見ている姪の婿の叔母とヤニングスのあいだも2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。『窓空間』。 ⑳その後、ホテルの入り口に立っている後任のポーターと彼を見ているヤニングスとのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 21駅の時計とそれを見上げているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 22トイレに入って来た客とスープを飲みながらそれを見ているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 23ホテルの前に立っている後任のポーターと彼にお弁当を渡そうとしている娘婿の叔母とのあいだは、3ショット目に後任のポーターの「肩のみ」と同一画面に収められるまで(『奇妙な同一画面』)2ショット内側から切り返されている。主観ショット。 24這いつくばってトイレ掃除をしているヤニングスとドアを開けて彼を呼ぶボーイとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 25トイレへと続くドアを開けるヤニングスと彼を見て叫ぶ姪の婿の叔母とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■①まずトイレへと続くドアを開けて中から恐る恐る顔を出すヤニングスのクローズアップが撮られた後、②キャメラはガラス戸越しにキャメラを正面から見据えている叔母へと切り返され、急接近し、ヤニングスがトイレ係になっていることに驚き絶叫した彼女の吐いた息でガラスを真っ白に曇らせ、③さらにキャメラを見据えて驚愕するヤニングスのクローズアップへと切り返され、④逃げるように去ってゆく叔母へと切り返され⑤うなだれるヤニングスのクローズアップへ切り返されている。ここまでの5つのショットはすべて内側からの切り返しによって分断されそのままこのシーンは終わっている。わずか5つのショットによってつながれたシーンだが、猿がキーキー叫んだようなエミーリエ・クルツのキャメラを真っ直ぐに見据えた動物的なクローズアップへの急接近と彼女の息で真っ白に曇ったガラスはこのためにエミーリエ・クルツはキャスティングされたのだと確信すべき驚愕のショットであり、それが同一画面などまったく存在しない内側からの切りしによって分断されたまま終わることで救いようのない両者の関係を暴露させている。 26その後、うなだれているヤニングスとトイレに入って来て彼を呼ぶ客とのあいだは、5ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。■ヤニングスはウエスト・ショットでキャメラを正面から見据えている。 27三階のベランダの女と彼女に大声で呼ばれて2階のベランダに出て来た女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■三階の女から二階の女へと高速のパンで撮られえている。 28その直後、2階のベランダの女と彼女に大声で呼ばれて三階のベランダから出て来て耳を澄ます女とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。■三階の女の耳へとズームで急接近している。まるでヒッチコックが撮っているようなショット。 29アパートへ続く路地とそれを窓から見ている女とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 30風に揺れるカーテンと帰宅してそれを見ているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 31姪の婿の部屋に入って来たヤニングスと彼を見ている3人(姪の婿、その叔母、姪)とのあいだは、2ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。■姪の婿はキャメラを正面から見据えている。 32夜のロビーで居眠りしているボーイたちとそれを見ているヤニングスとのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 33夜のトイレの夜警と彼の懐中電灯で照らされているヤニングスとのあいだは、2ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ここまでがバッドエンド。内側からの切り返し98ショット、外側からの切り返し7ショット、クローズアップ45ショット。 ▲平行モンタージュ 多く使われている。 ■カッティング・イン・アクション 重複は少ない。典型的は以下。 ①最初に帰宅した翌朝、オーブンからケーキを取り出した娘が立ち上がる時に立つ・引く、が撮られている。 ②その後、出勤するエミール・ヤニングスがアパートの中庭で倒れている子供を助け起こすためにしゃがんだ時。、座る→寄る、が撮られている。 ■フェイドアウト・フェイドイン 多用。 ■オーヴァー・ラップ二重写し 夢の時に。 ■アイリス よく掛かっている。常時ではない。 ■軸 良く動く。トラッキング、トラック・アップ、トラックバック。 ■ズーム 『分断』28で使われている。 ■ロケーション なし。駅のシーンなどはロケーションと見紛うような造りになっている。室内だけでなくアパートの中庭、大通り、路地、などスタジオ撮影であり。 ■トラック・アップ ヤニングスが左遷の辞令書を読む時に。 ■書き割り アパートの中庭からのショットの背景は書き割りのように見える。 ■エプロン 娘がオープンからパンを取り出す時、エプロンを布巾代わりにして取り出している。 ■字幕 字幕は無し。姪がクリームでケーキに『結婚式のお客様に』という文字を書く。 ■煙 ホテルの前を走る車の煙 ■起源 なし ■回想 なし ■罪の意識 あり。左遷されたことに対して。 ■常習性 弱い。 |
98-7-45-多い ■外側からの切り返し ①最初の朝、姪がヤニングスにケーキを持って行った時、『古典的デクパージュ的人物配置』に近い外側からの切り返しが撮られている。 ②『分断』⑤参照 ③トイレで客の靴を磨けないヤニングスが客に文句を言われる時、『古典的デクパージュ的人物配置』から1ショット外側から切り返されている。 ④『分断』28。二階の女がベランダで大声を出して向かいの三階のアパートの女を呼ぶとき、 ⑤姪の婿の家ベルを鳴らした後、ヤニングスから姪の婿へと外側から切り返されている。 ⑥『分断』31参照 ★クローズアップ 大きなクローズアップが多い。 |
1927 | サンライズSUNRISE アメリカ作品 |
6ショットほど。 ①メイドのボディル・ロージングが序盤、2回の回想を終えた後、横を向いていた彼女がゆっくりとこちらを向いてキャメラを見つめる。 ②結婚式を挙げている教会へ入って来た夫婦が後ろ姿でゆっくりとベンチに座った後、キャメラが切り返されると、2人ともキャメラの正面を見つめている。 ③小舟で遭難した妻を捜索している夫が妻の名を叫んでいる時にキャメが接近しショット内モンタージュでクローズアップとなったショット。 ④その直後、流れて来たパピルスを見つけて驚愕する夫のクローズアップ。 ⑤都会の女の首を絞めている夫を遠くから叫んで呼ぶメイドのクローズアップ ⑥妻を救助した男にキスをしたメイドのクローズアップ。 この中で、③~⑥は、よく見るとキャメラのやや脇を見ていて厳密に正面を見ているショットは①と②しかない。その両者ともやや遠景のウエスト・ショットくらいであり、キャメラの正面をはっきり見据えた奇形的なクローズアップはこの作品には存在しない。 |
9.4
381 584 92 リゾート地で暮らす夫(ジョージ・オブライエン)は休暇で都会からやって来た女(マーガレット・リウィングストン)にたぶらかされ妻(ジャネット・ゲイナー)を海でボートから突き落として溺死させるようそそのかされる。浮き輪代わりのピクルスを用意した夫は都会へ行くと偽り妻をボートに乗せて漕ぎ始めるがいざ犯行に及ぼうとして果たせず改心した夫は逃げた妻を追いかけて路面電車で大都会へとたどり着く。だが今しがた自分を殺そうとした夫と打ち解けることなどあるわけがなく妻は夫を拒絶し逃げるように街中を歩いてゆくととある教会へウェディングドレスを着て入ってゆく花嫁を見つめた2人は吸い寄せられるように教会へと入ってゆき、そこで牧師の前で誓いを立てる2人の後ろ姿を見て夫は泣き崩れる。和解した2人は夜の大都会で楽しい時を過ごしてから海をボートで帰ってゆくと嵐に見舞われ夫はピクルスの束を妻の体に縛り付けて抱き合うが波にさらわれ妻と生き別れになって陸へとたどり着く。ボートで妻を探しに出る夫だが流れついたピクルスの残骸が妻の死を暗示させ絶望して戻って来た夫はやって来た都会の女を絞め殺そうとしたその時、、 ■自分を殺そうとした夫との和解がなぜできるのか 実生活ではおそらくあり得ないが映画には「映画語」という物語がある。ふと見かけた花嫁に導かれるように教会へ入り牧師の前で結婚の誓いをしている新郎新婦を2人で見て(内側からの切り返し)、教会には窓から差し込む光の帯が新郎新婦を包み込みジョージ・オブライエンの髪もその光で光っている。おそらくここで、神が2人の仲裁に入った。あるいは、神が夫を赦した。そうした物語が映画的に発生しているのであり、神の仲裁でもなければ自分を殺そうとした人間とその直後、心底あのような楽しい時間を過ごすことはいくら映画とは言えあり得ないだろう。 ■追記 2024.9.24鑑賞 データ再編集 ここで紹介されている『分断』は「別々に撮られている」ことを基本とするので以降、「別々に撮られている」との記入は省略する。奇妙な同一画面については『奇妙な同一画面』とだけ書くことにしてその内容(ロングショットで顔が見えない、後ろ姿であるなど)については今後基本的に記入しない。 30箇所。 ①テーブルの食事とそれを見ている夫(ジョージ・オブライエン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ②テーブルでうなだれている妻(ジャネット・ゲイナー)とそれを見ているメイド(ボディル・ロージング)たちとのあいだは、回想を挟んで2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ③庭で鶏に餌をやっている妻とそれをベッドに座って見ている夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ④犬をあやしてからやってくる妻とそれを小舟の上から見ている夫とのあいだは、3ショット目に外側から切り返されて同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑤犬を小屋へ連れ帰る夫と小舟の上からそれを見ている妻とのあいだは、4ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑥妻を突き落とそうとボートを漕ぐ夫とそれを見ている妻とのあいだは、最初に『奇妙な同一画面』)に収められた後、21ショット目に『奇妙な同一画面』)に収められるまで30ショット内側から切り返されている。■基本的には妻の主観ショットで撮られている。 ⑦その直後、小舟を漕ぐ夫と泣いている妻とのあいだは、6ショット目に『奇妙な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 ⑧その直後、逃げる妻と追う夫とのあいだは、6ショット目で『奇妙な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 ⑨教会の中へ入ってゆく花嫁とそれを見ている夫婦とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑩牧師の前の新郎新婦とそれを見ている夫婦とのあいだは、7ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 ⑪打ち鳴らされる教会の鐘と抱き合う夫婦とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑫美容室に入った後、夫と妻とのあいだは、25ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■ムルナウにしてはこの『分断』は長い部類に入る。 ⑬写真屋で主人(J・ファレル・マクドナルド)が夫婦にポーズをつけた後の主人と夫婦とのあいだは、6ショット目にファインダーの中で逆さまに映っている夫婦と技師の後頭部が同一画面に収められ(『奇妙な同一画面』)、13ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。■さほど強度に『分断』されてはいない。 ⑭その後、首のもげた彫像とそれを見ている主人とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑮遊園地の的当てゲームでボールを投げている夫と飛び出してきた豚とのあいだは、4ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑯その直後、ホールのダンスとそれを見ている妻とのあいだは、8ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑰その直後、逃げてゆく豚とそれを見ている夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 ⑱酒をラッパ飲みしているコックと逃げてきた豚とのあいだは、9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 ⑲その直後、酔っぱらった豚とそれを捕まえに来た夫とのあいだは、4ショット目に『正常な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。主観ショット。 ⑳ホールで踊っている夫婦とそれを見ながらずり落ちて来る女の肩紐を戻している紳士とのあいだは、10ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 21かがり火を炊いてやってくる小舟とそれを小舟の上から見ている夫婦とのあいだは、1ショット内側から切り返されている。主観ショット。 22嵐の中、遠くに見える街とそれを小舟の上から指を差して見ている夫と妻とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 23船底に隠してあるピクルスとそれを見ている夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 24空の雷と小舟とのあいだは、合わせて7ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 25雲の合間から出てきた月と流れついた夫とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 26海へ駆けてゆく人々とそれを窓から見ている都会の女(マーガレット・リヴィングストン)とのあいだは、2ショット内側から切り返されそのまま終わっている。主観ショット。 27船に乗ってゆく夫たちとそれを木の枝の上から見ている都会の女とのあいだは、3ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 28流れて来るピクルスとそれを小舟の上から見ている夫とのあいだは、9ショット内側から切り返されそのまま終わっている。 29帰ってきた夫たちとそれを木の枝の上から見ている都会の女とのあいだは、4ショット目に『奇妙な同一画面』に収められるまで内側から切り返されている。 30都会の女の首を絞めている夫と彼を大声で呼んでいるメイドとのあいだは、7ショット目に同一画面に収められるまで内側から切り返されている。 ■総評 キャメラを正面から見据えた『分断』を撮るタイプの監督ではない。『分断』は多く撮られているが会話に基づく『分断』は撮られておらず、そもそも会話に基づく切り返しがまったく撮られていない。AとBとが向かい合って会話するシーンは都会の女が湿地帯で夫に妻の殺人をほのめかすシーンくらいで極めて少なく、その場合でもそれを内側から切り返して撮るということはなく、街における歩きながらの夫婦の会話にしても切り返しも字幕も入らない。そうした視覚的な画面の連鎖が「192」という内側からの切り返しを「少ない」と感じさせる大きな原因となっている。 ■軸 基本的に動く ■ショット内モンタージュ ①ジャネット・ゲイナーがボートに乗るため遠くから歩いて来る・同じところを犬が駆けてやってくる。 ②湖をボートで捜索しながら妻の名を読んでいるジョージ・オブライエンがボートごとクローズアップになるまで近づいてくる。 ■パンフォーカス オープニングの海岸の手前の水着の女性と奥の砂浜とが奇形的な(典型的な)パンフォーカスで撮られている。 ■字幕 極めて少ない ■起源 なし ■回想 ①新婚時代の仲の良い2人を近所の女が回想する ②男が漂流するジャネット・ゲイナーを助けたシーンを回想する ■罪の意識 夫にあり ■常習性 弱い。「前科4犯」。改心するメロドラマ。 |
192-8 ■外側からの切り返し ①『分断』④ ■ジョージ・オブライエンの真後ろから大きく切り返されたこの外側からの切り返しは視点転換であり『古典的デクパージュ的人物配置』から切り返されたものではない。 ▲クローズアップ ラストシーンで妻を助けた男にキスをした後のメイドのクローズアップが大きくずれていて素晴らしい瞬間が撮られている。 |